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逆パワハラとは? 発生する原因と上司側の対処法を事例とともに解説

経営課題事例

2022-05-09

部下から上司に対して行われる逆パワハラ。定義や事例を紹介した上で、逆パワハラになる・ならないケースや効果的な対処法について解説します。

目次

逆パワハラとは、職場の部下から上司に対して行われるパワーハラスメント(以下「パワハラ」)です。パワハラは上司が部下に対して行うものと思われがちですが、厚生労働省の指針では、部下による言動もパワハラになり得ることを明記しています。

例えば、

  • 部下を少し注意しただけで、「パワハラだ! 訴えるぞ」と言ってくる
  • 部下に仕事をお願いしても「あなたの命令は聞きません」と反論し、従ってくれない

などが逆パワハラにあたります。

最近は、逆パワハラに悩む上司が増えているといわれ、うつなどの精神疾患になり休職するケースもあります。社内の逆パワハラを防ぐためには、上司の上長(部長クラスなど)を巻き込んで企業として対応する逆パワハラも視野に入れてパワハラ防止措置を講じるといった取り組みが効果的です。

この記事では、逆パワハラの定義や事例を紹介した上で、逆パワハラになる・ならないケースや効果的な対処法、実際に被害にあった際の相談先などについて解説します。

頭を抱えて悩む男性

1 逆パワハラとは

1)逆パワハラの定義

そもそもパワハラは、厚生労働省の指針(※)で次のように定義されています。

  • 1 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
  • 2 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • 3 その雇用する労働者の就業環境が害されること

(※)厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」

「1 優越的な関係を背景とした言動」とは、被害者が行為者に対して抵抗・拒絶するのが困難な力関係のもとで行われる言動のことです。通常は上司が部下に対して優位に立つものですが、実際はそうとも限りません。厚生労働省の指針でも、

  • 部下が業務上必要な知識・経験を持っていて、部下の協力を得なければ上司が業務を円滑に遂行できない場合
  • 部下からの集団による行為で、上司が抵抗・拒絶するのが困難である場合

などは、部下が上司に対して優位に立つため、「優越的な関係を背景とした言動」に含まれるとしています。

2)逆パワハラの成立要件

この「部下>上司」という「1 優越的な関係を背景とした言動」が行われ、さらに部下の言動が前述した「2 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「3 その雇用する労働者の就業環境が害されること」の要件を満たすと、部下から上司に対するパワハラ、つまり逆パワハラが成立します。

「2 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、社会通念上、明らかに業務上の必要性がない、または態様が相当でない言動のことです。

「3 その雇用する労働者の就業環境が害されること」とは、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業上看過できない支障を来すことです。

イメージをつかむため、次のような事例で考えてみます。

・スーパーマーケットのチェーンを展開する企業で本社勤務だった若手正社員Aさんが、経験を積むために地域の店舗の食品売り場に異動した

・Aさんが経験豊富なパート従業員たちに、経験者でないと分からない食品陳列方法について質問したところ、パート従業員たちが「上司のあなたが知らないことを私たちパートが知っているわけないじゃないですか」と言い続けて相手にしなかった

・その結果、Aさんはストレスにより休職してしまった

この事例では、集団対個人という人間関係や業務上の知識・経験の違いなどから、パート従業員たち(部下)が若手正社員(上司)に対して優位に立っていて、若手正社員が抵抗・拒絶するのが困難な状況にあります。そのため、パート従業員たちの言動は1の要件を満たします。

更に、経験者でないと分からない食品陳列方法をあえて教えないというのは、明らかに業務上必要がなく、相当でない言動ですから、2の要件も満たします。

そして、これらの言動の繰り返しにより、若手正社員について「ストレスによる休職」という就業上看過できない支障が生じているので、3の要件も満たします。そのため、この事例は逆パワハラになるといえます。

3)逆パワハラを放置するリスク

逆パワハラを放置すると、企業にとって次のようなリスクがあります。

  • 企業秩序が維持できなくなり、組織運営に支障を来す
  • 職場環境が悪化して労働者の仕事への意欲が低下し、労働能率も落ちる
  • 部下との関係に悩んだ上司がメンタルヘルス不調になり、休職・退職、最悪の場合は自殺に至る
  • 被害を受けた上司が、加害者である部下だけでなく、企業に対しても、使用者責任や安全配慮義務違反などに基づく損害賠償請求をして、訴訟等の問題になる

2 集団で行われる逆パワハラもある

先のスーパーマーケットの事例でも紹介したように、逆パワハラは、1対1の関係だけでなく、「部下複数対上司」の間でも発生します。例えば、次のような言動です。

  • 気に入らない上司に対して、部下全員が聞こえよがしに悪口を言う
  • 複数の部下が次々と上司に嫌がらせをする
  • 上司が部下Aに業務上の指示をすると、「私、忙しいので、Bさんにお願いしてください」と言い、上司が部下Bにそのことを伝えると、「私も無理ですよ。Cさんはどうですか」と言い、部下が意図的にたらい回しして業務上の指示を拒否する

一般的には、部下は上司よりも弱い立場にあるため、部下のハラスメント的言動が「優越的な関係を背景とした言動」と認められるケースは、1対1の場合よりも「部下複数対上司」の場合のほうが多いといえるでしょう。

3 逆パワハラになるケース、ならないケース

ここでは、部下から上司に対する言動の事例を幾つか挙げて、それぞれ逆パワハラになるか、ならないかを考えていきます。

●「そんなきつい言い方はパワハラだ! 訴えるぞ」(注意・指導に対する過剰な反応)

上司が適切な業務指示や指導をしたのに、複数の部下が徒党を組んで「パワハラだ」と糾弾し、脅し文句のように「訴えるぞ!」と繰り返して上司の業務指示や指導を受け入れない場合であれば、逆パワハラになる可能性が高いでしょう。

逆に、上司が実際にパワハラをしている場合であれば(「ばか野郎、使えないな」とか「新入社員以下だな」といった人格攻撃・侮辱的発言を繰り返すなど)、部下の言動には業務上の必要性・相当性が認められるので、逆パワハラになる可能性は低いでしょう。

なお、注意・指導を受けた部下が、SNSに「あいつはパワハラ上司だ」などと書き込んだ場合、逆パワハラとは別に、上司に対する名誉毀損行為という別の問題が発生します。

●「あなたの命令は聞きません」(業務命令に対する執拗な反発、反論)

部下の協力を得なければ、上司が業務を円滑に遂行できないにもかかわらず、部下が上司の適切な業務命令を何度も拒否し、結果、業務が滞り上司がメンタルヘルス不調になってしまったというような場合であれば、逆パワハラになる可能性が高いでしょう。

逆に、その部下がいなくても、上司が業務を代行したり他の従業員に頼んだりできる場合であれば、上司の就業環境を害しているとまではいえないので、逆パワハラになる可能性は低いでしょう。

●「○○課長が異動するまで仕事できません」(上司の配置転換や解雇の要求)

部下が集団で、特定の上司を職場から排除する意図で、再三にわたってその上司の異動を要求し、そのためにその上司がメンタルヘルスに不調を来して休職してしまったというような場合であれば、逆パワハラになる可能性が高いでしょう。

逆に、部下が単独で上司の配置転換や解雇の要求をしてきたような場合であれば、それだけで就業上看過できない支障が生じるとは考えにくいので、逆パワハラになる可能性は低いでしょう。

●「○○の言うことなんか聞かなくていいよ」(集団による無視、人間関係からの隔離)

部下が他の従業員を扇動し、集団で特定の上司を無視するなど、人間関係から隔離するケースです。こうした場合、「複数の部下>上司」という力関係が生まれ、業務上の必要性・相当性がない言動によって、上司の就業環境が害されることになるため、逆パワハラになる可能性が高いでしょう。

この手の言動は集団で行われることが前提なので、逆パワハラにならないケースは、上司自身がパワハラなど違法性のある言動を取っている場合などに限られるでしょう。

●「○○部長にセクハラをされたんです」(虚偽のハラスメントの捏造(ねつぞう)と訴え)

上司を陥れるために、部下が集団で虚偽のハラスメント申告をしたというような場合であれば、業務上の必要性・相当性がなく、上司の就業環境を害する言動なので、逆パワハラになる可能性が高いでしょう。

単独の部下による虚偽の申告の場合、「優越的な関係を背景とした言動」が認められず逆パワハラにならない可能性がありますが、そもそも上司の人格権や名誉感情を害する言動は違法行為なので、行為者を社内処分することはできます。

4 逆パワハラが発生する5つの理由

1)管理職の指導力の低下

上司の中には、部下とトラブルを起こすと自分の出世に影響すると恐れ、事なかれ主義に陥る人がいます。そうなると、部下の管理や指導が不十分になり、部下のほうも適切な管理・指導を行わない上司を軽視するようになってしまいます。

また、人手不足の現場などでは、上司が実務をこなしながら、管理職としての部下指導も行わなければならないケースがあります。この場合も、部下の管理や指導が不十分になってしまうことがあります。

2)経験値や能力値の逆転

ITなどのビジネススキルは、若い部下のほうが上司よりも早く適応できるケースがあり、その結果、若手の部下が年配の上司よりも能力値で上回ることは少なくありません。

また、逆に若手従業員が上司になる場合、経験値で勝る年配の従業員が部下に就くことがあります。こうした状況では、上司に対する尊敬が薄れ、部下になめられやすくなります。

3)社会の価値観の変化

かつては、立場が上の人や年長者に対して反論したり口答えしたりすることは、良しとされていなかったといえるかもしれません。

しかし、近年はハラスメントの概念の浸透や、年功序列型の雇用システムの崩壊などから、立場や年齢に関係なく、言うべきことは言ってよいという風潮になりつつあります。

4)経営者の姿勢

従業員数が多くなってくると、経営者は一人ひとりの従業員を管理するのが難しくなり、上司が部下の管理を担当します。しかし、経営者が上司に部下の管理を任せきりにして無関心になってしまうと、上司が孤立し、逆パワハラが発生しやすくなります。

逆に、経営者が上司の指導力を信頼せず、自分で指揮を取ってしまって、部下が上司を軽視するようになることもあります。

5)社内教育の不足

ハラスメント教育が不十分なために、上司がパワハラになる言動と、ならない言動(適切な業務指示や指導として許容される言動)を区別できていないことがあります。

そのような場合、「パワハラ」という言葉が独り歩きし、パワハラと糾弾されることを恐れる上司が、毅然とした態度で部下を指導できなくなってしまい、部下が上司を侮るようになることがあります。

5 企業が逆パワハラに対応する上で効果的な4つの対処法

1)毅然とした態度で臨むよう上司に呼びかける

経営者から上司に対し、「部下から逆パワハラを受けたと感じたときは、毅然とした態度で指摘し、注意・指導する」ように伝えます。

ハラスメントは受け流しているだけでは状況は改善されませんし、そもそも加害者にはハラスメントの明確な意識がないこともあります。また、上司は部下を注意・指導する権限と責任があります。

2)上司の上長を巻き込み、組織的に逆パワハラに対応する

逆パワハラが疑われる言動に及ぶような部下のマネジメントを、上司が単独で行い続けるのは困難です。単独での対応を強いられた上司が、強い心理的負荷にさらされてメンタルヘルス不調になってしまう恐れもあります。

現実的な対策として、経営者から上司の上長に対し、上司のサポートに入るよう呼びかけ、組織的に逆パワハラに対応することが挙げられます。

3)逆パワハラも視野に入れてパワハラ防止措置を講じる

企業には、一定のパワハラ防止措置を講じることが義務付けられています(中小企業は2022年4月1日より義務化)。措置の内容は次のとおりです。

  • ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など)の明確化、周知・啓発
  • ハラスメントに関する相談窓口の設置・運用
  • 事実確認、ハラスメント行為者への適正な措置(懲戒処分、被害者と距離を離すための配置転換など)と再発防止策(ハラスメント研修の実施など)の検討
  • 相談者や行為者のプライバシーの保護、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の周知・啓発

措置を講じるにあたっては、逆パワハラもパワハラの1つであり防止の対象となること、相談窓口では逆パワハラの相談も受付けることなどを明確にして、社内に周知しましょう。

また、事実関係を確認した結果、逆パワハラやそれに類似した言動が生じた事実の確認に至らなかった場合であっても、問題・紛争は発生している以上、放置することなく、事案の内容に応じて、当事者への注意・指導や当事者間の関係調整の措置などを行いましょう。

4)部下に対する注意・指導の記録を残す

社内の紛争が外部の手続(あっせん・調停や労働審判、訴訟など)に移行した場合には、証拠資料があるかどうかで結論が左右されることが多くあります。

口頭で「こういうことがあったのです」と説明しても、当事者の主張を裏付ける資料が乏しければ、外部手続の担当者(あっせん員や裁判官など)は、証拠不十分として主張を退けることになりがちです。

また、当事者同士でも、「言った」「言わない」の水掛け論を防止するために、証拠資料を残しておくべきです。

証拠資料を残す方法としては、例えば、次のようなものが考えられますので、経営者が方針を決め、部下を注意・指導する上司に徹底させるようにしましょう。

  • メールやチャットツールでやり取りする(やり取りの日時、内容などが記録され、相手からの返答内容も記録される)
  • 口頭のやり取りの記録がない場合、問題が発生したら、できる限り速やかに書面化しておく(時系列表などを作成するとよい)
  • 口頭の注意・指導の状況は、指導内容や当該従業員の態度などを「指導票」「報告書」などの書類に記録しておく(wordやexcelなどはデータのままにしておかず、面談などのたびに作成日時などを入れて作成者の署名をした正式の書類にしておくと、証拠としての信用性が高まる)
  • 口頭で注意・指導を行う場合に、複数名で行う(「言った」「言わない」となるのを予防するため。注意・指導の状況の書面化もしておく。なお、複数名で部下を威圧したと言われることのないように配慮することも必要)
  • 注意・指導の状況を録音しておく

近年は、ハラスメントに関する法規制が強化されていることもあり、ハラスメントが法的紛争に発展するリスクは高まっているといえます。こうした状況の中、従業員からの損害賠償請求や弁護士費用の負担を軽減するための保険サービスに加入する企業もあります。

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6 逆パワハラに至らない言動でも放置は危険

逆パワハラは、職務上の上下関係は「上司>部下」であるにもかかわらず、実際の力関係が「部下>上司」になっているという特殊な状況下で行われます。そのため、逆パワハラが成立するためのハードルは、通常の上司から部下へのパワハラよりも高いといえます。

しかし、仮に逆パワハラにならなくても、部下から上司に対する問題行動を放置するのは危険です。

例えば、1人の新入社員が上司を誹謗(ひぼう)中傷する言動を社内で繰り返した場合は、その新入社員の言動は、「優越的な関係を背景」としているとまでは言えず、逆パワハラになりません。

しかし、こうした言動は名誉毀損という違法行為なので許されません。逆パワハラに類似する部下の言動が、違法な「モラルハラスメント」であるとして、上司が部下に損害賠償請求訴訟を提起した事例もあります。

また、逆パワハラや逆パワハラに類似する言動が、就業規則に定められた懲戒事由に該当する場合には、懲戒処分できる場合があります。

7 逆パワハラの被害にあったときの相談先

1)企業の相談窓口

パワハラ防止措置の一環として、ハラスメントに関する相談窓口の設置が義務付けられています。相談窓口は、弁護士事務所やコンサルタントなど外部に置くこともできます。

企業は、従業員に対し、ハラスメントの相談を行ったことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないとされており、従業員は、安心して相談できるようになっています。

企業の相談窓口に相談した場合は、企業によって事実関係の確認や相談者・行為者への措置、当事者の関係改善援助などが行われ、企業内で自主的な紛争解決をすることになります。

2)総合労働相談コーナー

企業内での自主的な紛争解決が難しい場合などには、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」に相談することができます。

都道府県労働局では、労働紛争解決援助制度として、総合労働相談コーナーでの相談の他、都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会のあっせん(行政ADR)による話し合いが用意されています。

■「総合労働相談コーナーのご案内」■
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

以上

(執筆 弁護士 坂東利国)

生22-2237,法人開拓戦略室

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