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「育休」「産後パパ育休」の取得促進! 経営者が知っておくべき制度の内容や取得促進の事例を分かりやすく解説

経営課題事例

2023-04-17

従業員が働きながら子を育てる上で重要な「育休(育児休業)」「産後パパ育休(出生時育児休業)」をテーマに、制度の概要、実務のポイント、休業取得を促進するためのヒントなどを紹介します。

目次

この記事では、従業員が働きながら子を育てる上で重要な「育休(育児休業)」「産後パパ育休(出生時育児休業)」をテーマに、制度の概要、実務のポイント、休業取得を促進するためのヒントなどを紹介します。育休などに詳しくない経営者や人事労務担当者向けに、図を交えて分かりやすく説明しますので、お気軽にお読みください。

さて、「育休(育児休業)」は、女性も男性も利用できる制度ですが、その取得率は女性が85.1%なのに対し、男性はわずか13.97%となっています(厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」)。

そもそも育休は、子が原則1歳になるまでの長期間の休業制度で、しかも休業中の賃金を無給としている企業が多い(就業規則等で自由に決められる)です。つまり、

  • 企業は「人手不足の中、長期間休まれるのはつらい」
  • 従業員は「育児はしたいが、収入のない状態が続くと生活に差し支える」

という状況になりやすく、更に男性の場合、育休取得に対する世間の理解が追い付いていない(「男性が育休を取るなんて……」など、否定的な考えの人が少なくない)ということもあって、育休の取得がなかなか進まないのです。

しかし、こうした状況の中、2022年10月より改正育児・介護休業法が施行され、

  • 男性のための新しい休業制度「産後パパ育休(出生時育児休業)」がスタート
  • 通常の育休も、これまで1回きりの取得とされていたところ、2回までの分割取得が可能

となりました。産後パパ育休は、男性が「子の産後8週間以内に4週間」まで取得できる短期の休業制度です。詳細は後述しますが、この産後パパ育休や育休の分割取得などをうまく使うと、

「短い休業を繰り返しながら、仕事と育児を交互に行う」ことで、長期休業による人手不足や収入面の不安を解消できる可能性

があります。

1.「育休」「産後パパ育休」ってどんな制度?

1)育休(育児休業)とは?

育休(育児休業)とは、

子を養育する場合、原則1歳まで(注)休業できる制度

です。日雇いの従業員、一定の期間内に労働契約が終了する有期雇用者、労使協定により対象者から除外された従業員(入社1年未満の従業員など)を除き、原則誰でも取得できます。

(注)「1歳まで」とは、「1歳の誕生日の前日まで」という意味です(以下同じです)。

育休は、

  • 男性:最短で配偶者の出産予定日(出産予定日より早く生まれた場合は出産日)から
  • 女性:最短で自身の「産休(産前・産後休業)」の終了直後から

取得できます(実子の場合)。なお、産休とは、労働基準法に定められている産前6週間、産後8週間(多胎妊娠の場合は産前14週間、産後8週間)の休業のことです。

図表1は、企業に勤める共働きの夫婦が、それぞれ1歳まで育休を取得する場合のイメージです(これ以降に登場する同種の図表も、全て夫婦共働きの場合を想定しています)。

1歳までの育休

育休は、子が1歳を過ぎると原則取得できませんが、従業員と配偶者が同じ子について育休を取得する場合、1歳2カ月まで育休を延長できます。これを「パパ・ママ育休プラス」といいます。ただし、休業期間は最大で1年間なので、例えば、従業員が1歳2カ月までパパ・ママ育休プラスを取得しようとした場合、育休は産後2カ月以降に開始しなければなりません。

1歳2カ月までの育休(パパ・ママ育休プラス)

また、パパ・ママ育休プラスとは別に、子が1歳を過ぎても「保育所に入れない」「配偶者が子を養育できない(死亡、負傷・疾病・障がい、離婚など)」といった事情がある場合、1歳6カ月まで育休を延長できます。加えて、子が1歳6カ月を過ぎても同じ状況が続いている場合、更に2歳まで再延長が認められます。なお、育休の延長(再延長)は夫婦が同時に行えます。

1歳6カ月(2歳)までの育休

2)産後パパ育休(出生時育児休業)とは?

産後パパ育休(出生時育児休業)とは、

男性が子を養育する場合、産後8週間以内に4週間まで休業できる制度

です。日雇いの従業員、一定の期間内に労働契約が終了する有期雇用者、労使協定により対象者から除外された従業員(入社1年未満の従業員など)を除き、原則誰でも取得できます。子が養子の場合は女性も一部対象になることがありますが、基本的には、男性が出産直後の配偶者をサポートするための制度であるため、「男性版産休」などとも呼ばれます。

産後パパ育休は、男性の場合、最短で配偶者の出産予定日(出産予定日より早く生まれた場合は出産日)から取得できます(実子の場合)。

産後パパ育休

前述したとおり、育休は休業が長期間にわたるため、人手不足や生活費の問題などから、取得をためらう男性が少なくありません。この点、産後パパ育休は、短期の休業制度であるために、育休に比べると取得のハードルは低いといえます。ただ、「4週間」という期間が、配偶者をサポートするのに十分な長さといえるのかは難しいところです。

そこで次章では、育休と産後パパ育休を組み合わせてそれぞれの欠点を補いつつ、冒頭の「短い休業を繰り返しながら、仕事と育児を交互に行う」という働き方を実現する、上手な休み方を紹介します。

2.育休と産後パパ育休の上手な取り方は?

1)育休と産後パパ育休を別々に取得すれば、実質「2回」休業できる

育休と産後パパ育休は、別々に取得することができます。つまり、それぞれを1回ずつ取得すれば、実質「2回」休業できることになります。

育休と産後パパ育休を併用して「2回」休業

図表5の場合、従業員は産後パパ育休と育休の間(産後4週間から8週間まで)に就業しており、例えば「0歳から1歳まで育休を取得する」といったケースに比べると、前述した人手不足や生活費への影響は小さくなります。

2)分割取得をうまく使えば、実質「4回」休業できる

更に、育休と産後パパ育休には、

休業期間を2回に分割できる「分割取得」というルール

があります。つまり、それぞれの休業期間を2回に分割すれば、実質「4回」休業できることになります。

分割取得を利用して「4回」休業

図表6の場合、【産前6週間~産後8週間】の段では、従業員は産後パパ育休を2回に分割し、配偶者をサポートしつつ、休業の合間を縫って就業しています。【産後8週間~1歳】の段では、育休を2回に分割しつつ、配偶者にも育休を分割取得してもらい、夫婦で交互に育休を取りつつ、仕事と育児を両立しています。

3)育休の再取得が認められれば、実質「5回」休業できる

第1章で、子が1歳を過ぎても保育所に入れない場合などに、1歳6カ月まで育休を延長(1歳6カ月を過ぎても状況が変わらなければ、2歳まで再延長)できる制度を紹介しました。「延長」「再延長」という言葉のとおり、この制度は一度育休を終了してしまうと原則利用できないのですが、例外として、

配偶者が育休を取得している場合に限り、その終了予定日の翌日以前であれば「1歳から1歳6カ月まで」「1歳6カ月から2歳まで」の任意のタイミングで育休を「再取得」できる

というルールがあります。つまり、育休と産後パパ育休を2回ずつ分割取得し、更に育休の再取得が認められれば、実質「5回」休業できることになります。

育休を再取得して「5回」休業

図表7の場合、【産後8週間~1歳】の段では、従業員は子の産後11カ月で育休(「4回目」の休業)を終了しています。しかし、子が1歳になる日に配偶者が育休を取得しているため、【1歳~1歳6カ月】の段では、従業員が育休を再取得(「5回目」の休業)しています。

3.育休と産後パパ育休の実務のポイントは?

ここからは、育休と産後パパ育休の実務上のポイントを見ていきます。次のような違いがありますので、以降で1つずつ紹介していきます。

育休と産後パパ育休の違い

1)休業の申し出

1.産後パパ育休のほうが、休業の取得について直前まで熟考できる

育休や産後パパ育休を取得する場合、従業員はその旨を事前に企業に申し出る義務があります。申し出の期限は、育休が原則休業開始の1カ月前、産後パパ育休が原則休業開始の2週間前で、産後パパ育休のほうが直前まで休業を取得するかどうかを熟考できます。

なお、産後パパ育休については、企業が一定の要件(産後パパ育休に関する研修の実施、相談窓口の設置など)を満たすと、申し出期限を「労使協定で締結する日(2週間超1カ月以内)」に設定することが可能です。労使協定の記載例についてはこちらをご確認ください。
厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」

また、育休や産後パパ育休の申し出のための書式をお探しの場合、厚生労働省「イクメンプロジェクト」の育児休業届テンプレートを使うと便利です。
厚生労働省「イクメンプロジェクト」(育児休業届テンプレート)

2.育休も産後パパ育休も、正当な申し出であれば拒否できない

育休や産後パパ育休の申し出があった場合、それが正当な申し出であれば企業は拒否できません。正当な申し出にもかかわらず、休業の取得を拒んだり、取り下げを迫ったり、取得を理由に不利益な取扱い(解雇や賃金の引き下げなど)をしたりすると、育児・介護休業法の

育児休業等に関するハラスメント(「パタニティハラスメント(パタハラ)」など)

に該当する恐れがあります。

なお、本人から育休や産後パパ育休に関する申し出がなかったとしても、以前に従業員から「配偶者が妊娠・出産した」などの報告を受けている場合、企業は従業員に対し、育休や産後パパ育休を取得するのかなどについて、意向を確認しなければなりません。

2)休業中の生活保障

1.育休も産後パパ育休も、雇用保険給付の対象となる

育休も産後パパ育休も、休業中の賃金の支払い義務はありません。ただし、従業員が一定の要件を満たすと、雇用保険から給付を受けられます。育休の場合は「育児休業給付金」、産後パパ育休の場合は「出生時育児休業給付金」がそうで、支給額は次のとおりです。

  • 育児休業給付金:賃金日額(直近6カ月間の賃金÷180日)×給付日数×67%(休業開始6カ月後以降は50%)
  • 出生時育児休業給付金:賃金日額×給付日数×67%(一律)

2.休業中の社会保険料は、状況に応じて免除される

従業員が育休や産後パパ育休を取得している場合、企業が所轄の年金事務所にその旨を申し出ると、次のように社会保険料が免除されます。

  • 月の社会保険料:従業員が月末時点で休業中の場合に免除(ただし、休業が同月内に開始・終了するときは、休業期間が14日以上の場合のみ免除)
  • 賞与保険料:育休を開始した月に賞与が支払われていて、休業期間が1カ月超の場合に免除(産後パパ育休の場合、休業期間が最大4週間なので免除されない)

また、雇用保険料や税金の扱いは次のようになります。

  • 雇用保険料:休業中に賃金を支払わないのであれば発生しない
  • 所得税:休業中に賃金を支払わないのであれば発生しない
  • 住民税:前年の所得が基準になるため、休業中でも発生するケースが多い

住民税については、休業中の賃金の支払いがない場合、引去りができないので、「一旦企業が立て替える」「特別徴収から普通徴収に切り替えて、従業員自ら納付してもらう」などの対応が必要になります。

3)休業中の就業

1.育休は原則就業不可、産後パパ育休は労使協定の締結などにより就業できる

育休の場合、休業中の就業は原則不可で、突発的でやむを得ない事情がある場合(感染症による急な欠員や重大なトラブル対応など)に限り、企業と従業員が個別に合意することで、育児に支障がない時間帯だけ就業が認められます。一方、産後パパ育休の場合、労使協定を締結した上で、企業と従業員が個別に合意すれば就業可能です。ただし、就業可能な時間数などについて、次の制限があります。

  • 就業可能な時間数の合計は、「休業期間内の所定労働時間÷2」以下
  • 就業可能な日数の合計は、「休業期間内の所定労働日数÷2」以下
  • 休業開始(終了)日に就業する場合、各日の就業可能な時間数は「当該日の所定労働時間」未満

2.就業日数や賃金によって雇用保険給付の額が変わる

休業中に就業した場合、その時間については企業から賃金が支払われますが、

就業日数が月10日かつ80時間を超えると、育児休業給付金、出生時育児休業給付金が不支給

になるため、注意が必要です。また、賃金日額に対する実際の賃金額の割合によって、育児休業給付金、出生時育児休業給付金の扱いが次のように変わります。

  • 「賃金日額×給付日数」の13%以下:満額支給
  • 「賃金日額×給付日数」の13%超80%未満:減額支給(「賃金日額×給付日数×80%-実際の賃金額」を支給)
  • 「賃金日額×給付日数」の80%以上:不支給

4.男性にもっと育休や産後パパ育休を取得してもらうには?

1)経営者からのアプローチが重要

育休や産後パパ育休の取得が進めば、

  • 従業員が早帰りのために業務効率を改善するようになる
  • 男性や管理職の育児に対する意識・行動が変わって女性活躍が促進される

など、企業にとってさまざまなメリットが見込めます。

ただ、冒頭でも触れたとおり、日本では男性の育休取得などに対する世間の理解が追い付いていない面があります。ですから、育休や産後パパ育休の取得を促進するには、経営者が男性の育児をサポートする取り組みの重要性、取り組みに懸ける覚悟などを、率先して社内に伝えていかなければなりません。

例えば、日本生命では、男性の育休取得率100%を達成するため、

  • 経営トップから「100%を実現することが風土を変える」というメッセージを発信する
  • 男性が取得しやすい1週間を推奨するために「育休の最初の7日間を有給」とする

などの取り組みを2013年度から継続して行い、結果、10年間連続で、男性の育休取得率100%を達成しています。また、男性については個々の事情に応じたサポートを実施する観点から、育児休業の取得に当たり、図表9の①から③のうち1つ以上を選択し実施する「男性育休+α」100%運営を2021年度より実施しています。

「男性育休+α」100%運営

2)法定の制度に「ちょい足し」して従業員にPRする

1)の内容と少し重なりますが、育休や産後パパ育休について法定のルールを上回る社内制度をつくれば、「従業員の育児をサポートしたい」という経営者の本気度が社内に伝わります。

  • 育休を最大3歳まで取得できるようにする
  • 産後パパ育休を3回まで分割取得できるようにする

などは、分かりやすい例です。

また、育児・介護休業法には、育休や産後パパ育休以外にも、従業員の育児をサポートするためのさまざまな制度があります。法定のルールは次のとおりですが、これらの制度についても、法定以上の「ちょい足し」を検討していくと、より経営者の本気度が伝わり、従業員も制度を利用しやすくなります。

  • 子の看護休暇:小学校就学前の子を養育する場合、看護などのために1年度に5日(対象となる子が2人以上の場合は10日)まで休める
  • 所定外労働の制限:3歳未満の子を養育する場合、所定外労働を免除される
  • 時間外労働の制限:小学校就学前の子を養育する場合、月24時間、年150時間を超える時間外労働を免除される
  • 深夜業の制限:小学校就学前の子を養育する場合、深夜業を免除される
  • 所定労働時間の短縮措置等:3歳未満の子を養育する場合、1日の所定労働時間を6時間以内に短縮するなどの措置を受けられる

なお、中小企業が育休を取得しやすい雇用環境や業務体制を整備し、それによって男性の従業員が育児休業を取得した場合、

両立支援等助成金の出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)から、最大75万円

が助成されるので、こうした助成金の活用も検討しながら制度の拡充に取り組むとよいでしょう。
厚生労働省「事業主の方への給付金のご案内」(両立支援等助成金)

以上(執筆 日本情報マート)
(監修 シンシア総合労務事務所 特定社会保険労務士 白石和之)

生23-1346, 法人開拓戦略室

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