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進めたい働き方改革! 従業員の多様な働き方を支援する助成金

経営課題事例

2022-01-24

テレワークなど従業員の労働条件に関するニーズは多様化しています。働き方改革関連の助成金の中でも従業員の多様な働き方を支援する助成金を紹介します。

目次

テレワーク(リモートワーク)や副業など働き方が多様化している昨今、労働条件に関する従業員のニーズも多様化してきています。

例えば、オフィスで働くのが当たり前だった頃は、従業員は自分やその家族が出産した場合、長期の育児休業を取得するのが通常でした。

しかし、コロナ禍の中で多くの企業がテレワークの導入に踏み切り、仕事と育児がある程度両立しやすくなった今、「長期の休みは必要ないから、必要に応じて休暇をもらいたい」という従業員が出てくる可能性もあります。

高年齢者について言えば、医療の進歩などによって現役で働ける時間が長くなっている分、「定年前と同じ基準で仕事ぶりを評価してほしい」というニーズが今後高まっていくかもしれません。

副業をする関係で非正規社員になっている従業員の中には、「非正規社員でも他の正社員より業績に貢献しているのだから、もっと待遇を良くしてほしい」と考えている人もいるでしょう。

こうしたニーズにどこまで応えるかは企業次第ですが、少なくとも、多様なニーズに対応できる企業は従業員にとって魅力的です。

そこで、本稿では、働き方改革関連の助成金の中でも、従業員の多様な働き方を支援する代表的な助成金の概要・申請方法・申請のポイントを紹介します。

なお、各章における<>内の数値は、「生産性要件」を満たす場合を表しています。生産性要件とは、直近会計年度の「生産性」(付加価値÷雇用保険被保険者数)がその3年度前と比較して6%以上伸びている、または1%以上6%未満の範囲で伸びており、かつ金融機関から一定の「事業性評価」を得ていることです。詳細は厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

1 両立支援等助成金(出生時両立支援コース/介護離職防止支援コース/育児休業等支援コース)

1)助成金の概要、用途

「休業・休暇制度の見直しにかかるコンサルティング費用」「育児・介護休業中のフォローに入る他の従業員の人件費」など、従業員の育児・介護に関する企業の負担を軽減できる助成金です。

例えば、この助成金を使って育児目的休暇(配偶者出産休暇や子の行事参加のための休暇など、育児に関する目的で利用できる休暇)を導入することで、「テレワークをしているから育児休業は必要ないけど、必要に応じて休暇を取りたい」といった従業員のニーズに対応することができるようになります。

また、コロナ禍においては、収益の落ち込みや働き方の変化(テレワークの導入など)の影響から、周囲を気遣って育児・介護休業などの取得をためらう従業員もいるでしょう。

しかし、そこで経営者や上司などが「企業への負担は両立支援等助成金で軽減するから大丈夫だ」と背中を押してあげると、従業員は安心して休むことができます。

2)助成金を申請できる対象事業者、助成金額

助成金を申請できる対象事業者は、次の各コースの要件を満たす企業です。ただし、介護離職防止支援コースと育児休業等支援コースは、中小企業に対象が限られます。助成金額はコースによって異なります。

1.出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)

【男性従業員の育児休業取得】

1企業当たりの支給対象者数は、1年度につき10人までです。また、2人目以降は、育休日数によって支給額が異なります(個別支援加算額は同じ)。

なお、「個別支援加算」とは、「男性従業員に対し、育児休業中および休業後の労働条件などについて個別に通知する」など、男性従業員の育児休業取得を後押しするための取り組みに対する加算です。

【育児目的休暇の導入・取得】

1企業当たり1回限りの支給です。

2. 介護離職防止支援コース

【介護休業取得・職場復帰】

1企業当たりの支給対象者数は、1年度につき5人までです。

【介護両立支援制度の実施】

1企業当たり支給対象者数は、1年度につき5人までです。なお、介護両立支援制度とは、従業員が仕事と介護を両立できるように企業が実施する取り組み(時差出勤、短時間勤務制度など)です。

【新型コロナウイルス感染症対応特例】

1企業当たりの支給対象者数は、1年度につき5人までです。

介護のための有給休暇(新型コロナウイルス感染症対応)について、所定労働日を前提として20日以上取得できる制度などを設けて従業員に周知し、更に対象となる従業員が当該有給休暇を5日以上取得した場合に支給されます。

3.育児休業等支援コース

【育児休業取得・職場復帰】

1企業当たり支給対象者数は、2人までです(雇用期間の定めのない従業員1人、有期雇用労働者1人)。

なお、「職場支援加算」とは、「育児休業取得者の業務を他の従業員(雇用保険被保険者であるなど一定の要件がある)に代替させる」など、育児休業期間中の職場支援の取り組みに対する加算です。

なお、次項の代替要員確保との併給はできません。

【代替要員確保】

1企業当たりの支給対象者数は、1年度につき10人までで(最初に本助成金を支給決定された育児休業取得者の原職等復帰日から起算して6カ月を経過する日の翌日から5年を経過していない場合に限る)です。

【職場復帰後支援】

制度導入については、子の看護休暇制度、保育サービス費用補助制度のいずれかについて、1企業当たり1回限りの支給です(制度導入のみの場合は申請不可)。

制度利用については、最初の支給申請日から3年以内5人まで支給されます(1企業当たりの上限は、1年度につき子の看護休暇制度が200時間<240時間>、保育サービス費用補助制度が20万円<24万円>まで)。

【新型コロナウイルス感染症対応特例】

1企業当たりの支給対象者数は、1年度につき10人までです(上限50万円)。

小学校等の臨時休業等により子どもの世話をする労働者のために、賃金全額支給の特別有給休暇制度およびテレワーク勤務やフレックスタイム制などの両立支援制度を整備し、特別有給休暇の利用者が生じた場合に事業主に支給します。

なお、従業員1人につき特別有給休暇を4時間取得させることが要件です。

3)助成金の申請方法、申請のポイント

助成金を申請する際は、各コースの 支給申請書 に必要事項を記載し、所轄の労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。問合せ窓口も同じです。

申請して助成金を受け取るために知っておきたいポイントは次の2点です。

  • 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)で適用される個別支援加算は、男性労働者の育児休業の申出日までに個別面談を行うなど、育休取得を後押しする取り組みを実施した場合に支給されます。男性社員の育児休暇を推進したい企業に向きます。
  • 介護離職防止支援コースと育児休業等支援コースは、対象労働者の希望を確認しながら「介護支援プラン」や「育休復帰支援プラン」を作成する必要があります。厚生労働省ではプラン策定のノウハウを持つプランナーが無料で策定支援をする取り組みを行っているので、相談するとよいでしょう。

2 65歳超雇用推進助成金

1)助成金の概要、用途

「高年齢者の評価制度の見直しにかかるコンサルティング費用」「定年引き上げによって延長された年数分の人件費」など、高年齢者の待遇改善にかかる企業の負担を軽減できる助成金です。

例えば、この助成金を使って再雇用後の評価制度を見直すことで、「定年前と同じように仕事ぶりを評価してほしい」といった従業員のニーズに対応することができるようになります。

また、現状、各企業には従業員を65歳まで雇用する措置を講じることが義務付けられていますが、2021年4月よりこれを70歳に引き上げることが努力義務化されました(※)。そのため、この助成金を利用しながら、制度改革を図ることを検討するとよいでしょう。

(※)ただし、フリーランス契約など雇用以外の措置で対応することも可能です。

定年延長や再雇用制度を導入する際の賃金や退職金など、注意すべきポイントについては、次のコンテンツで分かりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。

 定年延長、再雇用時代に求められる注意点を解説

2)助成金を申請できる対象事業者、助成金額

助成金を申請できる対象事業者は、コースごとに要件が異なります。「65歳超継続雇用促進コース」の場合は定年の引き上げや継続雇用、「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」の場合は高年齢者雇用管理整備措置の実施、「高年齢者無期雇用転換コース」の場合は有期契約労働者の無期雇用への転換などの要件を満たす必要があります。

助成金額はコースによって異なります。

1.65歳超継続雇用促進コース

【次の制度のいずれかの実施】

1企業当たり1回限りの支給です。なお、対象となる60歳以上の雇用保険被保険者数と措置内容により金額が異なります。

また、70歳未満の雇用確保制度の導入を行い、2020年度末までに支給申請を行い本コースを受給した申請事業主が、新たに70歳以上の雇用確保制度を導入した場合は、2021年4月以降の助成額から既に受給した額を差引いた額(その額が0円を下回る場合は0円)を助成します。

2. 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

【高年齢者雇用管理整備措置の実施】

初回のみ、経費実費の金額にかかわらず上限額の50万円に助成率を乗じた金額が支給されます。

なお、「高年齢者雇用管理整備措置」に該当する取り組みは、高年齢者を雇用するために実施する能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しまたは導入、健康診断を実施するための制度の導入です。

3. 高年齢者無期雇用転換コース

【50歳以上かつ定年年齢未満の有期雇用労働者を無期雇用に転換】

支給申請年度における対象者の合計人数は、転換日を基準として、1企業当たり10人までです。

3)助成金の申請方法、申請のポイント

助成金を申請する際は、各コースの支給申請書に必要事項を記載し、所轄の高齢・障がい・求職者雇用支援機構都道府県支部に提出します。問合せ窓口も同じです。

申請して助成金を受け取るために知っておきたいポイントは次の2点です。

  • 「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」の申請にあたっては、高年齢者雇用管理整備措置などについて定めた「雇用管理整備計画」を、「高年齢者無期雇用転換コース」の申請にあたっては、無期雇用労働者への転換の実機時期などについて定めた「無期雇用転換計画」を提出し、認定を受ける必要があります。
  • 「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」は、高年齢者雇用管理整備措置を1年以内に行うことが要件となるので注意が必要です。

3 キャリアアップ助成金

1)助成金の概要、用途

非正規社員の賃金制度の見直しにかかるコンサルティング費用、正社員化による人件費増加など、非正規社員の待遇改善にかかる企業の負担を軽減できる助成金です。

例えば、この助成金を使って能力が高い非正規社員の賃上げを図ることで、「雇用形態に関係なく、企業への貢献度によって処遇してほしい」といった従業員のニーズに対応することができるようになります。

また、2020年4月(中小企業は2021年4月)より、「同一労働同一賃金」に関する法規制が強化され、基本給、賞与などの待遇について正社員と非正規雇用労働者の間に不合理な待遇差を設けることが禁止されました。

多くの企業がコロナ禍における経済的な打撃を受けている中、同一労働同一賃金を実現することは容易ではないので、この助成金を活用して負担を軽減することを検討するとよいでしょう。

2)助成金を申請できる対象事業者、助成金額

助成金を申請できる対象事業者は、キャリアアップ管理者(非正規従業員のキャリアアップに主に携わる者)を置き、キャリアアップ計画を作成して、所轄労働局長の受給資格の認定を受けた企業です。助成金額はコースによって異なります。

1. 正社員化コース

【非正規社員を正社員に転換または直接雇用】

有期雇用から正規雇用、無期雇用から正規雇用など、転換ケースによって金額が異なります。また、対象者が母子家庭の母や父子家庭の父の場合、助成金額が加算されます。1年度1企業当たり20人が上限となります。

2. 賃金規定等改定コース

【非正規社員の基本給の賃金規定等を2%以上増額改定】

対象者が何人か(対象者が10人以下の場合)、すべての非正規社員を対象とするかによって金額が異なります。1年度1企業当たり100人が上限で、申請回数は1年度1回のみとなります。

なお、「職務評価加算」とは、賃金規定等改定にあたって「職務評価(従業員の待遇が職務の大きさ(業務内容・責任の程度)に応じたものになっているか把握すること)」を用いたことに対する加算です(1企業当たり1回のみ)。

この他、中小企業については、改定額が3%以上5%未満、または5%以上の増額の場合にも、助成金額が加算されます。

3. 賃金規定等共通化コース

【非正規社員に関して正社員と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成して適用】

1企業当たり1回限りの支給です。

4. 諸手当制度等共通化コース

【非正規社員に関して正社員と共通の諸手当制度を新たに設けて適用または非正規社員を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに設け、延べ4人以上実施】

1企業当たり1回限りの支給です。

なお、「2人目以降の加算(上限20人)」は、対象者が最も多い手当にのみ適用されます。また、「2つ目以降の手当(上限4手当)の加算」は、原則として同時に支給した手当が加算の対象になります。対象となる手当は「賞与」「家族手当」「住宅手当」「退職金」「健康診断制度」の5種です。

5.選択的適用拡大導入時処遇改善コース

【非正規社員について、働き方の意向を適切に把握し、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させるための取組を実施し、当該措置により新たに被保険者とした場合】

1企業当たり1回限りの支給です。

「非正規社員の基本給を2%以上増額した場合の加算」は、基本給の増額割合によって金額が異なります。また、1企業当たりの支給対象者数は、45人までです。

「非正規社員の生産性の向上を図るための取り組み」とは、研修制度や評価の仕組みの導入のことです。

「非正規社員の基本給を2%以上増額した場合の加算」と「研修制度や評価の仕組みを導入した場合の加算」は、共に最長2022年9月30日までの暫定措置です(従業員数により異なります)。

6. 短時間労働者労働時間延長コース

【非正規社員の週所定労働時間を5時間以上延長し、新たに社会保険の被保険者とした場合または週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長するとともに基本給を昇給し、新たに社会保険の被保険者とした場合】

1企業当たりの支給対象者数は、「5時間以上延長、新たに社会保険を適用」「1時間以上5時間未満の延長、処遇の改善、新たに社会保険を適用」の場合を合算して1年度につき45人までです(2022年9月30日までは上限人数を緩和)。

また、「5時間以上延長、新たに社会保険を適用」の場合、2022年9月30日まで支給額が増額されています。

「1時間以上5時間未満の延長、基本給の昇給、新たに社会保険を適用」が支給要件となるのは、2022年9月30日までです。

7.障がい者正社員化コース

【非正規社員の障がい者を正社員に転換】

対象となる障がい者の障がいの度合い、転換ケースによって金額が異なります。支給対象期間は1年間で、最初の6カ月を第1期、次の6カ月を第2期の支給対象期とし、2期に分けて助成金が支給されます。

3)助成金の申請方法、申請のポイント

助成金を申請する際は、各コースの 支給申請書 に必要事項を記載し、所轄の都道府県労働局に提出します。問合せ窓口も同じです。

申請して助成金を受け取るために知っておきたいポイントは次の2点です。

  • キャリアアップ助成金を申請する場合、キャリアアップ計画を作成し、各コース実施日の前日までに提出し、所轄労働局長の認定を受けることが必要です。なお、所轄労働局やハローワークではキャリアアップ計画の作成のサポートも行っているので活用すべきでしょう。
  • 賃金規定等改定コースは、賃金規定等改定にあたって「職務評価」を活用した場合、職務評価加算を受けることができます。職務評価は、同一労働同一賃金の実現にも有効です。厚生労働省ウェブサイトでは、 職務分析、職務評価に関するマニュアル なども公開されているので、これを機に改定を検討するのも一案です。

以上

(執筆 淡河 敏一(おおが としかず) 株式会社アライブビジネス代表取締役 認定経営革新等支援機関)

(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

生21-5744,法人開拓戦略室

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