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労務管理とは?基礎知識から起こり得る問題と対応まで解説

経営課題事例

2023-12-05

「労務管理」をテーマに、意味や目的などの基礎知識から、具体的な業務、労務管理に必要なものや労務管理上起こりうる問題とその対応まで、経営者向けに解説します。

目次

会社における労働を円滑に回すために行う「労務管理」は、事業継続を左右する要素です。

本記事では経営者向けに、労務管理とは何か、その具体例や基本となる法律、労務管理に必要なものの他に、副業やテレワークなど労務管理で起こりうる問題から、労務管理に関するよくある質問までを解説します。

1.労務管理の基礎知識

労務管理とは、組織が掲げた方針に従い、従業員がより適した労働を行えるように、労働環境を整えることを意味します。

なお、労務管理は英語で「labor management」または「labor control」と表現し、どちらの訳も「労働」を管理する意味合いを持ちます。

会社における労務管理の目的は、国の法律や労働組合などが掲げたルール、会社の就業規則を守り「労働者」の基本的な権利を守ることです。

労務管理業務の具体例

労務管理業務とは、各法令によって会社の管理職(管理監督者)に義務付けられた次の仕事内容を指します。

管理監督者における労務管理の業務一覧

労働条件の把握と管理

 

法定の労務管理義務として、最低限、次の項目は従業員へ契約時に明示した上で、実態を把握し、労働条件が守られていない場合は是正する必要があります。

  • 労働契約の期間
  • 契約更新のルール
  • 仕事をする場所や内容
  • 仕事の始めと終わりの時刻
  • 残業の有無
  • 休憩時間
  • 休日・休暇
  • 交替制勤務のローテーションなどの働き方
  • 賃金の決定
  • 計算と支払いの方法
  • 締切と支払日の時期
  • 退職に関するルール

3安全衛生及び健康・メンタルヘルス管理

 

「労働衛生の3管理」として、作業環境管理・作業管理・健康管理を行い、過労死や労災を防止する必要があります。

  • 法定の健康診断やストレスチェックの実施
  • 必要に応じて医療機関に連携しての療養支援
  • パワハラ、セクハラなどのハラスメントの防止や啓発活動

福利厚生管理

 

次のように従業員の属性ごとにある需要を把握した上で、対応する福利厚生制度の管理・見直しをし、生活と仕事の両立支援を行います。

 

従業員の属性ごとにある需要

対応する福利厚生制度

子育て支援

育休手当や育休取得推進活動など

介護支援

介護休暇や在宅勤務制度など

家族のいる者への支援

家族手当・住宅手当など

入社間もない者への支援

住宅手当・家賃補助など

幅広く需要を満たす「働き方」の選択肢の提供

在宅勤務制度(テレワーク制度)、フレックス勤務制度や週休3日制など

心身の健康サポート

人間ドック、食事手当などのランチサポート、ジム費の補助などの運動サポート、リフレッシュ特別休暇、社員旅行、ワーケーション・ブレジャー制度のような旅行サポート

老後や退職後のサポート

退職金制度、企業型DC・財形貯蓄などの資産形成サポートなど

なお、労務管理ではなく、担当者レベルで行う労務の事務的な仕事内容は次のとおりです。

担当者レベルで行う労務管理の業務一覧

事務的な仕事

 

  • 社会保険の手続き(健康保険、厚生年金保険、介護保険、労災保険の加入や報告など)
  • 納税関連の手続き(従業員の名簿や賃金台帳の作成、労働時間の記録といった従業員の勤怠管理、給与計算、年末調整など)
  • 就業規則の管理(新規作成、法令や社内方針に沿っての変更など)
  • 福利厚生制度の運営(制度の新設や維持、見直し、廃止の検討など)
  • 安全衛生管理施策の立案と実施(事業所ごとの安全施策状況と各業務フローの把握と是正、法定健康診断やストレスチェックなど)

労務の仕事内容の詳細については次のコンテンツで詳しく解説しています。
労務の仕事内容とは?人事や総務との役割の違いを解説

なお、表内でご紹介した福利厚生に関連する記事については次のコンテンツで詳しく解説しています。

福利厚生で健康支援が重要視される理由や制度と施策例を解説

リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説

福利厚生の休暇とは?種類から週休3日制まで基礎知識を解説

福利厚生のレジャーの位置付けはブレジャー制度で変わる?

企業型DCを導入する方法は?個人型DCや退職金制度との違いを解説

財形貯蓄とは?企業や従業員のメリットとデメリットを解説

会社の労務管理に必要なもの

会社の労務管理に必要なものは次のとおりです。

  • 企業戦略や経営方針を踏まえた労務管理の指針
  • 労務管理システム
  • 法令を含めた労務知識があり、統括できる管理職(管理監督者)

労務管理は、国の法令による原則と、会社ごとの就業規則を根拠に行います。

なお、労務管理システムは企業規模が小さいなど目の行き届く場合は必要ではありませんが、全体の管理が難しい会社なら必須です。

また、労務管理は管理職が行う必要がありますが、管理監督者として認められるのは「経営者と一体」と認められる執行役員、または同等の権限を持つ者です。
参照:労働基準法(労基法)第41条2号|e-Gov

労務管理を行う管理監督者については次のコンテンツで詳しく解説しています。
管理職なら労務管理をする?管理監督者の義務と必要なスキル

労務管理の基本となる法律

労務管理の基本となる法律は次のとおりです。

労働管理に関係する主要な法律一覧

法律の名称(略称)

概要

労働基準法(労基法)

従業員の人としての生活保障を目的とし、労働条件の最低基準を定める。

労働基準法で定めた内容を実行するための細則は「労働基準法施行規則」(労基法施行規則)。

労働安全衛生法(安衛法)

職場の安全と従業員の健康の確保を目的とし、労働環境の基準を定める。

労働安全衛生法で定めた内容を実行するための細則は「労働安全衛生法施行令」(安衛令)。

労働者災害補償保険法(労災保険法)

労働による傷病(労災)を補償する「労災保険」について定める。

労働契約法

経営者が従業員を雇用する際に締結する「労働契約」について定める。

雇用保険法

従業員が失業や休業した際に給付金の支給や、再就職などをサポートする「雇用保険」について定める。

労働保険の保険料の徴収等に関する法律

労災保険や雇用保険などの労働保険の料金徴収事務について定める。

健康保険法

従業員本人(被保険者)とその家族(被扶養者)が病気や怪我をした際の医療給付金の支給や、出産・病気などで働けなくなった際の手当金の支給について定める。

国民年金法

20歳以上60歳未満の日本国民は必ず加入しなければならない公的年金「国民年金制度」について定める。

厚生年金保険法

会社員や公務員が加入する公的年金「厚生年金制度」について定める。

次世代育成支援対策推進法(次世代法)

少子化対策として経営者が努めるべき、育児と仕事の両立支援について定める。

女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)

女性が活躍できるよう、経営者が努めるべき仕事と生活の両立支援について定める。

*表内のリンクの出典は全てe-Gov

2.労務管理で起こり得る問題

労務管理で起こり得る問題は大きく3つに分かれます。

  • 経営者と従業員の間のトラブル(労働争議や労使紛争など含む)
  • 従業員同士の職場のトラブル
  • 会社の人事担当者と従業員になりたい学生や就活生とのトラブル

従業員の過労や不当処分のような労働に関する問題はもちろん、セクハラやパワハラのような職場における従業員同士のトラブル、まだ従業員になる前の採用時のトラブルなども含まれます。

主な会社の労務問題については次のコンテンツで詳しく解説しています。
労務問題とは?意味と具体例と起こさないようにするポイントを解説

なお、労務管理上で問題が起こりうる福利厚生のトレンドとして、テレワーク・副業・非正規社員についての対応について解説します。

テレワークへの対応

職場以外でインターネットを通じて勤務する「テレワーク制度」の場合、管理者のいるシェアオフィスやコワーキングスペースなどの指定の場所で勤務するケースは問題ありませんが、在宅勤務をするケースでは、従業員の個々の作業環境について労務管理を行うことになるため、対応が難しくなる可能性があります。

在宅勤務を行える環境を整えるためには、ノートパソコンやモニターなどの購入や貸与、リース・レンタルが必要ですが、費用負担については国税庁の指針をもとに行う必要があります。
参照:在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)[PDF]|国税庁

テレワーク制度(リモートワーク)については次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説

安全衛生管理の観点で言えば、テレワークによって通勤がなくなるため、従業員の運動不足を慢性化させる可能性があります。

そもそも、国が奨励する運動習慣は「週に2回以上、1回30分以上、息が少しはずむ程度の運動を1年以上継続」です。
参照:健康日本21(身体活動・運動)|厚生労働省

通勤手段によっては社員の運動習慣がついていた可能性もあるため、運動習慣を身につけさせる施策が求められます。
福利厚生で社員の運動不足解消をサポートするには?取組事例を解説

副業への対応

副業のやり方によっては、副業の方の勤務状況を管理する労務管理の法的義務があります。

例えば、副業の方で従業員が個人事業主として業務委託を受ける場合、法令上は本業の方で勤務状況の管理を行う必要がないケースと言えます。

個人事業主は「労働者」とみなされないため、労働基準法の対象外で、勤務時間は通算されないからです。

一方、副業として別の会社に従業員として労働契約を結ぶケースでは、労働基準法上の労働時間が合算となるため、労務管理の必要があります。
参照:労働基準法(労基法)第三十八条(時間計算)|e-Gov

労働契約で取り決めた所定時間外の勤務があり得る場合、本業と副業のどちらかの会社で残業代を支払う義務が発生するため、事前の調整が必要です。

ただし、どのケースであっても、安全衛生管理の法的義務はあるため、副業をする社員が過労にならないよう、労働時間の申告を行わせることが推奨されます。

副業の労務管理については次のコンテンツで詳しく解説しています。
副業や兼業を認めると労務管理はどうなる?ガイドラインをもとに解説

派遣など非正規社員への対応

パート・アルバイト、派遣社員などの非正規の社員が、正規の社員と同様に働くケースは、勤務形態による社員の種別による福利厚生に待遇差がみられる場合、「同一労働同一賃金」の原則により不合理な待遇差とみなされ、労務管理業務として是正する必要があります。
参照:同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)第3 短時間・有期雇用労働者 4.福利厚生 p.13~15|厚生労働省

なお、職務内容や勤務条件による待遇差は合理的な待遇差として認められる傾向がありますが、給食施設や休憩室、更衣室などの福利厚生施設の利用や、作業管理上必要なものとして支給している備品などの配付について制限がある場合、不合理な待遇差とみなされる傾向があります。

また、社員から説明を求められた場合、どういう基準で待遇差が設けられているのかの説明責任があるため、社内にいる社員の種類や待遇差の実態を把握しておくことが求められます。

社員の種類による福利厚生の待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
正社員の福利厚生と待遇差がある従業員がいるとき必要な対応とは?

3.労務管理に関するよくある質問(FAQ)

労務管理に関するよくある質問として、次の内容を解説します。

会社の管理職は皆、労務管理を行うのか?

労務管理は資格がないとできないのか?

労務管理の基本の用語を教えてください

会社の管理職は皆、労務管理を行うのか?

法令上の「管理職」と、会社における「管理職」とで定義が異なることから誤解される傾向がありますが、会社で「管理職」と呼ばれていても、プレイングマネージャーとして現場で活躍する者には、労務管理の義務はありません。

いわゆる「名ばかり管理職」と呼ばれるもので、複数の民事裁判の事例からも、労働基準法で労務管理の法的義務のある「管理監督者」とは認められていません。
参照:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために(PDF)|厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署

労務管理を行う管理監督者については次のコンテンツで詳しく解説しています。
管理職なら労務管理をする?管理監督者の義務と必要なスキル

労務管理は資格がないとできないのか?

会社の労務管理の仕事は知識さえあれば、資格がなくてもできます。

ただし、労務管理の一部の業務については、専門性が高く対応が難しい場合、顧問の社労士に委託するのが一般的です。

厚生労働省管轄の人事・労務管理を取扱う国家資格「社会保険労務士」(社労士)は「社会保険労務士法」の第二条で業務の詳細が定められています。
参照:社会保険労務士法 第二条(社会保険労務士の業務)|e-Gov

社労士の独占業務に当るのは、第二条にある1号業務と呼ばれる「手続き代行」と、2号業務と呼ばれる「帳簿作成」です。

社労士は有償業務独占資格と呼ばれますが、「有償業務独占」とは、対価として報酬を受け取らなければ、資格のない者でも業務が行えることを意味します。

例えば、社労士資格を持たない社内の労務管理担当が通常の給与のまま(特別な報酬を受けないまま)所属する会社の当事者として帳簿作成、手続きを行うことは問題ないと考えられます。

また、将来的に行政への申請の自動化が進んだ場合、労務管理システムの利用を前提に、必要事項を手順通りに入力すれば帳簿作成と手続きが自動で行えるのであれば、専門家への委託なしに遂行できる可能性はあります。

ただし、当然ではありますが、資格を持たない者が行う作業である以上、社労士と同等の知識が保証されていない以上、過去に提出した書類の微細な変更など、簡易かつ定型的な内容に限定した方が無難と言えます。

労務の手続きによって損害が起こった場合、一般的な社労士は労働社会保険諸法令関係の手続きでのトラブルに備えた社会保険労務士賠償責任保険に加入し、損害補償できますが、資格を持たない従業員が行う場合は補償が受けられません。

なお、社労士の独占業務は、法律事務全般を取扱う国家資格「弁護士」の有資格者でも行えるため、裁判になることが予想される労務問題のケースなどは顧問の弁護士に委託します。

ちなみに、労務管理やマネジメントなどの民間資格は、労務管理に関連する一定の知識があると示せても、労務管理の業務に必須のものではありません。

労務管理の基本の用語を教えてください

労務管理で押さえておくべき基本の用語は、会社の業界や業種によっても異なります。

ただし、国の法令が定める「労働者の権利」である法定福利厚生の部分は共通しているため、法定年次休暇や社会保険など押さえておきましょう。

法定福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
法定福利厚生とは?種類や費用負担を解説

法令改正など労務管理のトレンド傾向を対策したいのであれば、まず政府提言の「働き方改革」について福利厚生の視点で把握しましょう。

働き方改革と福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
働き方改革を推進する福利厚生とは?取組事例やポイントを解説

安全衛生管理については業界や業種の特性が顕著です。

定期健康診断とは別に、特定業務従事者の健康診断を受ける従業員のいる業界や業種の場合、心身の健康を害するリスクのある業務について知っておく必要があります。

健康診断については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の健康診断とは?種類や対象社員、経費の計上方法を解説

福利厚生としてのメンタルヘルスケアについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生でメンタルヘルスケアできる?基本から施策や制度例まで解説

その他にも、安全衛生に関連するキーワードは押さえておいた方がよいでしょう。

例えば「労働衛生の3管理」は作業環境管理、作業管理及び健康管理の3管理を指しますが、総括管理と労働衛生教育を加え、5管理とするケースもあります。

時間外及び休日の労働について定める労使協定「36協定」(読み方:さぶろくきょうてい)は事業所単位で締結する必要あります。

詳しく知りたい方は厚生労働省のサイトにある「安全衛生に関する用語」の一覧を参考にしてください。
参照:安全衛生に関する用語 - 職場の安全を応援する情報発信サイト「職場のあんぜんサイト」安全衛生キーワード > 全用語一覧|厚生労働省

(執筆 株式会社SoLabo)

生23-4210,法人開拓戦略室

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