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【2025年最新】子育てと仕事の両立! 支援制度や助成金、事例を紹介

経営課題事例

2025-08-05

約3人に1人のママは妊娠・出産を機に退職しています。従業員が知っておくべき国の両立支援制度や、企業独自の両立支援の取り組み事例を紹介します。

目次

出産後も仕事を続ける女性は年々増えており、第一子出産後の就業継続率は、5年間で57.7%(出生年が2010~14年)から69.5%(出生年が2015~19年)まで11.8%上昇しています(※)。

(※)国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(夫婦調査、2021年6月実施)」

とはいえ、いまだに約3人に1人のママは妊娠・出産を機に退職しています。

仕事を続けたかったけれど、両立の難しさで辞めたママへのアンケート調査(※)によると、利用すれば仕事を続けられたと思う支援・サービスとして「気兼ねなく休める休業、休暇制度」「子育てに合わせて柔軟に働ける勤務制度」「1日の勤務時間を短くする制度」などを挙げる声が多く、企業による両立支援の取り組みは、離職防止に直結するといえます。

(※)厚生労働省「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業(令和4年度)」

逆に言うと、例えば企業が育児休業のルールを正しく理解していなかったり、従業員が育児休業給付金などの支援制度の存在を知らなかったりしたために、本来なら防げたはずの離職が発生してしまうリスクもあります。昨今は育児・介護休業法の改正が相次いでいますから、制度の内容を正しく理解しておくことは大切です。

この記事ではまず、企業と従業員が知っておくべき国の両立支援制度の内容を説明した上で、従業員がより働きやすくなるよう、独自の両立支援の取り組みをしている企業の事例などを紹介します。

1.妊娠・出産したら利用できる国の制度

自社の両立支援制度を見直すにあたって、まずは、法律で定められている国の制度を整理してみましょう。

(図表1)【妊婦・出産・育児期の両立支援制度】

(出所:厚生労働省「第9回今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会(2023年6月12日)参考資料」「第69回労働政策審議会雇用環境・均等分科会(2024年6月26日)参考資料」を基に作成)

<休業制度>

妊娠・出産したら、産前産後に「産前・産後休業(通称「産休」)」が、育児期間に「育児休業(通称「育休」)」を取得できます。

休業制度は法律(産前・産後休業は「労働基準法」、育児休業は「育児・介護休業法」)に基づいて保障されている労働者の権利であるため、就業規則に定めがない場合でも、申請があれば取得させなければなりません。

また、休業を取ったことを理由に、解雇などを行うことは法律で禁止されています。

・産前休業(産休)

出産予定日の6週間前から、請求すれば取得できるお休みのことです。なお、多胎児の場合は14週間前から取ることができます。

・産後休業(産休)

出産日の翌日から8週間は、産後休業(産休)となり、この期間は原則働いてはいけません。ただし、産後6週間を過ぎた後、本人が請求し医師が認めた場合は、仕事に戻ることが可能です。企業側も産後6週間は違法になるため働かせてはいけません(働かせた場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰則)。

・育児休業(育休)

原則、子どもが1歳になるまで取ることができるお休みで、ママ・パパ共に取得可能です。

原則1歳までですが、保育所が見つからない場合は最長2歳まで、パパとママが二人とも取れば、1歳2カ月まで延長できます(パパ・ママ育休プラス)。

なお、育休は、2回までの分割取得が可能です。

・出生時育児休業(産後パパ育休)

子どもが産後8週間になるまでに4週間まで取ることができる短期のお休みで、原則パパだけが取得可能です。

育休は休業中の就業は想定されていないのに対し、産後パパ育休は労使協定を締結した上で、企業と従業員が個別に合意すれば就業できるという特徴があります。

なお、産後パパ育休も育休と同じく、2回までの分割取得が可能です。また、産後パパ育休は育休とは別に取得できるので、パパの場合、両者を組み合わせて短期の休みを繰り返しながら、仕事と育児を交互に行うことができます。こちらの記事で、産後パパ育休と育休の取り方のイメージ図などを紹介していますので、よろしければご確認ください。
「育休」「産後パパ育休」の取得促進! 経営者が知っておくべき制度の内容や取得促進の事例を分かりやすく解説

<お金の支援制度>

・出産手当金

出産日(出産が予定日より遅れた場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産日後56日までの間、仕事を休んだ日について、健康保険から賃金の3分の2相当額が受け取れます。

・出産育児一時金(家族出産一時金)

妊娠4カ月(85日)以上のママが出産した場合、健康保険から給付金(定額)が受け取れます。従業員(パパ)の配偶者が出産した場合も受給可能で、その場合は家族出産一時金と呼ばれます。支給額は次の通りです。

  • 産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合
    1児につき50万円
  • 産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合、または産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合
    1児につき48.8万円

・育児休業給付金

育休を取った場合に、休業開始後6カ月間は休業開始時の賃金のおおむね67%、6カ月経過後は50%の給付を雇用保険から受け取ることができます(育休が1歳以降まで伸びた場合、その期間も給付対象)。ただし、休業開始前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上(または就業時間数が80時間以上)の月が原則12カ月以上あるなど、一定の要件を満たす必要があります。また、産後パパ育休については同じく一定の要件を満たすことで、雇用保険から「出生時育児休業給付金」という給付を受けられます。

・出生後休業支援給付金(2025年4月新設)

配偶者と同時に14日以上の育休(または産後パパ育休)を取得する場合(配偶者の育児休業を要件としない場合あり)、賃金のおおむね13%を雇用保険から受け取ることができます。

育児休業給付金や出生時育児休業給付金と同時に受給すれば、最大で賃金の80%相当をカバーできます。ただし、育児休業給付金などを補完するための制度なので、育児休業給付金などが不支給になると、出生後休業支援給付金も不支給になる点に注意が必要です。

なお、育児休業給付金(出生時育児休業給付金)や出生後休業支援給付金には、税金や社会保険料がかからないため、手取り額自体は上記の支給率よりも多くなるのが通常です。例えば、支給額は休業開始時の賃金の80%(育児休業給付金(67%)+出生後休業支援給付金(13%))でも、実際の手取り額は次のように、100%に近い額を受け取れるのです。

(図表2)【育児休業給付金(67%)+出生後休業支援給付金(13%)を受け取る場合】

育児休業前 育児休業中
賃金 300,000 円 育児休業給付 201,000 円
出生後休業支援給付金 36,400 円
所得税 6,000 円 所得税 0 円
社会保険料 42,000 円 社会保険料 0 円
雇用保険料 1,700 円 雇用保険料 0 円
住民税 13,000 円 住民税 13,000 円
手取り額 237,300 円 手取り額 224,400 円

(出所:国税庁「No.2260 所得税の税率」全国健康保険協会「令和7年度保険料額表(令和7年3月分から、東京都)」厚生労働省「令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内」東京都新宿区「令和6年度税額の算出方法等(賦課の根拠となった法律及び条例)」を基に試算)

(注1)育児休業前の社会保険料、雇用保険料は、2025年度の保険料率に基づいて試算しています。なお、賞与の支給はないものとします。

(注2)出生後休業支援給付金は最大28日間の支給となるため、金額は36,400円(=(賃金300,000円×6カ月)÷180日×28日×13%)となります。

(注3)育児休業給付金、出生後休業支援給付金は非課税のため、所得税はかかりません(翌年度の住民税算定額にも含まれません)。

(注4)育児休業中の社会保険料は、労使ともに免除されます。給与所得が無ければ、雇用保険料も生じません。

(注5)住民税の徴収猶予制度が利用できる自治体もあります(詳しくはお住まいの市区町村へお問合せください)。

・育児時短就業給付金(2025年4月新設)

2歳未満の子どもを育てるために、「所定労働時間の短縮措置等」の短時間勤務(後述)を利用する場合、時短就業中の賃金のおおむね10%を雇用保険から受け取ることができます。

・社会保険料免除

産休・育休・産後パパ育休中は、社会保険料について、被保険者本人および企業負担分とも免除となります。

・社会保険料の特例

産休・育休・産後パパ育休の後、時短勤務などで給料が下がった場合、社会保険料の計算のもととなる標準報酬月額を低下後の金額に改定できるので、従業員も企業も負担を下げられます。

・3歳未満の子を養育する期間についての年金額計算の特例

3歳未満の子を育てる人の給与水準が、子どもができる前と比べて下がった期間については、高かった時の給与水準に応じた年金額が保障されます(「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」の提出が必須)。

<休業終了後の両立支援制度>

・所定労働時間の短縮措置等(2025年4月拡充)

3歳未満の子どもを育てる従業員のために、企業には1日原則6時間の短時間勤務制度を設ける義務があります。業務の都合などで短時間勤務制度が適用できない場合、代替策として「育児休業に関する制度に準じる措置」「フレックスタイム制」「時差出勤(始業または終業時間を繰り上げ、繰り下げる制度)」「保育施設の設置運営等」「テレワーク」といった、子どもを養育しやすくするための措置を実施しなければなりません。

なお、「テレワーク」については上記の所定労働時間の短縮措置等の代替策とは別に、3歳未満の子どもを育てる従業員がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、2025年4月から努力義務化されています。

・所定外労働の制限(2025年4月拡充)

小学校入学前の子どもを育てる従業員から請求があったときは、所定外労働をさせてはいけません。

・時間外労働・深夜業の制限

小学校入学前の子どもを育てる従業員から請求があったときは、1カ月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。また、深夜(午後10時から午前5時まで)も労働させてはいけません。

・育児時間

子どもが1歳になる前にママが復職した場合、通常の休憩時間のほかに、1日2回、それぞれ30分以上の育児時間(授乳などのための時間)を請求できる労働基準法上の制度です。ママは育児時間を使って、保育所の送迎にあてるなど活用できます。

・母性健康管理措置

産後1年間は、医師などから指示・指導があったママには、健康診査等を受けるために必要な時間を確保できるようにし、医師などからの指導事項を守ることができるように必要な措置を講じなければなりません。

・子の看護等休暇(2025年4月拡充)

小学校3年生までの子どもを育てる従業員から請求があったときは、有給休暇とは別に、1年につき5日間(子どもが2人以上なら10日間)、病気やケガをした子どもの世話や予防接種、感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式、卒園式などのために、休暇を与えなければいけません。休暇は、1時間単位で取得できます。

・柔軟な働き方を実現するための措置等(2025年10月新設)

3歳以上小学校入学前の子の子どもを育てる従業員のために、企業には1日原則6時間の短時間勤務制度を設ける義務があります。所定労働時間の短縮措置等と似ていますが、こちらは企業が「始業時刻等の変更(時差出勤・フレックスタイム制)」「テレワーク等(10日/月)」「保育施設の設置運営等」「新たな休暇の付与(10日/年)」「短時間勤務制度」の中から2つ以上の措置を実施し、従業員がそのうち1つを選択して利用できるという仕組みになっています。

2.両立支援等助成金を利用する

子育てと仕事の両立支援に取り組む企業は、国から「両立支援等助成金」を受けられます。育児関連では5つのコースがありますので、以降で紹介します。

なお、いずれも中小企業のみを対象(「育休中等業務代替支援コース」は、一部例外あり)としており、併給ができない点に注意が必要です。また、要件などの詳細については厚生労働省ウェブサイトの支給要領をご確認ください。

・出生時両立支援コース

パパが育休等(育休・産後パパ育休の他、これらに準ずる休業制度)を取得しやすいよう雇用環境や業務体制を整備し、その結果パパが育休を取得した場合に助成を受けられます。

(図表3)【出生時両立支援コース】

種類 どんな場合に受け取れる? いくら受け取れる?
第1種 雇用環境や業務体制を整備し、パパが産後8週間以内に連続5日以上の育休等を取得した場合 ●1人目:20万円(雇用環境整備措置を4つ以上実施する場合は30万円)
●2人目・3人目:それぞれ10万円
※1企業につき3人まで
第2種
(第1種の助成金を受給した場合のみ)
第1種の申請後、パパの育休等の取得率が一定の要件を満たした場合 ●60万円(男性社員の育休取得率が、次のいずれかを満たした場合)
・取得率が前年度比で30%以上上昇し、50%以上となる
・または、直近2年度の取得率がいずれも70%以上である(前々年度に配偶者が出産した男性社員の数が5人未満の場合に限る)
※1企業につき1回まで
  プラチナくるみん認定事業主への加算 事業主がプラチナくるみん認定を受けている場合(第2種申請時のみ) ●15万円
※1企業につき1回まで
育休等に関する情報公表加算 育休の取得状況等を厚生労働省が運営するサイト「両立支援のひろば」に公表した場合 ●2万円
※1企業につき1回まで

(出所:厚生労働省「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)支給要領」を基に作成)

・育児休業等支援コース

企業が従業員(パパ、ママ)の育休等の取得や職場復帰が円滑に進むよう、一定の取り組みをした場合に助成を受けられます。

(図表4)【育児休業等支援コース】

種類 どんな場合に受け取れる? いくら受け取れる?
育休取得時 「育休復帰支援プラン」を作成し、従業員(パパ、ママ)に連続3カ月以上の育休等を取得させた場合 ●30万円
※1企業につき2人まで(無期雇用・有期雇用それぞれ1人ずつ)
職場復帰時
(育休取得時の助成金を受給した場合のみ)
「育休取得時」の対象者の育休等が終了する際、面談の上、原則として現職等に復帰させ、6カ月以上継続雇用(注)した場合 ●30万円
※1企業につき2人まで(無期雇用・有期雇用それぞれ1人ずつ)
育休等に関する情報公表加算 育休の取得状況等を厚生労働省が運営するサイト「両立支援のひろば」に公表した場合 ●2万円
※1企業につき1回まで

(出所:厚生労働省「両立支援等助成金(育児休業等支援コース)支給要領」を基に作成)

(注)継続雇用時は、雇用保険の被保険者である必要があります。

・育休中等業務代替支援コース

従業員が育休等を取得したり、短時間勤務制度を利用したりしている間、その業務をカバーする他の従業員に手当等を支給したり、代替要員を新たに雇用したりした場合に助成を受けられます。

(図表5)【育休中等業務代替支援コース】

種類 どんな場合に受け取れる? いくら受け取れる?
手当支給等
(育児休業)
従業員(パパ、ママ)が7日以上の育休等を取得し、かつその業務をカバーする他の従業員に手当等(注1)を支給した場合 以下の合計額 (最大140万円、うち最大30万円を先行支給)
●業務体制整備経費:最大20万円(通常6万円。育休が7日以上1カ月未満の場合は2万円。外部社労士等による労務コンサルティングを実施した場合は20万円)
※1企業につき1回まで(1人目の育休取得者分のみ)

●手当支給総額の3/4(上限10万円/月、12カ月まで。つまり最大120万円)
※手当支給等(短時間勤務)、新規雇用(育児休業)と合わせ、1企業につき1年度10人まで(5年間支給)
  プラチナくるみん認定事業主への加算 事業主がプラチナくるみん認定を受けている場合 支給率が下記に変更
●手当支給総額の4/5(ただし、「上限10万円/月、12カ月まで」は変わらない)
  有期雇用労働者加算 育休取得者(または短時間勤務利用者)が有期雇用で、業務代替期間が1カ月以上の場合 ●10万円
※育休取得者1人につき1回まで
手当支給等
(短時間勤務)
従業員(パパ、ママ)が短時間勤務制度を1カ月以上利用し、かつその業務をカバーする他の従業員に手当等(注1)を支給した場合 以下の合計額(最大128万円、うち最大23万円を先行支給)
●業務体制整備経費:最大20万円(通常は3万円。外部社労士等による労務コンサルティングを実施した場合は20万円)
※1企業につき1回まで(1人目の短時間勤務利用者分のみ)

●手当支給総額の3/4(上限3万円/月、子が3歳になるまで。つまり最大108万円)
※手当支給等(育児休業)、新規雇用(育児休業)と合わせ、1企業につき1年度10人まで(5年間支給)
  有期雇用労働者加算 育休取得者(または短時間勤務利用者)が有期雇用で、業務代替期間が1カ月以上の場合 ●10万円
※短時間勤務利用者1人につき1回まで
新規雇用
(育児休業)
従業員(パパ、ママ)が7日以上の育休等を取得し、かつその業務をカバーする他の従業員を新たに雇用し(または派遣で受け入れ)、実際に業務を代替させた場合 代替期間に応じた額を支給(最大67.5万円。代替期間に応じた額を支給)
●最短:7日以上14日未満 9万円
●最長:6カ月以上 67.5万円
※手当支給等(育児休業)、手当支給等(短時間勤務)と合わせ、1企業につき1年度10人まで(5年間支給)
  プラチナくるみん認定事業主への加算 事業主がプラチナくるみん認定を受けている場合 代替期間に応じた額が下記に変更
●最短:7日以上14日未満 11万円
●最長:6カ月以上 82.5万円
  有期雇用労働者加算 育休取得者(または短時間勤務利用者)が有期雇用で、業務代替期間が1カ月以上の場合 ●10万円
※短時間勤務利用者1人につき1回まで
育休に関する情報公表加算 育休の取得状況等を厚生労働省が運営するサイト「両立支援のひろば」に公表した場合 ●2万円
※1企業につき1回まで

(出所:厚生労働省「両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)支給要領」を基に作成)

(注1)手当等の支給方法は、あらかじめ就業規則等に規定する必要があります。

(注2)手当支給等(育児休業・短時間勤務)については、従業員数300人以下の企業が対象、新規雇用(育児休業)については中小企業のみが対象となります。また、「くるみん認定」などを受けている場合は、受給可能人数に対する要件緩和があります。

・柔軟な働き方選択制度等支援コース

「柔軟な働き方を実現するための措置等(2025年10月新設)」に関する制度を複数導入した上で、企業が作成する「育児に係る柔軟な働き方支援プラン」に基づき、制度利用者を支援した場合に助成を受けられます。

(図表6)【柔軟な働き方選択制度等支援コース】

種類 どんな場合に受け取れる? いくら受け取れる?
制度等を2つ導入し、対象者が利用 柔軟な働き方選択制度等(注)の導入、支援方針の周知、プランの作成をした上で、従業員(パパ、ママ)が6カ月間に、制度を一定基準以上利用した場合 ●利用者1人につき20万円
※1企業につき1年度5人まで
制度等を3つ以上導入し、対象者が利用 ●利用者1人につき25万円
※1企業につき1年度5人まで
育休等に関する情報公表加算 育休の取得状況等を厚生労働省が運営するサイト「両立支援のひろば」に公表した場合 ●2万円
※1企業につき1回まで

(出所:厚生労働省「両立支援等助成金(柔軟な働き方選択制度等支援コース)支給要領」を基に作成)

(注)対象となる制度は次の5種類です。( )内は6カ月間における利用基準です。

  1. 始業時刻等の変更(合計20日以上制度利用)
    「時差出勤(始業・終業の1時間以上の繰上げ・繰下げ)」「フレックスタイム制(始業・終業時刻や労働時間を従業員が決定)」のいずれかの制度を設ける
  2. 育児のためのテレワーク等(合計20日以上制度利用)
    所定労働時間を変更することなく、勤務日の半数以上、時間単位で実施でき、自宅やサテライトオフィス等を実施場所とするテレワークを認める
  3. 短時間勤務(合計20日以上制度利用)
    1日の所定労働時間を1時間以上短縮する制度を設ける(1日原則6時間など)
  4. 保育サービスの手配・費用補助(従業員負担額の5割以上かつ3万円以上、または10万円以上の補助)
    一時的な保育サービスを手配し、サービスの利用に係る費用の全部または一部を補助する
  5. 子どもを養育するための有給休暇制度(合計20時間以上取得)
    所定労働時間を変更することなく、年10日以上付与され、時間単位で取得可能な有給の休暇として、「子どもの養育を容易にするための休暇制度」「法を上回る子の看護等休暇制度」のいずれかの制度を設ける

・不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース

女性が不妊治療と仕事を両立したり、健康課題(月経や更年期)に対応したりするため、休暇制度などを導入し、実際に対象者に利用させた場合に助成を受けられます。

(図表7)【不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース】

種類 どんな場合に受け取れる? いくら受け取れる?
不妊治療 次の制度のいずれかを導入し、年5日以上、対象者に利用させる
●休暇制度(不妊治療や女性の健康課題に対応する特別休暇)
●短時間勤務制度(1日の所定労働時間を1時間以上短縮。基本給等の水準の引き下げや雇用形態の変更を伴わない)
●所定外労働制限(残業免除)、時差出勤制度、フレックスタイム制度、在宅勤務等
●30万円
※1企業につき1回まで(1人目の制度利用者分のみ)
女性の健康課題対応(月経) ●30万円
※1企業につき1回まで(1人目の制度利用者分のみ)
女性の健康課題対応(更年期) ●30万円
※1企業につき1回まで(1人目の制度利用者分のみ)

(出所:厚生労働省「両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)支給要領」を基に作成)

3.企業独自の両立支援の取り組み事例

国の制度を整えた上で、更に福利厚生として独自に支援制度を設けている企業もあります。興味深い取り組み事例を紹介します。

1)育休期間を最大3年間に延長

従業員の「働くこと」へのモチベーションを保つことを最大の目的として、両立支援に取り組むA社では、従業員の声に耳を傾け、実情に合うように制度に反映させています。

例えば、育休期間の延長を検討する際、女性従業員も会議に参加してもらったところ、「保育所に入る際、2歳児と3歳児では預けやすさが変わる」という意見があったことで、育休期間を最大3年に決めました。

また、男性の育休取得を推進させる目的で、育休期間のうち5日間を有給としています。

2)事業所に利用料無料の保育所や育児室を設置

経営者自ら、「子どもが熱を出した時に休むことは正しい」というメッセージを発信し続けているB社。様々な支援制度を整えていたものの、育休後の復帰に悩む従業員から「企業に保育所があったら嬉しい」という意見が上がったことで、利用料無料の保育所の設置に踏みきりました。

子育て期を終えた従業員との間で不公平にならないように、介護との両立支援制度も同時に整えました。

保育所を利用した女性従業員からは、「昼休みに子どもの顔を見に行ったりできることもあり、躊躇(ちゅうちょ)せずに復帰できた」という声が上がっているといいます。

また、社員の雇ったベビーシッターの利用料金を半額負担していたC社では、女性社員の比率が増えてきたことから、企業としてベビーシッターを雇用。社内にベビーシッターが常駐する育児室を設置しました。

通常の預かり以外に、近隣の保育所に子どもを預けている従業員が残業せざるを得ない場合、ベビーシッターが子どもを迎えに行き、そのまま育児室で預かるといったこともしています。

同社は、こうした柔軟な両立支援の取り組みが功を奏し、従業員の定着率の向上や、求人応募数の増加といった効果が現れているといいます。

3)保育料の補助や不妊治療支援を実施

育児等で制約を抱えている従業員がキャリアを継続できるよう、法定以上の両立支援に力を入れているD社。最大3年間取得可能な育休制度の整備、事業所内託児所の設置をはじめ、数々の取り組みを実施しています。

例えば、2歳までの子どもを持つ従業員には、月1万円を上限として、保育料の一部を実費で補助しています。時間に制約の多い不妊治療についても、1年間を上限とした不妊治療休職制度を設けており、仕事との両立に悩まずゆっくり取り組める環境を整えています。

また、子育てに関する支援制度や手続きを分かりやすくまとめた従業員向けウェブサイトを15年以上前から運営しており、その影響で制度の内容が社内に広く浸透し、利用促進につながっているようです。

4)社員食堂を従業員の子どもに開放

地域に学童保育などのサービスがないという事情もあり、社員食堂を従業員の子どもに開放し、子育て期でも安心して仕事に打ち込める環境を整えたE社。従業員・子ども同士の助け合いによって運営されることで、従業員の働きたい意欲を仕事に反映させることに成功しているそうです。

女性従業員からは、「企業全体に、子育てと仕事の両立をバックアップしてくれる雰囲気があり、長く働きたいと意欲がわいてくる」といった声が上がっているといいます。

5)子育て中の男性にも育休取得を促進し、育児の当事者意識を醸成

男女ともに育児と仕事を両立しやすい環境づくりを進めているF社。男性を対象に、1カ月以上の育児休業取得を強く推進し、上司が育休取得の意向確認を行うなど職場全体で支援体制を整えた結果、男性の育休取得率が9割超となるなど、大きな成果を上げています。

最近は、育休を取得した従業員がいる場合、その取得者の同僚全員に対し、3,000円~10万円の手当を一時金として支給(金額は職場の人数や育休期間などに応じて変動)する制度も導入しました。これは、子どもの誕生を職場全体で喜び、育休取得を前向きに受け入れるカルチャーを醸成したいという経営トップの意向に基づくものです。

こうした仕組みにより、育休取得による負担感の軽減とともに、チーム全体で育児を応援する雰囲気づくりが進んでいます。

4.子育てと仕事の両立に関する一問一答

1)従業員が「妊娠したんですが……」と相談してきたら、どうすればいい?

これまで育休等の取得がなかった企業などは、急に従業員から「(本人や配偶者が)妊娠したのですが……」と相談を受けたら、戸惑ってしまうかもしれません。ただ、従業員のほうも「このまま仕事を続けられるだろうか」と少なからず不安を抱えているので、実務に不慣れだからといって、対応を誤らないよう注意が必要です。

従業員から妊娠の申し出を受けたら、取り急ぎ次の8つについて対応しましょう。

  • 1.出産予定日、休業の意向の確認
  • 2.現時点の体調や必要なフォローについての確認
  • 3.産休や育休についての説明
  • 4.休業中の賃金や社会保険料、国の支援制度などについての説明
  • 5.復帰後の両立支援制度に関する説明
  • 6.上記1.から5.を踏まえた上で、休業のスケジュール等について本人とすり合わせ
  • 7.休業の届出に関する社内ルールの説明(届出書の書式や提出先、提出期日など)
  • 8.届出の受理(休業開始)

2)新入社員やパート等も、支援制度の対象になる?

育休等の支援制度は、要件を満たせば新入社員やパート等であっても利用できます。一方、法律上、制度の対象者にならない従業員や、労使協定の締結により対象者から除外できる従業員もいます。

「1.妊娠・出産したら利用できる国の制度」の「休業制度」「休業終了後の両立支援制度」の対象者を一覧にまとめましたので、確認しておきましょう。

(図表8)【支援制度の種類と対象者】

支援制度 法律上の対象者
(日雇いの従業員を除く)
労使協定の締結により
対象者から除外できる従業員
休業制度 産休 産前6週間から産後8週間までの女性従業員
育休 原則1歳(最長2歳)未満の子どもを育てる従業員。ただし、有期契約のパート等の場合、次に該当する従業員を除く
●子どもの1歳6カ月到達日(注1)までに労働契約(更新する場合は更新後のもの)の満了が確定している従業員
●入社1年未満の従業員
●申出日から1年以内(注2)に雇用関係が終了することが明らかな従業員
●1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
産後パパ育休 産後8週間以内の子どもを育てる男性従業員など。ただし、有期契約のパート等の場合、次に該当する従業員を除く
●子どもの産後8週間を経過する日の翌日(注3)から6カ月を経過する日までに労働契約(更新する場合は更新後のもの)の満了が確定している従業員
●入社1年未満の従業員
●申出日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員
●1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
休業終了後の両立支援制度 所定労働時間の短縮措置等 3歳未満の子どもを育てる従業員。ただし、次の従業員を除く
●1日の所定労働時間が6時間以下の従業員
●入社1年未満の従業員
●1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
●所定労働時間の短縮が困難な業務に従事する従業員
所定外労働の制限 小学校入学前の子どもを育てる従業員 ●入社1年未満の従業員
●1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
時間外労働・深夜業の制限 小学校入学前の子どもを育てる従業員。ただし、次のいずれかに該当する従業員を除く
●入社1年未満の従業員
●1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
●(深夜業のみ)深夜に当該子どもを養育できる同居の家族(16歳以上で、深夜に就業せず、重い負傷・疾病・障害がなく、産前6週間から産後8週間までの状況にない)がいる従業員
●(深夜業のみ)所定労働時間の全部が深夜にある従業員
育児時間 1歳未満の子どもを育てる女性従業員
母性健康管理措置 妊娠中または産後1年以内の女性従業員
子の看護等休暇 小学校3年生修了までの子どもを育てる従業員 ●1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
柔軟な働き方を実現するための措置等 3歳以上小学校入学前の子どもを育てる従業員 ●入社1年未満の従業員
●1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
●特別休暇の付与が困難な業務に従事する従業員

(出所:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」「女性労働者の母性健康管理等について」「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」を基に作成)

(注1)2歳までの育児休業の場合、「子の1歳6カ月到達日」は「子の2歳到達日」と読み替えます。

(注2)1歳6カ月、2歳までの育児休業の場合、「申出日から1年以内」は「申出日から6カ月以内」と読み替えます。

(注3)出産予定日前に当該子が出生した場合、「子の産後8週間を経過する日の翌日」は「当該出産予定日から起算して8週間を経過する日の翌日」と読み替えます。

(注4)柔軟な働き方を実現するための措置等については、2025年10月から施行となる制度です。

3)育休中の従業員に仕事を頼むのはNG?

本来、育休中に従業員が働くことは想定されていません。ただ、「どうしてもその従業員でないと対応できない仕事が出てきた場合」などについては、次の3つの要件を満たした場合に限り、「一時的・臨時的」に就業することが認められます(厚生労働省「育児休業中の就労について」)。

  • 1.育児休業中に就業することについて、労使で個別に合意する(企業が一方的に就業を命じるのはNG)
  • 2.子どもを養育する必要がない期間のみ就業を認める
  • 3.「1日○時間、週○日勤務」など、恒常的・定期的に就業することがないようにする

また、産後パパ育休の場合はルールが異なり、労使協定に一定の定めをすることで、就業が認められます。ただし、就業可能な日数等の上限が具体的に決められています(厚生労働省 両立支援のひろば「産後パパ育休(出生時育児休業)」とは?)。

4)育休等のフォローに回る他の従業員が、不満を抱えているようだがどうすればいい?

育休や短時間勤務制度を利用する従業員に対し、業務をカバーする他の従業員から不満の声が上がることがあります。そのため支援制度を利用する本人だけでなく、そのフォローに回る従業員への配慮は非常に大切です。対策は簡単ではありませんが、例えば、育休中の業務をカバーする他の従業員に手当(業務代替手当)を支給している企業があります。

ただし、こうした従業員が育休等の取得者に対し「マタニティハラスメント(マタハラ)」や「パタニティハラスメント(パタハラ)」を起こすような事態は避けなければなりません。企業には、こうしたハラスメントの防止措置が義務付けられていますので、不合理な言動には毅然とした対応を取るべきです。
これってハラスメント? 定義・具体例・必要な防止対策を知ろう

5)テレワークの導入は両立支援につながるか?

テレワーク(リモートワーク)は、保育所への送迎や子どもが熱を出したときの対応などがしやすくなる反面、子どもの様子を見ながら働くため、集中して仕事に取り組むことが難しくなる場合もあります。

対策としては、オンラインの保育サービスを利用することなどが考えられます。例えば、法人向けのコンシェルジュサービスを提供しているある企業では、保育士の資格を持つスタッフが、オンラインで従業員の子どもと一緒に歌ったり、絵を描いたりするサービスを実施しています。

また、自治体の「ファミリー・サポート・センター」のように、事業の会員となっている地域の住民同士で、子育てを相互援助する仕組みです。テレワーク中に、子どもを預かってもらえたり、保育施設や習い事などへの送り迎えを代行してもらえたりします。

以上

(執筆 株式会社ライフヴェーラ代表取締役 ファイナンシャルプランナー(CFP®)鈴木さや子)

(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

生25-3927,法人開拓戦略室

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