福利厚生として社員に運動習慣を身につけさせ、健康維持を推奨する企業の取組が多様化しています。
リモートワークや在宅勤務の浸透によって「社員が通勤せず、自宅から出る機会が減少傾向にある」といった新しい生活様式が当たり前になる中、運動不足解消の手段が求められるようになったためです。
運動で従業員の心身の健康を保ちたい経営者は、ぜひ最後までご覧ください。
1.福利厚生での運動不足解消が求められる背景
2020年に厚生労働省の専門家会議で提言された「新しい生活様式」によって、企業ごとにリモートワークが実践され、オフィスに出勤せず在宅勤務する、出張や会議をオンラインに切替えるなど「社員が動かない」場面が増えました。
通勤や移動中の徒歩など、最低限あった運動習慣がなくなった分、運動不足が深刻化し、社員全体の健康状態の悪化が予想される事態となっています。
一般的に、運動習慣があれば各種病気にかかりにくくなり、運動そのものもメンタルヘルスケアにも有効(*)とされます。
(*)
引用:健康日本21(身体活動・運動)|厚生労働省
全社員の健康不安は、企業の事業継続にも影響する可能性があるため、経営戦略として福利厚生で社員の運動不足解消に取組む必要があると言えるでしょう。
なお、運動以外の健康サポートについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生で健康支援が重要視される理由や制度と施策例を解説
メンタルヘルスケアの基本については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生でメンタルヘルスケアできる?基本から施策や制度例まで解説
そもそも社員に身につけさせたい「運動習慣」とは?
そもそも「運動習慣」とは、毎日のようにランニングや特定のスポーツに取組むことを指すものではありません。
厚生労働省でも、「運動習慣のある者」について「週に2回以上、1回30分以上、息が少しはずむ程度の運動を1年以上継続する者」と定義しており、ケースによっては毎日の通勤過程で達成している社員もいたと考えられる内容です。
運動は、余暇時間に行なうものであり、疾病を予防し、活動的な生活を送る基礎となる体力を増加させるための基本的な身体活動である。爽快感や楽しさを伴うものであり、積極的な行動として勧められる。
運動習慣は頻度、時間、強度、期間の4要素から定義されるものであるが、国民栄養調査では運動習慣者を「週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている者」としており、(中略)
強度としては、一般に中等度の運動が勧められる。自覚的には「息が少しはずむ」程度
引用:健康日本21(身体活動・運動)|厚生労働省
いきなり激しく運動すると運動不足の社員の怪我や事故を招く可能性もあります。
企業としては、運動への興味関心を持たせるきっかけ作りや、30分のウォーキングなどゆっくり動く身体活動を奨励する方針から取組むのがよいでしょう。
その他、社員の身体活動や運動に関する情報を収集するなら、厚生労働省による情報提供サイトが参考になります。
参照:e-ヘルスネット[情報提供] - 身体活動・運動|厚生労働省
2.社員の運動にかかる費用は経費に計上できる?
一般的に、社員の慰労目的かつ全社で行う社内行事と認められれば、社員の運動支援にかかる費用を福利厚生費として計上できます。
参照:No.5261 交際費等と福利厚生費との区分|国税庁
運動に限らず、原則として「均等待遇」と「社会通念上、相当」であることが福利厚生として認められる条件です。
福利厚生の原則など、福利厚生の基本については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生とは?定義やメリットを経営者向けにわかりやすく解説
そのため、運動イベントやセミナーなど会場の関係で参加人数が少人数に限られるケースは、福利厚生として経費に計上するのは難しいと考えられます。
また、社員個人に対して企業が金銭を支給するのも福利厚生として認められない傾向にあるため、運動に使う器具の購入代などを費用補助するケースも、福利厚生としての経費計上は難しいでしょう。
ただし、企業が器具の販売元に金銭を支払っての購入やリース・レンタルで、全社員に「現物支給」するケースは認められる可能性があるため、企業の費用負担額が社会通念上、相当であるかの観点を含めて福利厚生制度の検討が必要です。
なお、福利厚生のアウトソーシングサービスでカフェテリアプランを導入している場合、メニュー内に任意選択できる運動サポートサービスを利用したケースでは、サービス内容によっては福利厚生費に計上できる可能性はあります。
参照:カフェテリアプランによるポイントの付与を受けた場合|国税庁
例えば、費用が「医療費」と認められる健康サポートサービスを利用した場合、「見舞金」と同じ扱いになるため、福利厚生費に計上できます。
参照:カフェテリアプランによる医療費等の補助を受けた場合|国税庁
ただし、スポーツクラブやジムなどの利用料は「医療費」とは認められないため、福利厚生費には計上できません。健康診断の際に運動するように医師から指導されたケースであっても、同様です。
参照:特定保健指導に基づく運動施設の利用料|国税庁
なお、経費による節税など一般的な福利厚生のメリットについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生のメリットとデメリットを経営者の視点で解説
3.社員の運動をサポートする福利厚生の取組事例
社員の運動をサポートする福利厚生の取組事例は次のとおりです。
社員の運動をサポートする福利厚生の取組事例
取組内容 |
概要 |
社外での運動イベントの開催 |
職場とは別の運動できる会場を借り、全社での運動会を開催。 |
社内での運動イベントの開催 |
ヨガやピラティス、ストレッチなど、講師を招いて、室内で行える運動イベントを開催。 |
運動関連の費用補助や現物の提供 |
ジムやスポーツクラブなど、社員個人が運動に取組む場合の費用を補助。ヨガマットやルームランナーなど、運動器具の費用補助や現物支給。 |
運動奨励イベントの開催 |
人が集まらないように運動そのものは個々人で行い、結果で競う運動奨励イベントを開催。 例えば、期間中の歩数を毎日に記録してのウォーキング奨励し、チーム対抗で歩数の結果を競う など。 |
オンラインでの運動指導プログラムの提供 |
オンラインセミナー形式での運動指導プログラムを提供。 例えば、講師を招いてイベント開催、オンライン運動指導プログラムを提供する会社にアウトソーシング など。 |
職場以外で働く選択肢の提供 |
従来の職場での勤務や自宅での在宅勤務以外にも、他の拠点として利用できる「サテライトオフィス」や他の企業とも共有で支える「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」などを活用した多様なリモートワーク制度を実施。 |
ワーケーションやブレジャーの運動機会の提供 |
保養地で仕事と余暇を楽しむ「ワーケーション」制度や、出張先など業務上の移動先を観光機会として活用する「ブレジャー」制度を実施。 |
運動会や運動イベントは新しい生活様式の登場で開催が難しくはなっていますが、屋外や半屋外の会場での開催であれば実現できるものと推察されます。
前の項目でも解説しましたが、全社イベントであれば基本的に福利厚生費として経費に計上できるため、社員間のコミュニケーションの促進を狙って運動会をするのは妥当な判断と言えます。
ただし、会場の制約などで参加人数が限られる運動イベントの場合、福利厚生として認められない可能性があるため、注意が必要です。
なお、在宅勤務などで自宅にいる社員に対しては、スポーツクラブやジムの利用費、ルームランナーなどの購入費などの費用補助を行って運動機会を提供するのが理想ですが、社員への金銭の支給は基本的に福利厚生として認められません。
経費にしたいのであれば、ルームランナーなどの運動器具の現物を企業として支給するなど、やり方を工夫して検討する必要があります。
オンラインヨガなどの講師指導や、運動支援の動画サービスなど、オンラインサービスを活用しての運動機会の提供は「均等待遇」かつ「現物支給」の福利厚生の原則に則っているため、福利厚生費に計上しやすいと考えられます。
ただし、単に運動のやり方を画面越しにレクチャーするだけでは「YouTubeに溢れている動画を見るのと変わらない」と社員に判断される可能性があるため、社員の運動意欲につなげる工夫が求められます。
人が集まるリスクを避けたいのであれば、運動奨励イベントが有効です。運動そのものは個人の活動とし、任意の集団での結果を合計してチーム戦で競争させるようにすると、社員間のコミュニケーション促進につながります。
サテライトオフィスやシェアオフィスなど、従来の職場以外で働く機会の選択肢を与えるのも、「他者の目」を意識させることになるため、社員の運動習慣につながるでしょう。
また、ワーケーション制度やブレジャー制度を導入し、社員個人のレジャーやアウトドアの活動を促すだけでも、社員が運動をするきっかけをつくります。
なお、ブレジャー制度を含め、福利厚生とレジャーについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生のレジャーの位置付けはブレジャー制度で変わる?
(執筆 株式会社SoLabo)
生22-5523,法人開拓戦略室