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パート労働者への厚生年金の適用拡大と公的年金シミュレーターの活用

法人保険の活用方法

2022-10-26

2022年10月に、厚生年金の対象となるパート労働者の範囲が拡大されました。本稿では、制度改正の概要を確認した上で、パート労働者の方ごとにどう影響するかを確認する方法をご紹介します。

目次

1.2022年10月から対象となるのは、どんな人?:社員100人超の企業で働くパート労働者

日本の公的年金制度には、国民年金と厚生年金があります。国民年金は、日本に住む20~59歳の人が加入する制度です(図表1)。また、会社員などとして働いていると、国民年金に加えて厚生年金にも加入します。厚生年金の対象になるかは、個人の就労状況(労働時間等)と職場(事業所)の形態によって決まります。

フルタイム勤務など通常の労働者の場合、個人の就労状況については、週の所定労働時間や月の所定労働日数が勤め先の通常の労働者の4分の3以上だと、厚生年金の対象となります。職場の形態については、職場が法人の事業所の場合は業種や規模に関係なく厚生年金の対象となり、職場が個人事業所の場合は法定された業種かつ通常の厚生年金加入者に該当する従業員が常時5人以上の場合に厚生年金の対象となります。

パート労働者(短時間労働者)の場合は、パート労働者に特有の就労状況や企業規模の要件を満たした場合に、厚生年金の強制適用の対象となります(図表2)。

2022年10月から、パート労働者に特有の要件の企業規模が、「社員500人超」から「社員100人超」へ拡大されました(企業規模の対象となる社員は、厳密には、前述した通常の厚生年金の加入者を差し、拡大の対象となるパート労働者を含みません)。また、パート労働者に特有の勤務期間の要件が廃止され、通常の厚生年金加入者と同じ「継続して2カ月を超えて使用される見込み」となります。

更に2024年10月からは、企業規模が「社員50人超」へ拡大されます。

図表1:日本の公的年金制度
図表2:パート労働者が厚生年金に加入する際の要件

2.厚生年金に加入すると、どう変わる?:保険料は企業と従業員で分担、基礎年金に加えて厚生年金も受け取れる

厚生年金に加入すると、保険料を企業と従業員で分担し、将来には基礎年金に加えて厚生年金も受け取れるようになります(図表3)。

これまで扶養の範囲を超えながら厚生年金の対象外として働いていた方など(国民年金の第1号被保険者)は、国民年金の保険料を収める必要がなくなり、新たに厚生年金の保険料を企業とご本人で半額ずつ分担します。給与の水準がそれほど高くない場合には、厚生年金保険料の本人分が国民年金の保険料を下回ることもあります。

これまで扶養の範囲内で厚生年金の対象外として働いていた方(国民年金の第3号被保険者)は、新たに厚生年金の保険料を企業とご本人で半額ずつ分担する必要がありますが、これまでのように扶養の範囲内に収まるように年収を調整する必要がなくなります。

2016年10月に社員500人超の企業に勤めるパート労働者が厚生年金の対象になった際には、制度の変更にあわせて働き方を見直したパート労働者のうち、これまで扶養の範囲を超えて働いていた方などの67%、扶養の範囲内で働いていた方の52%が、厚生年金が適用されるように所定労働時間を延長しました(図表4)。

この調査によると、厚生年金が適用されるように所定労働時間などを見直した理由としては、これまで扶養の範囲を超えて働いていた方などでは「保険料の負担が軽くなるから」や「将来の年金額を増やしたいから」が多く、これまで扶養の範囲内で働いていた方(保険料の本人負担分が新たに発生する方)では「もっと働いて収入を増やしたい(維持したい)から」や「将来の年金額を増やしたいから」が多くなっていました。

企業の人手不足感が続く中、厚生年金の適用拡大が、パート労働者の方が働く時間を延ばすきっかけになるかも知れません。

図表3:年金受給額・年金保険料額の目安
図表4:前回の拡大時に働き方を変更した人の変更内容

3.厚生年金に加入する影響を確認する方法は?:政府の「公的年金シミュレーター」で、自身への影響を実感できる

厚生年金に加入した場合に将来の年金額がどのように変化するかは、政府が発行しているパンフレットの例で目安を確認できますが(図表3)、政府が2022年4月から試験運用を始めた「公的年金シミュレーター」を使えば、パート労働者ご自身への影響を実感できます。

公的年金シミュレーターは、年金の見込み額を簡易に試算できるWebページです(図表5)。2022年4月以降に発行された「ねんきん定期便」(誕生月に届く年金見込額の通知)には同サービス用の2次元コードが印刷されており、これをスマートフォンで読み込んで生年月日を入力すれば、加入歴などを反映した試算ページを開けます(2次元コードがない場合は、Webページでこれまでの働き方などを入力する必要があります)。

初期状態の試算画面では、直近の収入で60歳になるまで働いた場合の年金の見込み額が、グラフで表示されています。グラフの下にあるスライドバーを動かせば、今後の年収や就労完了年齢、受給開始年齢を変更した場合の年金額が、グラフに即時に反映されます。

更に、画面をスクロールして働き方・暮らし方の入力欄を開けば、今後どういった働き方で何歳から何歳までどの程度の年収で働くかを変更・追加して、試算できます。この機能を使えば、現在は厚生年金に加入していなくても、今後は厚生年金の対象となった場合の年金額を確認できます。

このサービスで確認できる年金額には、受給開始年齢の変更による年金額の増減や、働きながら年金を受給した場合の減額という複雑な仕組みも、おおむね反映されます(配偶者が関係する給付などは反映されません)。そのため、例えば定年退職後に働き続けた場合の年金額も、確認できます。

図表5:公的年金シミュレーターの画面例

4.まとめ:対象者への説明の際に「公的年金シミュレーター」や、無料の「専門家活用支援事業」などを活用

企業としては、新たに厚生年金の対象となるパート労働者に対して、制度改正の概要を説明して、必要に応じて今後の労働時間などを話し合うことになります。

厚生労働省は「社会保険適用拡大特設サイト」に分かりやすいリーフレットやQ&Aを載せていますが、これらに加えて、前述した「公的年金シミュレーター」をパート労働者の方に活用していただければ、ご自身の年金額への影響を実感して、働く時間を延ばすきっかけになるかも知れません。

社会保険適用拡大特設サイト」や「公的年金シミュレーター」の活用が難しい場合は、厚生労働省の「専門家活用支援事業【無料】」を活用してはいかがでしょうか。最寄りの年金事務所へ申込めば、社会保険労務士が無料で派遣され、適用拡大への対応方針の検討、従業員への説明のサポート、手続きに関するアドバイスなどを相談できます。

更に、パート労働者が労働時間を延長した場合に申請できる「キャリアアップ助成金」や、賃上げなどに積極的に取り組む事業所が優先的に支援される「中小企業生産性革命推進事業」という仕組みも用意されています。厚生年金の適用拡大をきっかけに、これらの制度の活用を検討してはいかがでしょうか。

【リンク集】

(ニッセイ基礎研究所 中嶋 邦夫 保険研究部 上席研究員)

生22-4945,法人開拓戦略室

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