会社における労務費は人件費と同じ文脈で使用される傾向がありますが、そもそもの言葉の定義や意味の違いを理解しているでしょうか。
本記事では経営者向けに、労務費の基礎知識、人件費との違いから、建設業の工事見積もりに記載される労務費とは何かまで解説します。
1.会社の労務費とは?
労務費とは、工業簿記を用いる製造業の会社において「製造にかかった人件費」を意味する勘定科目で、資産として扱われます。
参照:第2款 製造等に係る棚卸資産 5-1-3(製造等に係る棚卸資産の取得価額)|国税庁
なお、製造業以外の会社は商業簿記のため、人件費である給料は費用として扱い、労務費の勘定科目を使用しません。
労務費に含まれるもの
労務費は、大きく「直接労務費」と「間接労務費」に分かれます。
労務費の内訳
労務費の種類 |
概要 |
備考 |
直接労務費 |
製造部門の従業員(直接工)に対する給与。基本給+時間外労働の割り増し賃金。 |
製品の加工や包装など直接的な製造の作業をする「直接工」の業務時間から、すぐに稼働できる待機中の時間(手待ち時間)を除いた「直接作業時間」に対し、時間に対する給与(予定平均金賃率)を掛けたもの。 |
間接労務費 |
直接労務費以外の給料や従業員賞与手当、退職給付費用、法定福利費など |
|
労務費を計算するには、まず直接労務費を「1時間あたりの賃金(円)×製品製造時間(時間)」で計算して求め、それ以外の間接労務費を合算して求めます。
なお、労務費の計算方法については次のコンテンツで詳しく解説しています。
労務費の計算方法や労務費率について解説
労務費と人件費の違い
労務費と人件費の違いは、どちらも「製造にまつわる人に対してかかった費用」を指す言葉ですが、使用する場面や文脈に相違点があります。
まず人件費は、一般的に、その人の製造の関わり方に関係なく、従業員にかかる費用全般を指します。
一方、労務費は人件費の一部を指しますが、人件費の方はすべて労務費になるとは言えず、単純に置き換えられる言葉ではありません。
製造業の工業簿記で会計処理する際は「労務費」と呼ばれ、製造業以外の商業簿記などで会計処理する際は「人件費」と呼ばれるため、通常であれば、同じ文脈で労務費と人件費の言葉が混在することはありません。
それでも、労務費と人件費が同じ文脈で使われた場合、それぞれの指し示す定義の差異を踏まえた表現である可能性があるため、注意が必要です。
労務費と人件費の違いを表にまとめると次のとおりです。
労務費 |
相違点 |
人件費 |
含む |
製造に関わる人(直接工)についての費用を含むか? |
含む |
含む |
製造部門以外の人についての費用を含むか? |
含む |
含む |
法令で提供義務のある法定福利厚生の費用(法定福利費)を含むか? |
含む |
含まない |
法律で定められていない会社独自の法定外福利厚生の費用(福利厚生費)を含むか? |
含む |
労務費の場合、法的に提供義務が課されていない法定外福利厚生の費用は含まれません。
人件費の場合、従業員に給与や各種手当て、社会保険など法令で提供が義務付けられた法定福利厚生にかかる「法定福利費」はもちろん、それ以外の会社が独自に提供する法定外福利厚生にかかる「福利厚生費」も含まれます。
福利厚生費については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生費とは?定義や類語との違いから非課税要件まで解説
ただし、法定外福利厚生の費用が福利厚生費として扱われるには、条件や金額上限など「社会通念上、相当」とされる基準を慶弔見舞金や家賃補助、ランチ補助などそれぞれの制度ごとのケースで満たす必要があり、何でも福利厚生費として計上できる訳ではありません。
福利厚生の慶弔見舞金については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見舞金とは?慶弔災害の種類と相場と制度導入する方法
福利厚生の家賃補助については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の家賃補助の費用相場や支給する対象と条件を解説
福利厚生のランチサポートについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生でランチをサポートするなら?食事支給と費用補助を解説
2.建設業における工事見積書にある労務費とは?
建設業における労務費も、基本的な意味は会社の労務費と同様です。
例えば工事費用を算出した見積書に「労務費」の記載がある場合、それは「工事を担う職人にかかる費用」を指します。
工事に直接携わる職人の給与や社会保険などの会社負担分などの直接労務費は、直接工事費にあたります。
それ以外の現場監督や事務所スタッフの給与などの間接労務費は間接工事費にあたり、見積書で記載する場合は「一般管理費」や「現場管理費」などと記載されます。
(執筆 株式会社SoLabo)
生23-4228,法人開拓戦略室