記事サムネイル

福利厚生の健康診断とは?種類や対象社員、経費の計上方法を解説

経営課題事例

2022-12-19

「福利厚生の健康診断」をテーマに、福利厚生における健康診断が法的義務である理由、健康診断の種類と対象となる社員、健康診断の費用を経費に計上する方法、人間ドックとの違いや役割分担について経営者向けに解説します。

目次

福利厚生の健康診断は、法律で実施が定められる企業の義務です。

なぜ法律で従業員に定期健診を受けさせるのが法的義務になっているのか、健康診断にはどのような種類があるか、対象となる社員や条件、関連費用を経費計上する方法など、福利厚生の健康診断についての基礎知識をおさえましょう。

また、健康診断と似た概念の特定健診や人間ドックとの役割の違いについても解説します。

従業員の健康管理や、健診のコストパフォーマンスが気になる経営者の方はぜひ最後までご覧ください。

1.福利厚生の健康診断は企業の法的義務

従業員の健康状態を定期的に調べて病気を早期発見し、治療につなげられるよう、健康診断は企業が提供する法的義務のある福利厚生です。
参照:労働安全衛生法 第六十六条(健康診断)|e-Gov

なお、定期健康診断(定期健診)以外に、業務を通じて従業員が健康を害する可能性がある業種については、特定の検査項目を調べる健康診断が別途あります。

どちらの種類の健康診断も「ただ健診として従業員を検査して終わり」ではなく、規定の検査結果を従業員本人に通知し、適切な指導や措置を行い、国に報告することまでが法的義務として求められます。
参照:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省

また、どの健康診断も事業者の費用負担で実施します。
参照:健康診断Q&A - Q2 :定期健康診断の費用は誰が負担すべきですか|厚生労働省

必要な健康診断について不明点がある場合、管轄の都道府県労働局・労働基準監督署への相談が可能です。

2.健康診断の種類と対象となる社員

健康診断の種類と対象となる社員をまとめると、次の表のとおりです。

表を見ると、健康を害しやすい特定の業務についている社員は健康診断を受ける頻度が高いことがわかります。

健康診断の種類と対象となる社員の一覧

健康診断の名称

対象となる社員

受診するタイミング

備考(法的根拠など)

雇入時の健康診断

常時使用する労働者

従業員を雇い入れた時

労働安全衛生規則(安衛則) 第43条(雇入時の健康診断)

定期健康診断

常時使用する労働者(「特定業務従事者」を除く)

1年以内ごとに1回

労働安全衛生規則(安衛則) 第44条(定期健康診断)

特定業務従事者の健康診断

労働安全衛生規則第13条第1項第3号に掲げる、強烈な騒音を発する場所における業務や深夜業、有害物を取扱う業務など健康を害するリスクのある業務に常時従事する労働者

左記業務への配置替え時
6カ月以内ごとに1回

労働安全衛生規則(安衛則) 第45条(特定業務従事者の健康診断)

海外派遣労働者の健康診断

海外に6カ月以上派遣する労働者

海外に6カ月以上派遣時、または帰国後国内業務に就かせる時

労働安全衛生規則(安衛則) 第45条の二(海外派遣労働者の健康診断)

給食従業員の検便

事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者

従業員を雇い入れた時、または配置替え時

労働安全衛生規則(安衛則) 第47条(給食従業員の検便)

役員は健康診断の対象か?

役員に対する健康診断実施の義務は定められていません。

ただし、事業に従事する可能性がある役員であれば、健康診断の対象になります。

アルバイト・パートなど非正規社員は健康診断の対象か?

アルバイト・パートなど非正規の社員でも「常時使用する労働者」の条件に該当すれば、企業は健康診断を受けさせる義務があります。

一般健康診断を実施すべき「常時使用する短時間労働者」とは、次の(1)と(2)のいずれの要件をも満たす場合としています。

(1)期間の定めのない契約により使用される者であること。なお、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者。(なお、特定業務従事者健診<安衛則第45条の健康診断>の対象となる者の雇入時健康診断については、6カ月以上使用されることが予定され、又は更新により6カ月以上使用されている者)

(2)その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。

上記(1)と(2)のどちらも満たす場合、常時使用する労働者となりますが、上記の(2)に該当しない場合であっても、上記の(1)に該当し、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上である者に対しても一般健康診断を実施するのが望ましいとされています。

引用元:よくあるご質問 > 労働安全衛生関係 > Q16.一般健康診断では常時使用する労働者が対象になるとのことですが、パート労働者の取り扱いはどのようになりますか?|厚生労働省 東京労働局

なお、健康診断の目的を考えると、上の指針で示される条件に該当しないなど法的義務ではないものの、受診が望ましい従業員には、受診させるケースがあります。

その理由としては、福利厚生の不合理な待遇差があると是正の対象となり、待遇差の説明を求められたら企業に説明義務が発生するためです。
参照:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法の対応~(業界共通編)

なお、社員の種類による福利厚生の待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
正社員の福利厚生と待遇差がある従業員がいるときに必要な対応とは?

3.健康診断の費用を経費に計上するには?

法定の健康診断の費用は企業が負担するため、福利厚生として認められる健康診断を行った場合、一般的には福利厚生費として計上できます。

健康診断の費用を経費に計上するには、前提として「対象の健康診断が福利厚生として認められる内容である」必要があります。

健康診断が福利厚生と認められる条件

健康診断に限らず、福利厚生の原則として「均等待遇」と「社会通念上、相当」であることが福利厚生として認められる条件です。

福利厚生の原則など、福利厚生の基本については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生とは?定義やメリットを経営者向けにわかりやすく解説

例えば、次のケースは福利厚生として経費に認められない可能性があります。
・役員のみを対象に、特別な健康診断を行うケース
・社員の家族を対象に、健康診断を行うケース

役員のみに受けさせる場合は「均等待遇」の福利厚生の原則から外れる他、事業に従事しない役員には一般的に健康診断の実施義務はないため、社会通念上、相当であると認められない可能性があります。

また、従業員本人以外を対象にする健康診断は社会通念上、相当と認められない可能性があります。

福利厚生として認められるには「健康診断の対象が全社員に対してで、年齢や属性に対して一律の検査項目であること」が重要なのです。

また、法定の健康診断の診断項目が法定のとおりに行われている、または追加した検査項目が社会通念上、相応で常識的な範囲内である必要もあります。

例えば、検査項目の多い「人間ドック」を健康診断として行う場合、従業員が30歳や40歳などの節目に限定して行うのであれば常識的な範囲とされますが、人間ドックを健康診断として毎年実施するのは過剰と考えられるため、福利厚生費で計上できない可能性があります。

他にも、企業から従業員への金銭の支給は福利厚生として認められない傾向があるため、従業員に前もって金銭を支給して健康診断を受けさせるやり方では、福利厚生費として計上できない可能性があります。

従業員に外部の医療機関を利用して健康診断を受けさせる場合、企業が医療機関を指定して直接費用を支払えるようにするか、従業員が支払った後でかかった費用を精算させるのが一般的です。

なお、福利厚生のアウトソーシングサービスでカフェテリアプランを導入している場合、メニュー内に任意選択できる健康診断サービスを利用したケースでも、費用分は福利厚生費に計上できます。
参照:カフェテリアプランによる医療費等の補助を受けた場合|国税庁

ただし、カフェテリアプランはサービス内容によって福利厚生費にできるケースと、できないケースがあり、カフェテリアプランのポイント分の費用を全て福利厚生費に計上できるわけではないため、注意が必要です。
参照:カフェテリアプランによるポイントの付与を受けた場合|国税庁

健康診断中の社員に賃金は支払う?

健康診断を受ける間は労働時間とは定めておらず、賃金については定められていないため、健康診断中を業務時間として扱うかどうかは企業によって異なります。

一般的には、健康診断は就業時間中に行うことと、その間の賃金についても、会社が負担することが望ましいとされます。

 

ただし、健康診断の中でも「特殊健康診断」を受ける間は労働時間であると法的に定められており、賃金の支払いが必要です。
参照:よくある質問 > 健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?|厚生労働省

4.特定健康診査(特定健診)との役割の違い

「特定健康診査(特定健診)」は「メタボ健診」とも呼ばれる、40歳から74歳までの医療保険加入者に対して生活習慣病の予防のために行う健康診断です。
参照:高齢者の医療の確保に関する法律|e-Gov

メタボリックシンドロームに注目した健診結果から、保健師や管理栄養士などが生活習慣を見直す保健指導を行う特徴があります。
参照:特定健診・特定保健指導について|厚生労働省

なお、「特定健康診査(特定健診)」と似た表現として、労働安全衛生法で定められた「特定業務従事者の健康診断」がありますが、全くの別物ですので混同しないように注意が必要です。

「特定健康診査(特定健診)」は保険者が実施するため、健康保険事業の運営主体である健康保険組合が実施する傾向があり、企業は直接的に費用負担しない可能性があります。

健康保険など、福利厚生の種類については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の種類には何がある?法律や会社での種別の一覧を解説

5.人間ドックとの役割の違い

「人間ドック」は法定福利厚生の定期健康診断や、40歳以上の特定健診で指定される検査項目を上回る健康診断サービスであり、法定外福利厚生に当たります。

定期健康診断も、特定健診も、人間ドックも、定期的に受けることで、隠れた病気の発見や進行を未然に防ぐ役割は同じです。

ただし、人間ドックは他の健診よりも検査項目数が多い分、費用も高額で検査の手間も時間もかかり、従業員全員に毎年人間ドックを受けさせるのは現実的な運用ではありません。

加齢が健康状態を悪化させるひとつの要因(*)となるため、一般的には30歳、40歳など年齢がある程度あがったタイミングで、通常の健康診断を人間ドックに置き換える形で取り入れる傾向が見られます。

(*)

「老化に伴う種々の機能低下(予備能力の低下)を基盤とし、様々な健康障害に対する脆弱性が増加している状態、すなわち健康障害に陥りやすい状態」(フレイルティ)
「加齢に伴う筋力の減少、又は老化に伴う筋肉量の減少」(サルコペニア)

引用:審議会資料「3 高齢者」|厚生労働省

人間ドックを含め、福利厚生における健康サポートについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生で健康支援が重要視される理由や制度と施策例を解説

(執筆 株式会社SoLabo)

生22-5520,法人開拓戦略室

関連記事

記事サムネイル

社員の種類で福利厚生が違うとどうなる?待遇差の見直し方法を解説

「社員の福利厚生」をテーマに、正規社員と非正規社員、社員の種類という理由だけで福利厚生の待遇差があるとどうなるのか、待遇差の見直し方について...

記事サムネイル

福利厚生とは?定義やメリットを経営者向けにわかりやすく解説

「福利厚生とは」をテーマに据え、定義や分類、メリット・デメリット、主要な福利厚生制度の事例について経営者向けに解説します