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仕事と介護の両立をサポートする! 必要な準備とは?

経営課題事例

2022-03-07

家族の介護のためにやむなく仕事を辞める介護離職。政府による仕事と介護の両立支援施策や、企業が取るべき介護離職防止対策のポイントを紹介します。

目次

家族の介護のために仕事を辞める「介護離職」――。2025年には人口が突出して多い「団塊の世代」が75歳を超えることで、要介護状態になる人も増え、団塊ジュニア世代の介護離職のリスクが高まるといわれます。

実際、介護離職者の多くは40~50歳代(団塊ジュニア世代)。企業にとって、経験を積んだ従業員が抜けることは大きなリスクです。

では、企業は介護離職のリスクとどのように向き合えばよいのでしょうか?

まずは、「寝耳に水」の状態で離職の申し出を受けることがないように、日ごろから従業員とコミュニケーションを取ることが第一歩。そのうえで、法定の両立支援制度介護サービスなどを利用することで、従業員が離職しないで済む道を探っていきましょう。

このコンテンツでは、年間約10万人いるといわれる介護離職の実態、それに対する政府による仕事と介護の両立支援施策をふまえつつ、企業が取るべき介護離職防止対策のポイントを紹介します。

1 年間約10万人! 介護離職の実態とは

どれくらいの人が介護離職を選択しているのでしょうか。総務省が5年ごとに行っている「就業構造基本調査」を基に見てみましょう。

直近の「平成29年調査」によると、介護をしている人は約628万人。このうち仕事を持つ人が約346万人となっています。6割近くの人が働きながら介護を行っていることになります。

(出所:総務省「平成29年就業構造基本調査」を基に作成)

また、過去1年間(2016年10月~2017年9月)に、介護・看護のために前職を離職した人は約9万9000人となっています。前回の「平成24年調査」では、過去1年間(2011年10月~2012年9月)に、介護・看護のために前職を離職した人は約10万1000人だったので、若干減少しているものの、依然として年間約10万人が介護離職を選択しています。

(出所:総務省「平成24年就業構造基本調査」「平成29年就業構造基本調査」を基に作成)

こうした事態を受け、国は「介護離職ゼロ」を目標に掲げています。そして、「介護サービスの存在・内容を十分に知らなかった」という理由で離職してしまうことがないように、介護保険制度や介護休業制度・介護休業給付の内容や手続きについての情報提供を充実させています。

また、育児・介護休業法の改正など、仕事と介護の両立支援に向けた法整備も進められています。 

2 企業独自の介護離職対策とは

介護のために離職を決意するに至るまで、従業員は、辞めずに済むのであればそれに越したことはないと考えているはずです。辞めた後の生活が厳しくなる恐れがあることを分かっているからです。

従業員の家庭の事情にまで踏み込むのは難しいですが、事前に家庭環境をある程度把握し、介護に直面したとしても離職をしないで済む道筋を示すことができれば、介護離職は避けられる可能性があります。

具体的に見ていきましょう。

3 従業員の家庭環境を把握する

最初に着手するのは、従業員の家庭環境の把握です。

上司による面談や全社的なアンケートを行って、自社に介護離職の予備軍がどの程度いるのか、従業員本人は家族の介護をどの程度真剣に考えているのか、介護離職のリスクが顕在化しそうな時期はどれくらい先なのかを把握します。

従業員は、介護について「家族の問題だから自分で何とかしなければ…」と考えがちで、企業が積極的に働き掛けない限り、悩みや不安を明かさないことも少なくありません。

そこで、経営者や上司が日ごろから次のような点をアピールし、職場で介護について話しやすい雰囲気をつくることを心掛けましょう。世間話の中で状況を探ってみてもよいかもしれません。

  • 介護は誰もが直面する可能性があり、自分だけのことではない
  • 介護を担う従業員に対して、仕事と介護の両立を支援するための制度がある
  • 介護休業などの支援制度の利用を理由に、評価が低くなることは決してない
  • 介護をしていることを隠さずに相談してほしい

4 積極的に情報を提供する

従業員の家庭環境などを把握するとともに、従業員が仕事と介護の両立のために利用できる制度・サービスなどについても情報を提供します。また、単純に制度の存在だけではなく、必要になればいつでも利用してほしい旨も伝えます。

介護離職をする従業員の中には、自分が利用できる制度・サービスについて正確な情報を把握していない人や、介護休業について知ってはいるものの、他の従業員に迷惑を掛けると思って利用しない人がいるからです。

育児・介護休業法に定められている「介護休業」「介護休暇」「介護のための所定労働時間の短縮措置等」「子の看護休暇や介護休暇の時間単位での取得」などの制度を整備することは、企業として最低限求められる取組みです。

企業が従業員に伝えておくべき情報として次のような事項が挙げられます。なお、労使協定で一部の従業員を制度の対象から除外している場合は、当該従業員が対象者に該当するかどうかを確認する必要があります。

  • 介護休業は、介護を必要とする家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割して取得できる
  • 介護休業を取得した場合、雇用保険法によって一定の要件のもと、休業開始前賃金の原則67%に相当する金額が介護休業給付金として支給される
  • 介護休暇は、介護を必要とする家族1人につき1年に5日間(2人以上の場合10日間)、1日単位または1時間単位で取得できる
  • 「短時間勤務制度」「フレックスタイム制度」「時差出勤制度」「介護サービスの費用の助成その他これに準じる制度」のいずれか(各企業で選定のうえ、就業規則等において規定)を、介護休業とは別に利用開始から3年の間で2回以上利用できる。ただし、「介護サービスの費用の助成その他これに準じる制度」については2回以上でなくてもよい
  • 介護を必要とする家族1人につき、介護の必要がなくなるまで、所定外労働の制限(残業の免除)が受けられる

ここで取り上げたのは、あくまで法定の両立支援制度です。こうした情報提供は、介護離職を防ぐためのきっかけづくりの1つ。従業員の不安を和らげるとともに、従業員から「もっとこうだったらいいのに…」という要望を聞き出せるかもしれません。

介護の悩みは、その従業員が置かれた状況で千差万別で、介護が必要な状態も刻一刻と変化し、一様ではありません。

例えば、デイサービスの送迎時間に対応できるように、勤務時間の繰上げ・繰下げや、テレワーク・在宅勤務を認めるほうが、長期にわたる介護休業よりも従業員にとっては好ましいということもあり得ます。

従業員が働き続けやすいのは、「融通が利く職場」。その実現を目指すためには積極的な情報提供は欠かせません。

また、公的介護保険サービスに関する基礎的な情報は自治体などから提供されていますが、企業としても、次のような情報を従業員に伝えておくとよいでしょう。

  • 介護について分からないことは、地域包括支援センターに相談すれば専門家が対応してくれる
  • 公的介護保険サービスを利用するためには、地域包括支援センターまたは市区町村に申請して、要介護(要支援)認定を受ける必要がある
  • 要介護(要支援)認定の申請方法や、ケアマネジャーの手配、ケアプランの作成については、地域包括支援センターが窓口である
  • 要介護状態(要支援は不可)や市区町村によって異なるが、24時間訪問介護(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)のように、日中の見守りから夜間の緊急対応まで柔軟なケアをしてもらえるサービスを利用できるかもしれないので、ケアマネジャーに相談するとよい
  • 要介護(要支援)認定を受けた後、ケアマネジャーが作成したケアプランは状況に応じて見直してもらうことができる他、ケアマネジャーを別の人に変更することもできる

例えば、従業員本人が介護保険料を支払うようになる40歳という節目の年に、公的介護保険サービスの基礎知識について学べるセミナーを開催したり、パンフレットを配付したりすると効果的かもしれません。

5 福利厚生の一環として団体保険に加入する

近年、損害保険会社が販売する団体保険で、従業員の親が介護状態になると保険金を受取れる、いわゆる「親の介護による休業補償特約」「親介護一時金支払特約」などが拡充されています。

介護が必要な状態になると、自宅のバリアフリー改修や、有料老人ホームへの入居でまとまった費用が必要になることが少なくありません。「親介護一時金支払特約」を付けることで、親の介護が必要となったときに一時金を受取り、こうした費用に充てることができます。

従業員の介護離職のリスクに備えるために、福利厚生の一環として、このような保険に加入することも検討するとよいでしょう。親介護一時金支払特約については、次の資料で具体的に解説しています。ぜひ、ご覧ください。

GLTD親介護一時金支払特約の詳細資料

6 社内に適切なアドバイスを行うことができる人材を確保する

介護そのものについては、地域包括支援センターやケアマネジャーが相談窓口になりますが、仕事と介護の両立のためには職場にも相談窓口が欲しいところです。

介護に直面している従業員は、今の状況がいつまで続くか分からず、不安を抱えています。そうした従業員の話に耳を傾け、課題を共有し、解決の道を一緒に考え、行動してくれる人が職場にいれば、心強いでしょう。

例えば、介護離職防止対策促進機構では、人事、ダイバーシティ推進、労務、総務、経営企画などの担当者向けに、「介護離職防止対策アドバイザー養成講座」を主催しています。こうした講座の受講を促すなど、一定の専門知識を持ち、適切なアドバイスを行うことができる人材を社内に確保することも大切でしょう。

以上

(執筆 日本情報マート)

(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

WS2021-1714(2021.2.24)

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