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経営者・人事労務担当者が知っておくべきハラスメントの種類と定義

経営課題事例

2021-11-11

ジェンハラ、テクハラ…新しいハラスメントが次々登場しています。職場で起こりがちな12種類のハラスメントを整理し、定義や具体例を紹介します。

目次

1 ハラスメントは「不法行為」であり、法令の定義もバラバラ

「ハラスメント」とは、簡単にいうといじめや嫌がらせのことなのですが、よく知られる「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ」の他、「テクハラ」「ジタハラ」「コロハラ」「ワクハラ」など、新しいハラスメントが次々に登場しています。

たくさんのハラスメントが登場して混乱するところですが、押さえておきたいのは、

  • 全てのハラスメントは、民法の「不法行為」になり得る
  • 法令によって定義されているハラスメントと、そうでないハラスメントがある
  • 法令によって定義されているハラスメントは、会社に防止措置が義務付けられているので、万が一発生した場合のリスクが大きい

ということです。

不法行為とは、「故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為」であり、ハラスメントはこの不法行為に該当する場合があります。そのうえで、ハラスメントはパワハラなど法令によって定義されているものと、そうでないものとに分かれます。

以上をまとめると、ハラスメントの全体像は次のようになります。

(図表)ハラスメントの全体像

(出所:日本情報マート作成)

ハラスメントの内容が法令によって定義されているのは、

「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ」「パタハラ」「ケアハラ」

の5種類です。これらは特に深刻なハラスメントであるため、一定の防止措置を実施することが企業に義務付けられています。

一方、法令による定義がないハラスメントの一例として紹介しているのは、

「モラハラ」「ジェンハラ」「テクハラ」「ジタハラ」「コロハラ」「ワクハラ」「ハラハラ」

です。これらは、社会情勢などから生まれたもので、特定の事柄に関連したいじめや嫌がらせを語呂合わせ的に表わしています。12.のハラハラは、企業のハラスメント対策を逆手に取るというもので、他のハラスメントとは性質が異なります。

ハラスメントの対策を講じるためには、各ハラスメントについて、どのような言動が問題になるのかを確認することが不可欠です。そこで、上記12種類のハラスメントについて、

定義(法令に定めがない場合は一般的な定義)と言動の具体例

を紹介していきます。

また、第3章以降では、ハラスメントが企業に及ぼす損失や1.から5.までのハラスメントに関する防止措置を紹介しています。ぜひご一読ください。

2 ハラスメントの定義と具体例

1)パワハラ(パワーハラスメント)

パワハラとは、職場の上下関係などの優越的な関係を利用した嫌がらせです。

【パワハラの定義】

  • 立場の高い人が立場の低い人に対し、次のような業務上必要のない言動を行い、それにより相手を傷つけ、仕事に支障を来すこと
  • 叩く・殴るなどの身体的な攻撃
  • 名誉毀損・侮辱・ひどい暴言などの精神的な攻撃
  • 仲間外し・無視
  • 不要なことや不可能なことの強制、仕事の妨害
  • 嫌がらせのために程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
  • 私的なことに過度に立ち入ること

【パワハラの具体例】

  • 仕事の報告をした際にファイルで殴る
  • 「給料泥棒」「こんなこともできないのか」などと侮辱する
  • 休日や休暇中に不必要な電話をかけて、仕事をさせる

なお、パワハラは上司が部下に対して行うイメージが強いですが、部下が上司に対して行うものも、上記のような内容に該当すればパワハラになります。こうしたパワハラを、一般的に「逆パワハラ」といい、次のコンテンツで詳しく解説していますので併せてご確認ください。

 逆パワハラとは? 発生する原因と上司側の対処法を事例とともに解説

2)セクハラ(セクシュアルハラスメント)

セクハラとは、身体的な接触や言葉による性的な嫌がらせです。

【セクハラの定義】

  • 性的な言動に対して相手が拒否や抵抗したことを理由に、不利益を与えること
  • 性的な言動により相手を傷つけ、仕事に支障を来すこと

【セクハラの具体例】

  • 性的な関係を拒否した従業員を部署異動させる
  • お酒の席で抱きついたり、抱きかかえたりする
  • 職場で公然と卑猥(ひわい)な発言を繰り返す

3)マタハラ(マタニティハラスメント)

マタハラとは、女性従業員の妊娠、出産、育児などに関する嫌がらせです。

【マタハラの定義】

  • 育児休業など育児のための制度を申請・利用したことを理由に、不利益を与えること
  • 妊娠、出産、育児などに関する言動により相手を傷つけ、仕事に支障を来すこと

【マタハラの具体例】

  • 育児休業の取得を理由として、降格させる
  • 妊娠中に「仕事が大変だったら辞めてもいいよ」などと言う

4)パタハラ(パタニティハラスメント)

パタハラとは、男性従業員の育児に関する嫌がらせです。

【パタハラの定義】

  • 育児休業など育児のための制度を申請・利用したことを理由に、不利益を与えること
  • 育児に関する言動により相手を傷つけ、仕事に支障を来すこと

【パタハラの具体例】

  • 育児のための時短勤務を理由として、人事評価を下げる
  • 「奥さんが育児をすればいいじゃないか」などと言う

5)ケアハラ(ケアハラスメント)

ケアハラとは、従業員の介護に関する嫌がらせです。

【ケアハラの定義】

  • 介護休業など介護のための制度を申請・利用したことを理由に、不利益を与えること
  • 介護に関する言動により相手を傷つけ、仕事に支障を来すこと

【ケアハラの具体例】

  • 介護休業の取得や介護のための時短勤務を理由として、重要な案件から外す
  • 「お前は残業しなくていいな、本当に介護しているのか」などと言う

6)ジェンハラ(ジェンダーハラスメント)

ジェンハラとは、性別に関する嫌がらせです。

【ジェンハラの定義】

  • 「男性だから」「女性だから」といった基準を持ち出して、相手が嫌がる差別的な言動を浴びせたり、その基準に沿った行動を強要したり、それによって相手を非難したりすること

【ジェンハラの具体例】

  • 「力仕事は男性の仕事だ」「お茶くみは女性の仕事だ」などと言う
  • 「この仕事は男性(女性)には無理だ」などと言う

7)モラハラ(モラルハラスメント)

モラハラとは、倫理・道徳に反する言葉や態度等による精神的な嫌がらせです。

【モラハラの定義】

  • 相手を無視したり、暴言や嫌味、相手の人格を否定するような言葉を吐いたり、相手を馬鹿にしたりすること

【モラハラの具体例】

  • 「こんな簡単なこともできないのか」などと嫌味を言う
  • 仕事に必要な情報の共有をしない

なお、モラハラはパワハラに似ていますが、上下関係がない同僚間などでも成立し、身体的な攻撃は含まれない(あくまでも言葉や態度等による)という点が異なります。

8)テクハラ(テクノロジーハラスメント)

テクハラとは、IT技術などに関する嫌がらせです。

【テクハラの定義】

  • パソコンやスマートフォン等のIT機器の扱いに不慣れな人に対し、ばかにするなどの言動をすること

【テクハラの具体例】

  • ITスキルが低い人を見下したり、わざと専門用語を多用して話したりする
  • ITスキルが低い人に、わざと高度なITスキルが必要な仕事を強要する

9)ジタハラ(時短ハラスメント)

ジタハラとは、働き方改革としての「時短」に関する嫌がらせです。

【ジタハラの定義】

  • 働きたいのに勤務時間を削ったり、膨大な量の仕事をこなさなければならない従業員に、残業や休日出勤を削るよう強要したりすること

【ジタハラの具体例】

  • 「働き方改革を進めているから、残業はするな」と言う
  • 仕事の量が変わらないにもかかわらず、シフトを削減する
  • 残業や休日出勤を禁止して、サービス残業を強要する

10)コロナハラスメント(略称:コロハラ)

コロハラとは、新型コロナウイルス感染症に関する嫌がらせです。

【コロハラの定義】

  • 特定の従業員について、新型コロナウイルス感染症に感染している恐れがあるとして不利益を与えたり、相手が嫌がる差別的な言動を浴びせたりすること

【コロハラの具体例】

  • 配偶者や家族が医療関係者であることを理由として、出社を制限する
  • 新型コロナウイルス感染症に感染した従業員を解雇する
  • 咳をした従業員に対して過剰な反応をする

11)ワクチンハラスメント(略称:ワクハラ)

ワクハラとは、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に関する嫌がらせです。

【ワクハラの定義】

  • ワクチン接種を強要したり、ワクチン接種の有無を理由に不利益を与えたり、相手が嫌がる差別的な言動を浴びせたりすること

【ワクハラの具体例】

  • ワクチンを接種していない従業員に対して解雇や部署異動、出勤停止などをする
  • 「ワクチンを接種しないなら営業担当から外す」などと言う
  • 副反応を理由とした欠勤を認めない

なお、予防接種法では、ワクチン接種はあくまで努力義務であり、強制ではなく個人の意思によって受けるものとされています。ですから、企業が就業規則などで勝手にワクチン接種を強制したり、ワクチン接種の有無を理由に不利益を与えたりすることはできません。

12)ハラスメントハラスメント(略称:ハラハラ)

ハラハラとは、企業がハラスメント対策に注力していることを逆手に取る嫌がらせです。

【ハラハラの定義】

  • 上司から注意されたり、少し怒られたりしただけで不快と感じて、すぐに「セクハラだ」「パワハラだ」と騒ぎ立てること

【ハラハラの具体例】

  • 上司の指導に対して、「ハラスメントだ、訴える」などと言って上司を萎縮させる
  • 日常のちょっとした言動に対して、ハラスメントを受けたとして騒ぎ立てる

ハラハラは、部下が上司に対して行うパワハラ(逆パワハラ)に該当する場合があります。どのような条件下で逆パワハラと認められるのか、次のコンテンツで分かりやすく解説しています。

 逆パワハラとは? 発生する原因と上司側の対処法を事例とともに解説

3 ハラスメントによる企業の損失

1)被害者となった従業員への損害賠償やこれに対する弁護士費用

ハラスメントが民法の不法行為として認定された場合、加害者となった上司や同僚は、被害者の従業員を傷つけたことに対する損害賠償責任を負います。また、これらの従業員を雇用していた企業も民法の使用者責任を負います。

これらの事態に対応するために、訴訟費用や弁護士費用がかかることもあります。

2)従業員の集中力・意欲低下によるミスの発生や生産性の低下による損失

ハラスメントを受けた従業員は、ストレスや萎縮から普段の能力が発揮できなくなったり、ミスを報告しなくなったりすることがあります。このような事態が積み重なれば、重大な仕事上の事故につながりかねず、企業の生産性も低下します。

また、周囲の従業員も、いつ自分にハラスメントの被害が及ぶか不安になり、仕事への集中力がなくなり、仕事に支障を来す恐れがあります。

3)メンタル不調者・休職者・退職者の増加による人材不足

ハラスメントを受けた従業員は、ストレスからメンタルヘルスに不調を来すことがあります。特に休職や退職に至るような事態になってしまうと、社内の人材が不足し、職場の環境も悪くなります。

また、ハラスメントがまん延すれば、被害者だけではなく周囲の従業員も企業への不信感を募らせ、最悪の場合、退職してしまう恐れがあります。

4)イメージダウンによる追加費用の発生

ハラスメントの事実やハラスメント対策が不十分であることが外部に公表されてしまうと、企業のイメージが大幅に低下します。一度、悪いイメージが広まると、取引先との関係にも少なからず影響が出るでしょうし、求職者も減ってしまうでしょう。

また、一度低下したイメージを回復するために、追加の宣伝広告費や求人広告費などが必要になる恐れがあります。

5)人事、コンプライアンス担当者の問題対応にかかる人件費

従業員からハラスメントの相談を受けた場合、企業は、ハラスメントの事実を調査し、対応する必要があります。しかし、特に中堅・中小企業の場合、調査や対応にあたる人材を確保するのは簡単ではありませんし、対応の間、通常の業務が滞ってしまいます。場合によっては、外部の専門家に調査を依頼することもあり、その際は別途費用がかかります。

このようにハラスメントの調査や問題対応にあたり、人件費が発生する恐れがあります。

4 ハラスメントに関する防止措置

「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ」「パタハラ」「ケアハラ」については、一定の防止措置が義務付けられているので、以下でポイントを紹介します。より詳しい内容は次のコンテンツで解説していますので、よろしければご確認ください。

 これってハラスメント? 定義・具体例・必要な防止対策を知ろう

1)企業の方針などの明確化とその周知・啓発

  • 職場におけるハラスメントの内容やハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化する
  • ハラスメント防止方針を就業規則などに定めて、従業員に周知・啓発する
  • ハラスメント防止研修などを通じて周知・啓発に努める

2)相談窓口の設置など、相談に応じて適切に対応するために必要な体制の整備

  • あらかじめ相談窓口を設置して、従業員に周知する
  • 相談窓口の担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにする

3)ハラスメント事案への迅速かつ適切な対応

  • ハラスメントが発生した場合に、事実関係を迅速かつ正確に確認する
  • 事実関係が確認できた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を行う
  • 事実関係が確認できた場合には、行為者に対する措置を適切に行う

4)1)から3)までと併せて講ずべき措置

  • 相談対応、事実確認、ハラスメントに係る事後の対応の際は、相談者や行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を従業員に周知する

5 【参考】2020年の法整備の動き

厚生労働省の調査によると、従業員向けの相談窓口において、最も多い相談テーマが「パワーハラスメント」とされている一方で、ハラスメントの予防・解決に向けた取り組みを実施している企業は半数程度にとどまっていました。この状況を踏まえて、国は、次のような法改正や法整備を進めてきました(※)。

(※)紹介する法改正・法整備は、2021年9月11日時点のものです。

1)労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が改正され、2020年6月1日より施行されました(中小企業は2022年4月1日適用)。具体的には、職場におけるパワハラの定義が明確となり、事業主は以下のような措置を講じることが義務付けられました。

  • パワハラ防止指針の明確化と周知・啓発
  • 苦情などに対する相談体制の整備
  • 被害を受けた従業員へのケアや再発防止
  • 事業主に相談したこと等を理由とした不利益取扱いの禁止

また、パワハラ防止法と併せて労働者派遣法も改正され、派遣事業主も「派遣労働者を雇用する事業主」として、パワハラ防止措置を講じることが義務付けられました。

2)男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の改正

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)とともに、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法が改正され、2020年6月1日より施行されました。職場におけるセクハラ、マタハラ、パタハラ、ケアハラなどの防止対策が強化されました。

3)精神障がいの労災認定基準の改正「パワハラ」認定項目の追加

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の改正を踏まえ、厚生労働省は、2020年6月1日より精神障がいの労災認定基準にパワハラや対人関係を追加しました。

具体的には、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」場合や「同僚等から、暴行または(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」場合が、具体的な出来事として例示されています。

以上

(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

生21-4648,法人開拓戦略室

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