「そんなつもりで言ったわけじゃないのに……」。ハラスメントをしているという意識が全くないのに、従業員にハラスメントを指摘されたらとても驚きます。
ハラスメントは当事者同士の感情がもつれる、本当に難しい問題です。特にテレワーク(リモートワーク)に慣れてきた職場では、“コミュニケーションが雑になりがち”な面もあり、ハラスメントが発生するリスクは高まります。
リスクを最小限に抑えるには、まず、全従業員が「何がハラスメントに当たるのか?」を再確認し、自分が知らず知らずのうちにハラスメントをしていないかチェックする必要があります。その上で、企業主導で防止対策や防止研修を推し進めることが重要です。
そこで、「パワハラ」「セクハラ」など主なハラスメントの定義や具体例、効果的なハラスメント防止対策・防止研修のポイントなどを紹介します。

1 社内でハラスメントが発生した場合のリスクは?
まずは、ハラスメントの発生が企業経営に与えるリスクを、十分に認識しておく必要があります。主に、「人的損失リスク」「レピュテーションリスク」「法的紛争リスク」の3つが考えられ、いずれも企業にとって重大なリスクです。
1)人的損失リスク
ハラスメントの被害者が休職や退職、最悪の場合は自殺してしまうといったリスクです。これは、言動が必ずしもハラスメントに当たるといえなくても発生し得る問題です。
例えば、次のようなケースがあります。
- 上司から人格攻撃にならない内容(社会通念上相当といえる範囲)で、ネチネチと指導を受け続けた従業員が、1年半で体重が15キログラム減少し、同僚に「死にたい」とこぼした揚げ句、自殺してしまった
このケースは裁判になり、徳島地裁は、上司の不法行為を否定しつつも(ネチネチと指導した上司の責任を否定)、従業員が精神的に追い込まれていたのに放置したとして、企業の安全配慮義務違反を認め、企業に6000万円以上の損害賠償を命じています(ゆうちょ銀行(パワハラ自殺)事件 徳島地裁平成30年7月9日判決)。
なお、人的損失リスクは、ハラスメントの被害者だけに限った問題ではありません。ハラスメントにより職場環境が悪化すれば、職場全体の従業員の定着率が低下し、ひいては優秀な人材の流出につながりかねません。
2)レピュテーションリスク
否定的な評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下するリスクです。
例えば、次のようなケースがあります。
- ハラスメントの事実が、マスコミによって報道されてしまった
- ハラスメントの事実が、SNS等により拡散されて「炎上」してしまった
ハラスメントに甘い企業だという情報が拡散されれば、企業の評判・評価やイメージが低下し、業績が下落したり人材確保が困難になったりするでしょう。
他にも、次のようなケースがあります。
- マスコミ報道に対応するために、対外的な発表をすることになった
- 事実調査委員会を立ち上げて、事実確認・公表をすることになった
- 上場企業で、情報拡散直後に株価が年初来最安値を記録した
求職者の多くは、ハラスメントに甘いという評判のある企業への就職を希望しません。そのような評判を払拭して、企業の評価を回復するのには長い年月がかかるものです。
3)法的紛争リスク
悪質なハラスメントは、訴訟に発展するリスクが高いといえます。被害者の被害感情が強いので、ハラスメントの発生を認知した管理職などのちょっとした失言で、被害者や家族が感情的になってしまったり、弁護士に相談して訴訟まで一気に進んだりします。
こうなると、企業が後から解決を図ろうとしても、手遅れだったり、かえって火に油を注ぐ結果になったりするケースが少なくありません。
被害者が弁護士をつける場合、行為者(ハラスメントに当たる言動を取った者)と企業の両方に、損害賠償請求をするのが一般的です。
ハラスメントを放置した企業に対しては、使用者責任や、安全配慮義務・良好な職場環境を整備すべき義務などの雇用契約上の義務違反の責任という形で、損害賠償請求をします。
仮に損害賠償の請求を免れても、企業側としては、紛争対応のための人員・時間を要しますし、訴訟のための弁護士費用なども負担しなければならない恐れがあります。
近年は、ハラスメントに関する法規制が強化されていることもあり、ハラスメントが法的紛争に発展するリスクは高まっているといえます。こうした状況の中、従業員からの損害賠償請求や弁護士費用の負担を軽減するための保険サービスに加入する企業もあります。
2 まずは「何がハラスメントに当たるのか」を知る
ハラスメントの発生を防止し、リスクを最小限に抑えるためには、まず、「何がハラスメントに当たるのか」を正しく理解することが重要です。
これを理解していないと、行為者が自分の言動にストップをかけることができず、ハラスメントに発展してしまうことがあります。
また、周囲の従業員が「あの人はああいう性格だから」と行為者の言動を半ば黙認している場合も、行為者の言動にストップをかける人間がおらず、ハラスメントが悪質化していきます。
全従業員にハラスメントに関する正しい知識を身に付けさせ、「自分がハラスメントの行為者になるかもしれない」という当事者意識を持たせることが重要です。
そこで、「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ、パタハラ、ケアハラ」といった主なハラスメントの定義と具体例と、ハラスメントに当たるかどうかの判断が難しい「グレーゾーン」の言動の具体例を見てみましょう。
3 パワハラの定義と具体例
パワハラ(パワーハラスメント)とは、「優越的な関係を背景とした、業務上の必要かつ相当な範囲を超えた言動により、就業環境を害する(就業する上で看過できない程度の支障を生じさせる)」ことをいいます。
例えば、次のような行為がパワハラに当たります。
- 同僚の目の前で、大声を出して威圧的に叱責することを繰り返す
- 相手の能力を否定し罵倒するような内容のメールを、他の従業員を宛先に含めて送信する
- 仕事のやり方が分からない新人に、「今日中に仕事を片付けておけ」と命じて手助けもしないため、新人が昼休みも十分に休めず、夜遅くまで残業をしている
- 気に入らない事務職に倉庫業務だけを命じ、本来の業務に従事させない
- 自分の意に沿わない者を1人だけ別室で仕事をさせる。強制的に自宅待機を命じる。送別会に参加させない
- 交際相手について執拗に問う。配偶者などに対する悪口を言う
- たたく、殴る、蹴るなどの暴行を行う
4 セクハラの定義と具体例
セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、「相手の意に反する性的な言動への対応を理由に不利益な取扱いをする(対価型セクハラ)、性的な言動によって就業環境を害したりする(環境型セクハラ)」ことをいいます。
例えば、次のような行為がセクハラに当たります。
- 性的な関係を拒否した者を解雇する
- 人事考課を条件に性的な関係を求め、拒否した者の評価を下げる
- 尻や胸に触る、抱きつく
- 性的な話題をしばしば口にする
- 職場内にヌードポスターを掲示する
- 恋愛経験を執拗に尋ねる
- 私生活に関する噂などを意図的に流す
5 マタハラ、パタハラ、ケアハラの定義と具体例
マタハラ(マタニティハラスメント)、パタハラ(パタニティハラスメント)、ケアハラ(介護ハラスメント)は、併せて「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と呼ばれています。
「育児休業等の利用により不利益な取扱いをしたり、妊娠・出産等に関する言動によって就業環境を害したりする」ことをいいます。
例えば、次のような行為がマタハラ、パタハラ、ケアハラに当たります。
- 産前休業(育休)の取得を申請した女性従業員を解雇する
- 男性従業員に「男が介護休業を取得するなんてあり得ない。他の家族で対応できないのか」と迫り、介護休業の取得を諦めさせる
- 妊婦健診のための休暇を申請した女性パートの労働契約を更新しない
- 妊娠した従業員に対し、「こんな忙しい時期に妊娠するなんて信じられない」などと繰り返し嫌みを言う
- 妊娠し医師から外回り業務は避けたほうがよいという指導を受けた管理職に対し、「そういうのでは重要な仕事は任せられないな」と言って、単純作業だけを命ずる
6 ハラスメントに当たるかどうかの「グレーゾーン」 とは?
ビジネスの現場では、ハラスメントに当たるかどうかの判断が難しい、いわゆる「グレーゾーン」の言動というものも数多く存在します。具体的な事例を見ていきましょう。
1)部下を叱責したらパワハラ?
上司には、部下を指導して、業務上の指揮監督や教育指導を行う役割があります。例えば、得意先との重要なアポイントメントに遅刻した部下を叱責するのは、業務上必要かつ相当といえるので、パワハラには当たらないと考えられます。
しかし、ミスを繰り返す部下にいらついて、「仕事しなくていいよ。もう帰れ」「こんなこと、小学生でもしないよ」「その仕事ぶりじゃ、お前の給料と釣り合わないな」などとしつこく言ったり、他の同僚にも聞こえる場で「君は主任失格だ」「お前なんかいてもいなくても同じだよ」などと侮辱的に叱責したりすると、許容範囲を超え、パワハラと判断される可能性が高くなります。
注意・指導(叱責)が社会通念上相当かの判断は難しいものです。パワハラ発言について損害賠償を命じた裁判例から考えると、人格否定・人格攻撃や侮辱の内容を含んでいるか、さらし者になるように行ったかなどが、重要な判断要素になると思ってよいでしょう。
2)テレワーク(リモートワーク)時に、トークルームに入るよう強制するのはパワハラ?
テレワークでは、オンライン会議システムのトークルームなどを使って、従業員同士が会話をしながら業務を進めているケースが多くあります。
しかし、従業員の中には、「常に行動を監視されている気がする」「自宅の様子や顔のアップを見られたくない」などの理由から、トークルームに入ることに苦手意識を持っている人がいます。
こうした従業員に対して上司などがトークルームに入るよう強制することは、「従業員に重要事項を共有する(毎日の朝礼など)」など、業務上の必要性があれば、パワハラには当たりません。ただし、「トークルームでは『顔出し』をしなくてもよいこととする」など、一定の配慮は必要です。
一方、チャットや電話などで業務の状況を確認すれば足りるのに、上司が「部下の動向が気になる」というだけでトークルームに入ることを執拗に要求する場合、判断が分かれます。
特に、こうした場合にトークルームに入ってこない従業員を電話などで罵倒したり、「アイツはやる気がない」などと、従業員の悪口をトークルームで他の従業員に吹聴したりすると、パワハラに当たる可能性が高いといえます。
3)容姿を褒めたり、愛称で呼んだりするのはセクハラ?
セクハラは、受け手が女性従業員なら「平均的な女性従業員の感じ方」、受け手が男性従業員なら「平均的な男性従業員の感じ方」を基準に、「就業環境を害する」言動に当たるかで判断されます。
例えば、男性従業員が女性従業員に対して、「前髪を切ったんだ、似合うね」と言ったり、「○○ちゃん」と愛称で呼んだりしたことに対し、女性従業員が強い不快感を抱いた場合を考えてみましょう。
こうした言動については、今のところ容姿を褒められたり、「ちゃん」付けで呼ばれたりすることが「就業環境を害する」とまではいえないでしょうから、それだけでセクハラとなる可能性は低いと考えられます。
4)相手が拒否しなくてもセクハラ?
経営者や人事労務担当者が「セクハラですよ」と行為者を注意しても、「何も文句を言われなかったので問題とは思いませんでした」と、本人に悪気がないことがあります。
しかし、本人に悪気があるかに関係なく、前述した定義に該当するような言動であればセクハラになります。
そもそも、セクハラを受けた側が、職場の人間関係の悪化などを懸念して何も言えないこともあるため、「拒否の姿勢を明確にしない=許容している」という考えや、「大人なんだから嫌なら嫌と言えたはず」などという弁解は通りません。
5)育児休業に関して発言するとマタハラ・パタハラ?
従業員が育休を取得する場合、業務分担の見直しなどのため、企業が早い時期に「いつからいつまで育休を取得する予定なの?」と従業員に確認することがあります。こうした言動に対し、「就業規則では休む1カ月前に申請すればいいはずなのに、もう邪魔者扱いですか」と反発する従業員もいるようです。
こうした言動は、業務分担の見直しなどのように業務上の必要性があれば、通常はマタハラ・パワハラには当たりません。
しかし、皆の前で聞こえよがしに「いつまで育休を取るつもりなの?」と詰問したり、「帰ってくる場所がなくなっちゃうかもな……」などという不必要な発言をしたりすると、許容範囲を超え、マタハラ・パタハラと判断される可能性が高くなります。
6)妊娠している女性従業員を気遣う発言はマタハラ?
企業は、妊娠している女性従業員の体調が悪い場合に、軽い業務に変更することを提案したり、休憩や帰宅を勧めたりすることがあります。これに対し、これまで通りに働きたい女性従業員が、「私を他の人と差別しないでください」と反発するケースがあるようです。
しかし、こうした企業側の対応は、客観的に見て業務上の必要性に基づく言動といえるので、マタハラには当たりません。
企業は従業員の健康などに配慮する安全配慮義務を負っているので、女性従業員が反発してきたとしても、女性従業員本人と胎児の安全を考えて対処することになります。
7 ハラスメント防止対策のポイントは?
社内でハラスメントが発生した場合、そのリスクを最小限に抑えるためには、「ハラスメント防止対策」を確実に実施することです。ハラスメントに関する相談・苦情に対応するための相談窓口の設置など、法律で決められた対策があります。
この対策が不十分だと、ハラスメントの相談が適切に処理されず、被害者や家族が感情的になって法的紛争に発展してしまうなどの事態になりかねません。
逆に、ハラスメント防止対策がしっかりしている企業では、事態が深刻化する前に問題を解決できる可能性があります。
パワハラ、セクハラ、マタハラ、パタハラ、ケアハラについては、これを防止するための雇用管理上の措置を講ずる義務が企業に課されています(中小企業の場合、パワハラについては、2022年4月1日より義務化)。
こうしたハラスメント防止対策は、一体的に講じるのが望ましいとされています。企業に求められるハラスメント防止対策の内容には、次のようなものがあります。
1)ハラスメント防止方針の明確化、周知・啓発
ハラスメント防止方針とは、職場におけるハラスメントがあってはならない旨、ハラスメントに当たる言動、行為者への処分などを定めた、ハラスメント防止対策の基本方針です。
就業規則(ハラスメント防止規程など)の中に上の内容を盛り込んだり、「個人情報保護方針」のように1つの方針として定めたりして、従業員に周知・啓発することになります。
2)相談窓口の設置・運用
相談窓口とは、ハラスメントに関する相談・苦情に対応するための窓口です。社内に相談窓口を設ける場合は経営者、役員、管理職などが、社外に相談窓口を設ける場合は弁護士事務所、コンサルタント会社などが担当になります。
ハラスメントに関する相談は、パワハラ、セクハラなどの区別なく、一体的に受け付けるのが望ましいとされています。
また、相談窓口担当者は、ハラスメントが現実に生じていない場合(発生の恐れがある場合、ハラスメントに当たるかが微妙な場合など)であっても、相談に応じることとされています。
3)事実確認、ハラスメント行為者の処分と再発防止策の検討
事実確認とは、ハラスメントに関する相談が寄せられた後、実際にハラスメントに当たる言動があったかを確認することです。通常、相談者(相談窓口に相談した者、被害者でない場合を含む)、行為者、第三者(相談者と行為者の関係者)に事情を聴取して行います。
ハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置(被害者と行為者を引き離すための配置転換など)、行為者に対する措置(社内規程に基づく懲戒処分など)を適正に行います。
また、これと併せてハラスメント防止方針の内容を再度従業員に周知・啓発したり、ハラスメント防止研修(詳細は後述)を実施したりと、再発防止に向けた措置を講じます(ハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合も同様です)。
4)1)から3)までと併せて講ずべき措置
相談対応、事実確認、ハラスメントに係る事後の対応の際は、相談者や行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を従業員に周知します。
また、従業員がハラスメントに関する相談をしたことや、事実関係の確認に協力したことなどを理由に不利益な取扱いを行ってはならない旨を、従業員に周知・啓発します。
8 ハラスメント防止研修のポイントは?
ハラスメント防止対策を講じる際、難しいのが前述したグレーゾーンの言動への対応です。こうした言動の行為者は多くの場合、悪気がありません。言動に問題があってもハラスメントに当たらなければ処分などを与えることはできませんし、かといって言動を改めるよう注意をしても、もともと悪気のない行為者は注意を素直に受け入れません。
とはいえ、他の従業員が不愉快と感じる言動を放置するのは望ましくありませんし、「自分は許されている」と誤解した行為者が、言動をエスカレートさせていく事態は避けなければなりません。グレーゾーンの言動をしている行為者を注意・指導する場合には、彼らが自分の言動を顧みるよう工夫する必要があります。
方法はさまざまですが、1つ例を挙げるのであれば、「ハラスメント防止研修」を実施することが考えられます。
ハラスメント防止研修は、ハラスメントに関する正しい知識を従業員に身に付けさせるための研修で、弁護士や社労士、人事コンサルタントなどが実施します。
ハラスメント防止研修を実施する際のポイントは、次のようなものがあります。
1)一般社員、管理職、相談窓口担当者など、従業員に応じて研修内容を分ける
ハラスメント防止研修にどのような内容を盛り込むかは、一般社員、管理職、相談窓口担当者などによって異なるため、研修も次のように分けて実施するのがよいでしょう。
1.一般社員向け研修
一般社員は、一般的には行為者より被害者になる可能性が高くなります。特にパワハラに関してはその傾向があります。
そのため、研修ではハラスメントに関する知識(ハラスメントの定義や種類など)について説明する他、ハラスメントを受けた・目撃した場合は、相談窓口に相談してほしい旨を強調します。時間は1時間から1.5時間程度が適切だといわれます。
2.管理職向け研修
管理職は、行為者になる可能性があるだけでなく、ハラスメント行為を把握したら適切に対応することが求められます。
そのため、研修ではハラスメントに関する知識だけでなく、ハラスメントのリスクや、発生を防止するために管理職として注意すべきことなどを説明します。管理職自身がパワハラなどの行為者にならないようアンガーマネジメントについて説明するのもよいでしょう。
なお、管理職はハラスメントの損害賠償が認められた裁判例の解説など、実務に根差した話があると真剣に耳を傾けてくれます。時間は3時間程度が適切だといわれます。
3.相談窓口担当者向け研修
相談窓口担当者は、ハラスメントが発生した場合に、迅速に事態を把握し、被害者への配慮のための措置を行うことが求められます。
そのため、研修では管理職向けの内容に加え、相談窓口の役割、相談を受ける際の留意点、ヒアリングの技術などを説明します。相談対応の実践練習をすることもあります。
特に重要なのは、ハラスメントの発生の恐れがあるだけだったり、ハラスメントに当たるかが微妙だったりといった、グレーゾーンの段階で相談が寄せられた場合の対応です。
グレーゾーンの段階で相談を受け、事態を把握できれば、企業は事態が深刻化する前に対応できるからです。時間は3時間から5時間程度が適切だといわれます。
2)自社独自の工夫をする
研修を実施する際は、従業員に「自社でもハラスメントが起こるかもしれない」という当事者意識を持って受講してもらいたいところです。そこで、一般論的なハラスメントの研修に加えて、自社独自の工夫をするとよいでしょう。
例えば、経営者や人事労務担当者などから、自社のハラスメントに関する規程、相談窓口と相談後の企業の対応などについて説明するのは、ハラスメントに関する理解を深めるのに効果的です。
また、研修に先立ってハラスメントについて社内アンケートを実施し、その結果を発表するのも、ハラスメントに関する意識を高めることにつながります。参加者に事前にハラスメント傾向を判断できるチェックテストを受けてもらってから受講してもらうのもいいでしょう。
3)経営者のメッセージを盛り込む
ハラスメント対策やセキュリティ対策のような、いわゆるリスクマネジメントは、リスクが発生すると大きなマイナスになるものの、うまくいっている間は表面上は何も起こらない「0(ゼロ)」の状態になります。
売り上げのようなプラスに直結しないだけに、現場からの自主的な取り組みに期待するのは難しい分野です。このため、ハラスメントの研修においては、経営者がハラスメント対策に本気で取り組む姿勢を見せる必要があります。実際、経営者や役員が参加した研修は、受講者全体の真剣度が高い傾向にあるようです。
経営者が参加できない場合でも、動画でコメントを出したり、メッセージを代読してもらったりして、ハラスメント研修の重要性を訴える工夫をしているケースもあります。
以上
【執筆者】
弁護士 坂東利国
東京エクセル法律事務所パートナー
日本労働法学会所属、働き方改革支援コンソーシアム顧問理事、一般財団法人日本ハラスメントカウンセラー協会顧問
<著書>「人事に役立つ ハラスメント 判例集50」(マイナビ出版 2020年3月)
「管理職用 ハラスメント研修の教科書」(マイナビ出版 2020年9月)
など多数
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