会社の管理職は労務管理の義務を負いますが、会社の管理職がそのまま管理監督者として認められる訳ではありません。
本記事では、労務管理を担う管理職の定義、会社の管理職と管理監督者の違い、義務付けられている労務管理、労務管理を行う上で必要な能力・スキルについて解説します。
1.労務管理の義務を負う管理職(管理監督者)とは?
会社の管理職は、社員の賃金などの労働条件や福利厚生制度を管理し、働く環境を調える「労務管理」の義務を負います。
ただし、労務管理の管理監督者として認められるのは、次のような「経営者と一体」と認められる執行役員、または同等の権限を持つ者です。
- 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
- 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
- 現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
- 賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること
引用:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために(PDF)|厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署
管理監督者が労務管理を怠ると、人材流出を招いて事業が滞ったり、トラブルで裁判になったりする可能性があるため、経営を左右する重要な責務と言えます。
管理監督者には、労働基準法が定める労働時間、休憩、休日に関する法令が適用されません。
例えば「1週あたり40時間、1日8時間まで」という労働時間の制約は適用されないほか、時間外や休日勤務の割増賃金を得られません。
ただし、適用除外はあり、管理監督者の社員は深夜勤務時の割増賃金は支払われるほか、法定の年次有給休暇については取得できます。
なお、現場の責任者であっても、プレイングマネージャーとして実働を伴う社員は「名ばかり管理職」と呼ばれ、管理監督者として認められないため、労務管理の責務は発生せず、あくまでマネージャーの職責を果たすことになります。
残業手当がつかないからと会社の管理職をそのまま管理監督者として扱おうとしても、賃金などを含めて「管理監督者」の地位にふさわしい待遇にしなければ認められないので、注意が必要です。
会社の「管理職」と「管理監督者」の違い
会社の「管理職」と「管理監督者」の違いは、厳密な定義があるか否かです。
まず、会社の「管理職」には厳密な定義はありません。会社ごとに社内規程に沿って人員を管理する立場の者を管理対象の範囲や条件などで役職を割り当てているため、会社が違えば管理職の定義も異なります。
一方の「管理監督者」は労働基準法で厳密に定義されています。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
引用:労働基準法(労基法)第41条2号|e-Gov
対象者が「管理監督者」に当てはまるかどうかは、会社ごとに異なる役職名で判断されるのではなく、その職務内容に責任と権限があるか、勤務態様などの実態によって判断されるため、「会社の管理職=管理監督者」ではない点に注意が必要です。
2.管理監督者に義務付けられる労務管理とは?
管理監督者として認められた管理職が行うべき労務管理は細々ありますが、簡単に言えば、「労働基準法をはじめとした各種法令と会社の就業規則に定められる労働に関するルールが守られているか」を確認し続けることだと言えます。
管理監督者に義務付けられる労務管理
労働条件の把握と管理 |
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社員に明示する次の労働に関連するルールが守られているかを把握・管理する
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3安全衛生及び健康・メンタルヘルス管理 |
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次のように社員の安全と心身の健康を管理する
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生活と仕事の両立支援 |
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次のような福利厚生制度によって社員のライフワークバランスを推進する
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「3安全衛生」とは、作業環境管理・作業管理・健康管理の3つの管理対象を指します。「総括管理」と「労働衛生教育」を加えて「5安全衛生」と言われる場合もあります。
参照:労働衛生の3管理 - 家内労働 あんぜんサイト|厚生労働省
なお、労務管理の基礎知識については次のコンテンツで詳しく解説しています。
労務管理とは?基礎知識から起こり得る問題と対応まで解説
福利厚生と健康については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生で健康支援が重要視される理由や制度と施策例を解説
休暇などのワークライフバランスについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の休暇とは?種類から週休3日制まで基礎知識を解説テレワークについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説
その他、労務管理の全体像を知りたい方は次のパンフレットを参考にしてください。
参照:やさしい労務管理の手引き|厚生労働省
労働条件の変更や雇用調整については、特にトラブルに発展しやすいため、配慮が必要です。
次のパンフレットのポイントを参考に、社員と合意を形成し、適切な労務管理を心掛けましょう。
参照:適切な労務管理のポイント(PDF)|厚生労働省
3.管理監督者に必要な能力・スキル
会社における管理職の中でも、管理監督者になる者に必要なスキルは、事業の全体を見ながら労務管理の問題点を洗い出せる能力です。
会社の管理職は一般的に、業務遂行のためのマネジメント能力やリーダーシップ能力、対人の交渉・折衝のためのネゴシエーション能力、わかりやすく表現して伝えるプレゼンテーション能力が最低限求められます。
管理監督者であれば、更に労務管理と関連する各種法令や社内規程を把握できる法務のスキル、経営者と同等レベルに事業の全容を把握した上で、法令改正時には弁護士などの専門家と協力し、会社において適用すべき点を洗い出して是正できる能力は必要でしょう。
更に、企業規模の大きな会社であれば、会社全体を効率的に把握するためのAIやIoTなどのITサービスを活用する能力も求められます。
例えば、次のように公的に提供されている、厚生労働省のWEB診断ツールなどを使いこなす能力が必要です。
参照:事業者のための労務管理・安全衛生管理WEB診断サイト「スタートアップ労働条件」|厚生労働省
(執筆 株式会社SoLabo)
生23-4213,法人開拓戦略室