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労務問題とは?意味と具体例と起こさないようにするポイントを解説

経営課題事例

2023-12-05

「労務問題」をテーマに、労務問題の意味や具体例、労働問題を起こさないようにするポイントについて、経営者向けに解説します。

目次

労務の担当者は、会社の労働に関するトラブル「労務問題」に発展しないよう、法令や就業規則に則り、従業員を採用する時から雇用契約が終わる時まで配慮する必要があります。

本記事では経営者向けに、労務問題とは何か、主な例、労務問題を起こさないようにするにはどうすべきかについて解説します。

1.労務問題とは会社の「労働」に関するトラブル全般

労務問題とは、会社視点で見た際の「労働」に関するトラブル全般を指します。

主要な労務問題の一覧

労務問題の種別

具体例

経営者と従業員の間のトラブル(労働争議や労使紛争など含む)

  • 従業員を働かせすぎる「過重労働」(過労)問題
  • 解雇や雇止め、配置転換、賃金の引下げなどの不当処分の問題
  • 法令改正や経営方針の変更からの労働環境や福利厚生制度など「待遇」の変化に伴う問題

従業員同士の職場のトラブル

  • 上司と部下など職務上の優越的な立場を利用したいじめ・嫌がらせ
    • 性的な話題を振る、身体を触るなどの「セクシャルハラスメント」(セクハラ)
    • 暴力や暴言、過剰な叱責などの「パワーハラスメント」(パワハラ)
    • 妊娠や出産に関連しての暴言や望まない異動など「マタニティハラスメント」(マタハラ)
    • 飲酒を強要するなどの「アルコールハラスメント」(アルハラ)
  • 口喧嘩や傷害事件などの従業員同士の不仲から来る対人トラブル

会社の人事担当者と従業員になりたい学生や就活生とのトラブル

  • 内定取り消しなどの不当処分の問題
  • 採用決定権を持つ優越的な立場を利用した嫌がらせ(セクハラ・パワハラ)

なお、労務問題は従業員の採用から雇用契約終了まで起こり得ます。

雇用フェーズごとの主な労働問題

段階

主な労働問題

雇用前段階

採用選考過程のトラブルやハラスメント問題、採用内定取り消しに関する問題

雇用期間中

  • 職場内のハラスメント問題
  • 配置転換、人事異動、賃金引下げなど労働条件や待遇の変化に関する問題
  • 過労が原因による従業員の死亡や身体的・精神的障がいなど「労働災害」(労災)の問題
  • 通勤時の事故による従業員の死傷についての「通勤災害」の問題
  • ストライキなど「労働争議」の問題

雇用終了段階

不当解雇や雇止めなどのトラブル

労務問題の解決に取組む場合、労務管理の法的義務を持つ管理職(管理監督者)のもと、まずは労務管理の担当者が職務として社内で対処するのが一般的です。

なお、労務管理の管理職については次のコンテンツで詳しく解説しています。
管理職なら労務管理をする?管理監督者の義務と必要なスキル

社内での対処や問題解決が難しい労務問題の場合、顧問の社会保険労務士(社労士)に相談し、更に裁判に発展しそうなケースには顧問の弁護士に相談します。

なお、労務問題についての相談先に困った場合は、厚生労働省の「総合労働相談コーナー」に相談しましょう。従業員からの相談にも、経営者からの相談にも対応しています。
参照:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省

「労務問題」と「労働問題」の違い

一文字違いの「労務問題」と「労働問題」は、「労働に関するトラブル」というほぼ同義として使われますが、「誰の視点を持っているか」というニュアンスが異なります。

「労働問題」は、従業員視点での労働に関するトラブルを指すのが一般的です。

一方、「労務問題」は会社視点の言葉であるため、「労働問題」で括られる概念も内包しますが、従業員の枠から外れる「求職者」や「退職者」のトラブルも含まれると考えられます。

例えば、社会問題として取り上げられる時には「労務問題」ではなく「労働問題」となるのは、あくまで「従業員」視点で、国や会社が提示する労働条件や環境のもとで働く不利益を論じるためだと言えます。

ただし、文脈によっては「労務問題」と「労働問題」を同義として扱うケースもあるため、注意が必要です。

2.労務問題を起こさないようにするには?

会社で労務問題を起こさないようにするには、前提として、経営者や労務管理担当が、労働三法と呼ばれる「労働基準法」、「労働組合法」、「労働関係調整法」で定められる従業員の権利について理解した上で、人事や福利厚生などの社内体制を作ることが求められます。

参照:労働基準法(労基法)|e-Gov
労働組合法(労組法)|e-Gov
労働関係調整法(労調法)|e-Gov

その上で、労務問題を起こさないようにするポイントは、次のとおりです。

  • 就業規則や雇用契約書を整備する
  • 労災や通勤災害を防止する福利厚生制度を設計する
  • 労務管理システムを導入する
  • オープンマインドで透明性の高い社風をつくる

就業規則や雇用契約書を整備する

会社が労務管理をするには、就業規則や雇用契約書を整備する必要があります。

雇用契約書は給与・勤務時間など従業員の労働条件を定めるもので、書面を交わすことで会社と従業員が労働契約を結んだことになります。

また、就業規則も同じく会社と従業員の間の雇用に関するルールを定めるもので、従業員に10人以上の従業員を雇用する場合、所轄の労働基準監督署に提出が必須です。

優先される順に並べると、次のとおりです。

  • 法律や自治体の条例(強行規定:当事者の意思に左右されず、強制的に適用される公共の秩序に関する規定)
  • 労働協約(労働組合がある場合:労働条件や労働者の待遇について労働組合と会社との間で締結される)
  • 就業規則(従業員10人以上の場合:会社が規定した従業員への待遇。所轄の労働基準監督署に申請して承認される)
  • 労働契約(雇用契約書として会社と従業員が契約を結ぶ)

「法律や自治体の条例」と「労働契約」は、どんな会社や労働条件でも、必ず守る必要があるルールです。

「法律や自治体の条例」の遵守が最優先であるため、もし労働契約が「法律や自治体の条例」のルールに違反するような規定がある場合、その契約の内容は無効になります。

なお、就業規則がある場合、雇用契約書は定型になって「就業規則に準ずる」と表記されることが一般的ですが、もし雇用契約書に労働者の利益につながる詳細な労働条件が書かれている場合、雇用契約書の内容が優先されます。

また、従業員同士の「言った・言わない」のトラブルを防ぐため、辞令の内定から公表までのルールを定める等も必要です。

労災や通勤災害を防止する福利厚生制度を設計する

労災や通勤災害の防止を徹底させるため、就業規則はもちろん、社内ルールや業務フローも、労働基準法をはじめとした法令を遵守する必要があります。
参照:労災補償|厚生労働省

労働環境や安全衛生などが法令遵守されていない、法定で是正対象になっている状態を放置すると、労働災害が起きやすい状況を作ってしまうことになり、経営者に対して刑事責任が問われる可能性があります。

事業主は、労災を防止するため、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理責任を果たさなければなりません。法違反がある場合、労災事故発生の有無にかかわらず、労働安全衛生法等により刑事責任が問われることがあります。

引用:労働災害が発生したとき - 事業者の方へ|厚生労働省

特に従業員が長時間労働を続けた先の「過労死」が労災認定された場合は、明らかに労務管理の不備であるため、次の点は注意が求められます。

従業員の勤怠管理(働いた時間をごまかせないよう、社内システムのログイン時間と勤怠管理システムの勤務時間をつきあわせる)のほか、法定の休暇日数を従業員に休ませ、定期的な健康診断、メンタルヘルスケア施策も重要です。

福利厚生における休暇については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の休暇とは?種類から週休3日制まで基礎知識を解説

福利厚生としてのメンタルヘルスケアについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生でメンタルヘルスケアできる?基本から施策や制度例まで解説

福利厚生の健康診断については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の健康診断とは?種類や対象社員、経費の計上方法を解説

また、「健全な身体に健全な精神」という研究結果があるため、運動の奨励も大切です。

福利厚生における運動については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生で社員の運動不足解消をサポートするには?取組事例を解説

通勤災害は、申請内容と異なる通勤をしていると、通勤災害に認定されない可能性あるため、従業員の自宅と事務所の間の通勤ルートの情報を最新化し、保守する必要があります。

通勤手当の制度で自宅と通勤ルートを把握する他、家族手当や慶弔見舞金など従業員が自身の生活の変化を会社に報告しやすい福利厚生を備えておくことが有効と考えられます。

慶弔見舞金制度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見舞金とは?慶弔災害の種類と相場と制度導入する方法

また、台風や地震などの災害時に無理に通勤しないで済むよう、テレワークなどの福利厚生の導入も有効です。

福利厚生制度のテレワークについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説

労務管理システムを導入する

労務問題を起こさないようにするには、労務管理の担当者が、労務に関係する社内情報を必要なときに一覧できる必要があります。

特に会社の規模や事務所・従業員の数が多い場合、情報を集約できる労務管理システムを導入しなければ、労務管理を効率的に行えません。

労務管理システムには、全ての労務管理を一元管理するタイプと、必要な機能に限定するタイプとに分かれます。

労務管理の一元管理は、主に大企業に見られますが、社内ネットワークでのみ利用できる「業務系システム」として独自に構築します。

労務管理の一部の必要な機能だけに限定する場合は、インターネットがあれば利用できる「クラウドサービス」や「オンラインサービス」を利用します。

どちらを採用する場合でも、労務管理システム導入時には次のとおり、導入目的を定め、定期的に振り返りを行うことが重要です。

  • システムの導入目的を明確化し、求める機能が何か、予算などの要件を絞る
  • システム使用時に要求される環境や仕様を調べ、要件を満たすかを確認する
  • 要件の合うシステム提供会社へ資料請求と試用を申し込む
  • システムを試用し、採用した場合のリスクや業務フローの変更点があれば洗い出す
  • システムの導入に際し、社内に告知や教育、マニュアル整備を行う
  • 求める機能が充分に使えているか評価をして定期的に振り返る

振り返りにより、導入目的や求める要件を満たさないなどの問題がある場合、改善に取組み、ケースによっては別の労務管理システムの導入検討に入る必要があるでしょう。

オープンマインドで透明性の高い社風をつくる

労務問題の未然防止には、従業員満足度を高める福利厚生制度を設け、オープンマインドな透明性の高い社風をつくることが重要です。

従業員満足度を高める福利厚生制度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
従業員満足度が高くなる福利厚生とは?

全ての従業員が何かあった際に不満を言える、改ざんや隠蔽をしない社風をつくると、労務問題に発展する前のささいなトラブルを発見しやすくなり、労務管理がしやすくなります。

なお、対外的な透明性を高めるため、社報に載せるような情報をSNSで社外に発信するなどすると、採用時の広報になるだけでなく、会社としての信頼性を高めることにもつながります。

また、時勢にあった待遇になっているか、福利厚生制度の見直しを定期的に行うことも大切です。

福利厚生の見直し方については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見直しはどう行う?時期とやり方について解説

例えば「働き方改革」などの政府の指針を参照すると、時勢にあった福利厚生の見直しが行えます。

福利厚生と働き方改革については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の休暇とは?種類から週休3日制まで基礎知識を解説

(執筆 株式会社SoLabo)

生23-4212,法人開拓戦略室

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