記事サムネイル

同一労働同一賃金での実務対応のポイントは?

経営課題事例

2022-07-13

法律に違反した場合のペナルティ、正社員とパート等の待遇差の解消方法など、重要なポイントを分かりやすく解説します。

目次

2020年4月1日より「同一労働同一賃金」に関する法規制が強化され、更に2021年4月1日からは中小企業にも適用が開始されました。

これまで雇用形態(正社員、パートなど)に応じて決めてきた待遇を、職務内容などに応じて見直さなければならないため、なかなか取り組みが進まないという経営者も少なくないようです。

しかし、同一労働同一賃金への取り組みを通じて、職務内容などに応じた賃金体系を実現できれば、年功序列などを基本とする従来の賃金体系から脱却できるかもしれません。

実際に同一労働同一賃金を進める中で、法律に違反した場合のペナルティ、正社員とパート等の待遇差の解消方法、福利厚生を見直しながら従業員の採用・定着を図る方法など、重要なポイントを分かりやすく解説します。

1 同一労働同一賃金とは?

同一労働同一賃金とは、「同じ仕事をしている従業員には、原則として同じ待遇を保障しなければならない」という考え方です。

分かりやすく言えば、職務内容など(職務内容、トラブル時に求められる対応、キャリアパスなど)が全て正社員と同じパートがいたら、基本給、賞与、手当などを正社員と同じように支給しないといけないというものです(ただし、成果、能力、経験の違いなどによる待遇差はある程度許容されます)。

派遣社員の場合は労働者派遣法が、パート等(フルタイムの契約社員などを含む)の場合はパートタイム・有期雇用労働法が、同一労働同一賃金の法的根拠となっており、更にこれらの法律に基づく指針として、「同一労働同一賃金ガイドライン」が策定されています。

(参考:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

何やら難しい制度のようですが、基本となるルールは2つ。それが、「不合理な待遇差の禁止」「待遇に関する説明義務」です。

「不合理な待遇差の禁止」とは、職務内容などが同じ従業員は同じ待遇にする(均等待遇)、違う場合は違いの内容に応じた合理的な待遇にする(均衡待遇)というルールです。

例えば、同じ電車通勤なのに、正社員には通勤手当を支給して、派遣社員やパート等に支給しないのは、仮に職務内容などが違っても合理的とはいえないので許されません。

「待遇に関する説明義務」とは、文字どおり派遣社員やパート等に対し、待遇についてきちんと説明をしなければならないというルールです。

例えば、派遣社員やパート等から求めがあった場合、企業は正社員との待遇差の内容・理由などを説明しなければなりません。

なお、派遣社員の場合は、「不合理な待遇差の禁止」「待遇に関する説明義務」を遵守する責任は、派遣元にあります。

2 法改正前後で何が変わった?

「不合理な待遇差の禁止」と「待遇に関する説明義務」、それぞれの法改正の内容を派遣社員、パート、フルタイムの契約社員などに分けて見てみましょう。

まずは「不合理な待遇差の禁止」についてです。

【「不合理な待遇差の禁止」に関する法改正の内容(中小企業の場合)】

(出所:厚生労働省ウェブサイトをもとに作成)

法改正により、派遣社員やフルタイムの契約社員なども均等待遇の対象となりました。また、派遣社員の均衡待遇が「実現できるよう配慮すべきもの」から「必ず守るべきもの」へと格上げされ、パート等の均衡待遇について「待遇の性質・目的に照らして適切と認められる待遇差は不合理に当たらない」旨が明確化されました。

次に「待遇に関する説明義務」についてです。

【「待遇に関する説明義務」に関する法改正の内容(中小企業の場合)】

(出所:厚生労働省ウェブサイトをもとに作成)

(注)賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用、正社員転換の措置などが該当します。

フルタイムの契約社員なども説明義務の対象となります。また、正社員との待遇差の内容・理由(求めがあった場合)の説明義務と、説明を求めた従業員に対する不利益な取扱い(解雇など)を禁止する規定が新設されました。

3 法律に違反した場合のペナルティは?

仮に正社員と派遣社員やパート等の待遇差を見直さなかった場合、ペナルティはあるのでしょうか?

刑事罰について言うと、「不合理な待遇差の禁止」「待遇に関する説明義務」ともに、違反した場合の罰則はありません。

ただし、都道府県労働局から企業(派遣社員の場合は派遣元)に対して、報告徴収、助言、指導、勧告が行われることがあります。そして、勧告に従わない場合、厚生労働省ウェブサイトで企業名が公表されることがあります。

また、企業が「不合理な待遇差の禁止」に違反した場合、違反内容に該当する就業規則や労働契約書の定めは無効となります。不合理な差別を受けたとして、企業が損害賠償請求を受けることもあります。

4 同一労働同一賃金実現までの流れは?

派遣社員の場合、「不合理な待遇差の禁止」「待遇に関する説明義務」を遵守する責任は、派遣元にあるため、派遣先である企業の実務はさほど多くありません。そこで、以降では、多くの中小企業に関係するであろう、パート等の同一労働同一賃金の実務について解説します。

まずは、同一労働同一賃金実現までの流れを整理してみましょう。

(ステップ1)雇用形態を確認する

・パート等の有無をチェックする。正社員より労働時間が短いパートだけでなく、フルタイムの契約社員なども対象となるので注意する

(ステップ2)待遇の状況を確認する

・パート等のタイプ(パート、嘱託社員など)ごとに、賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇について、正社員と取扱いの違いがあるかどうか確認する

(ステップ3)待遇差がある場合、差を設けている理由を確認する

・なぜ、待遇差を設けているのかを整理し、それが働き方や役割などの違いに見合った「不合理ではない」ものといえるかを確認する

(ステップ4)待遇差がある場合、その違いが「不合理ではない」ことを説明できるように整理する

・パート等の待遇の内容・待遇の決定に際して考慮した事項、正社員との待遇差の内容やその理由について整理する

(ステップ5)違法性が疑われる状況からの早期の脱却を目指す

・正社員との待遇の違いが、「不合理ではない」とは言いがたい場合は、改善に向けて検討を始める

(ステップ6)改善計画を立てて取り組む

・改善の必要がある場合は、パート等の意見も聴取しつつ、早急に取り組む

(出所:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」をもとに作成)

同一労働同一賃金はすでに施行済の内容であるため、現時点でステップ6までをクリアーできていない場合、早急に改善する必要があります。仮にステップ6までをクリアーする前に都道府県労働局から報告徴収を受けた場合、「待遇の見直しについて、労使間で話し合いをしている」など取り組みの状況を説明できるようにしておきましょう。取り組みの状況次第で、助言・指導・勧告の内容も変わってきます。

厚生労働省でも、まずはステップ4までを早急にクリアーするよう呼び掛けています。

5 正社員と同じ仕事をしているパート等とは一体誰のこと?

同一労働同一賃金の実務で難しいのは、「誰が、正社員と同じ仕事をしているパート等に当たるか」の判断です。

これについては、次の3つの考慮要素をもとに判断することになります。

【均等待遇・均衡待遇の3つの考慮要素】

(出所:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」などをもとに作成)

図表の1.と2.が同じ場合は、パート等を正社員と同等に処遇しなければなりません(均等待遇)。1.から3.のいずれかまたは全部が異なる場合も、不合理な待遇差を設けることはできません(均衡待遇)。

6 どこまでが不合理な待遇差? 裁判ではどう判断された?

もう1つ、同一労働同一賃金の実務で難しいのが、「正社員とパート等の待遇差が不合理に当たるか」の判断です。

そこで、参考となる判例として、ハマキョウレックス事件(最高裁第二小2018年6月1日判決)とメトロコマース事件(最高裁第三小2020年10月13日判決)を紹介します。

1)ハマキョウレックス事件(最高裁第二小2018年6月1日判決)

これは運送企業の契約社員が、「正社員と同じ仕事をしているのに手当をもらえないのは不合理だ」として、企業に対して損害賠償を求めた事件です。

契約社員は「1.職務の内容」が正社員と同等である一方、「2.職務の内容・配置の変更範囲」が異なっていました(就業場所の変更や出向がない、企業の中核人材として登用される可能性がない)。そのため、待遇差の不合理性については、最終的に次のとおり判断されました。

●不合理でない

  • 住宅手当:転居を伴う正社員の住宅費用の軽減のため、正社員にのみ支給

●不合理である

  • 皆勤手当:運転手の採用・定着のために皆勤を奨励するため、正社員にのみ支給
  • 無事故手当:優良な運転手の育成のためなどに、正社員にのみ支給
  • 作業手当:特定の作業を行った対価として、正社員にのみ支給
  • 給食手当:従業員の食費を補助する目的で、正社員にのみ支給
  • 通勤手当:通勤に係る交通費を補助する目的で、正社員にのみ支給

住宅手当については、転居を伴う正社員のほうが転居を伴わないパート等よりも住宅費用が高額になりやすいことから、正社員にのみ支給するのは不合理でないと判断されました。

しかし、他の手当については、手当の支給目的が「職務の内容・配置の変更範囲」が異なることと関係ないため、正社員にのみ支給するのは不合理であると判断されました。

2)メトロコマース事件(最高裁第三小2020年10月13日判決)

これは、地下鉄駅構内の売店業務に従事する契約社員4名が、「正社員と同じ仕事をしているのに、基本給の支給額に大きな差があったり、退職金をもらえなかったりするのは不合理だ」として、差額分の賃金の支払いなどを求めた事件です。

契約社員は「1.職務の内容」「2.職務の内容・配置の変更範囲」が大きく異なっていました(正社員は売店業務以外にも多種多様な業務に従事し、正社員は就業場所の変更や出向がある)。そのため、待遇差の不合理性については、最終的に次のとおり判断されました。

●不合理でない

  • 本給(基本給):正社員は長期雇用を前提とした勤続年数や職務に応じた昇給があるが、契約社員は時給制でこうした昇給の対象外
  • 賞与:正社員は2013年度実績で月給2カ月分に17万6000円を加算した金額を年2回支給しているが、契約社員は定額12万円を年2回支給
  • 退職金:職務遂行能力や責任の程度などを踏まえた労務の対価の後払い、長年の勤続に対する功労報償などの目的で、正社員、無期雇用に転換された契約社員に支給
  • 資格手当:一定以上の資格を持つ正社員にのみ支給

●不合理である

  • 住宅手当:配置転換や出向を伴う正社員の住宅費用の軽減のため、正社員のみに支給
  • 褒賞:勤続10年または定年に達した正社員にのみ支給
  • 早出残業手当:早出残業をした場合、正社員には2時間まで2割7分、2時間超で3割5分の割増賃金を支給するが、契約社員は時間に関係なく2割5分の割増賃金を支給
 

本給(基本給)、賞与、資格手当については、職務内容の重要性などから長期勤続を前提とする正社員の待遇を充実させたいと企業が考えることは妥当であり、賃金の算定方法や支給額について、正社員と契約社員との間に待遇差を設けること自体は不合理でないと判断されました。

退職金については、東京高裁の判断が最高裁で覆りました。東京高裁では、複合的な性格を持つ退職金のうち、長年の勤続に対する功労報償の部分の金額さえ当該契約社員に支給しないのは不合理であると判断されました。

これに対し、最高裁では、メトロコマース社の退職金には、職務遂行能力などを踏まえた労務対価の後払いや、継続勤務に対する功労報償などの性質があるとしたうえで、同社が正社員として職務を遂行できる人材の確保や定着などの目的で退職金を支給していると認定しました。

そして、正社員と契約社員との間には職務の内容や配置変更の範囲に違いがあることから、正社員に退職金を支給し、契約社員に支給しないことは、不合理とまではいえないと判断されました。

住宅手当については、正社員について配置転換や出向を伴うケースがあることは認められたものの、部署や関連企業の位置の問題から転居を必然的に伴うものではなく、転居を伴う正社員のほうが転居を伴わない契約社員よりも住宅費用が高額になりやすいとはいえないとして、正社員にのみ支給するのは不合理であると判断されました。

また、褒賞については、業務内容に関係なく支給されていた実態があり、長期勤続を前提とする正社員の待遇を充実させたいという企業の考えがあったとしても、正社員と同様に長期勤続をしている当該契約社員に対してこれらを一切支給しないのは不合理であると判断されました。

更に、早出残業手当については、「早出残業に対して割増賃金を支払う」という負担を企業に課すことで時間外労働などを抑制することが手当の本来の趣旨であるため、契約社員であることを理由に支給しないのは不合理であると判断されました。

この他、どのような待遇差が不合理といえるのかについては、同一労働同一賃金ガイドラインに基本的な考え方と事例が示されています。

(参考:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

7 福利厚生の見直しが、従業員の採用・定着につながる?

正社員とパート等との間に不合理な待遇差がある場合、企業はパート等の待遇を正社員と同等まで引き上げることが基本となります。その取り組み次第で人件費が増加する恐れがあり、経営者が危惧するところでもあります。

一方、これまで一般的とされてきた待遇は、必ずしも従業員のモチベーションにつながらなくなってきています。例えば、福利厚生に注目してみましょう。

【法定外福利費の項目別内訳の推移】(注1)

(出所:日本経済団体連合会「福利厚生費調査結果の概要」をもとに作成)

(注1)従業員1人1カ月当たりの金額です。
(注2)総合的に福利厚生運営を外部委託している場合の委託費用です。

住居関連(住宅、持家援助)の費用が5年間で870円減っているのに対し、医療・健康関連(医療・保健衛生施設運営、ヘルスケアサポート)の費用は5年間で265円増えています。

働き方改革や従業員の健康に配慮した経営に取り組む企業が増えていく中で、福利厚生の内容も、生活費をサポートするものから従業員の健康をサポートするものへ、モノからヒトへとトレンドが変わりつつあるのかもしれません。

仮に住宅関連の費用を捻出するより、少額でも医療・健康関連の費用をサポートするほうがニーズが高いのであれば、福利厚生の内容を変更し、正社員とパート等の両方を適用対象とするのもよいでしょう。人件費の増加を抑えられるかもしれませんし、ニーズが高い福利厚生に人件費予算を割くことで、従業員の採用・定着率の向上も期待できます。

この他、転職が当たり前となり、長期勤続を前提とした賃金制度が時代に合わなくなってきた昨今では、手当や退職金のトレンドも変わりつつあります。

例えば、家族手当や住宅手当といった生活関連の手当を廃止し、業績達成のインセンティブとして支給する業績手当などに振替える企業があります。従業員が賃金の一部について、賃金で受け取るか確定拠出年金(企業型DC)の掛金とするかを選択できる「選択制DC」を取り入れる企業もあります。

同一労働同一賃金の対応は、各従業員の待遇だけでなく、企業全体の人件費の在り方にも目を向けて取り組むべきことかもしれません。

以上

(執筆 日本情報マート)

(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

日本-年基-202206-170-0116-D

関連記事

記事サムネイル

ポイント制って? 働き方改革にあわせた退職金制度を解説

成果主義的な退職金制度を実現できる可能性があるポイント制退職金制度。メリットや、導入する際の留意点などを分かりやすく解説していきます。