本業以外の仕事を持つ「副業」や、仕事を掛け持つ「兼業」を許可する福利厚生制度を導入するか否か、導入するなら労務管理はどのようにすべきか、お悩みではないでしょうか。
本記事では、労務管理が必要になる副業・兼業とは何か、どのような労務管理が必要なのかについて解説します。
1.副業・兼業の福利厚生が注目される背景
本業以外に仕事を持つ「副業」や、仕事を掛け持ちする「兼業」が注目される背景には、国の後押しがあります。
2018年に策定された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、2020年、2022年と相次いで改定され、自社のホームページなどで、副業・兼業の可否を含めた企業の取り組みを公表することが推奨されています。
参照:副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月改定)(PDF)|厚生労働省
Q&Aやガイドラインについての解説も公開されています。
参照:副業・兼業の促進に関するガイドラインQ&A(2022.7)(PDF)|厚生労働省
参照:副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説(2022.10)(PDF)|厚生労働省
2002年から2017年の調査において、正規・非正規に関わらず、副業を希望する者と、実際に副業を行う者は増加傾向にある、という結果が出ています。
参照:平成29年就業構造基本調査 結果の概要(PDF)「図Ⅰ-9 雇用形態別副業者比率及び追加就業希望者比率の推移-平成14年~29年」|総務省統計局
2017年時点の同調査で、本業とは別に副業がある者の割合は4.0%で、副業を希望する者の割合は6.4%ですが、国の後押しを受けて、次の調査では更に伸びるものと考えられます。
福利厚生制度としての副業・兼業は、働き方改革で推進された社員の待遇改善とともに注目されているといってよいでしょう。
働き方改革と福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
働き方改革を推進する福利厚生とは?取組事例やポイントを解説
2.労務管理の対象になる副業・兼業とは?
本業の会社の福利厚生としての副業・兼業がある場合、2パターンがあることを押さえておきましょう。
- ①副業・兼業で会社勤めをする
- ②副業・兼業で個人事業主やフリーランスになる
労務管理における勤怠管理の点で言えば、①のケースでは管理対象ですが、②は管理対象外となります。
ただし、労務管理における労働安全衛生の観点で言えば、①と②のケースのどちらにも安全配慮義務が生じるため、管理対象です。
副業・兼業の許可を与えた後も、労働者からの定期報告を義務付けるなど副業・兼業の状況について把握に努め、心身の健康上の懸念が見られた場合は適切な措置を行う必要があります。
勤怠管理や労働安全衛生など労務管理については次のコンテンツで詳しく解説しています。
労務管理とは?基礎知識から起こり得る問題と対応まで解説
なお、副業・兼業を許可する福利厚生制度を導入する場合、正規・非正規など社員の種類によって利用条件が異なると、不合理な待遇差として是正対象になる可能性があるので、制度設計には注意が必要です。
社員の種別による福利厚生の待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
正社員の福利厚生と待遇差がある従業員がいるとき必要な対応とは?
①副業・兼業で会社勤めをする
「①副業・兼業で会社勤めをする」というのは、会社員はもちろん、パートやアルバイトなど特定の企業と雇用契約を結ぶケースが該当します。
このケースは本業と2社目のどちらの会社にも雇用され、労働基準法における「労働者」に当るため、副業・兼業での賃金は本業とあわせた労働時間で計算されます。
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
引用:労働基準法(労基法)第三十八条(時間計算)|e-Gov
法定労働時間の「1日8時間、1週40時間」を超えて働くには、1.25倍の割増賃金を2社目が支払うことになります。
ただし、「36協定」(読み方:さぶろくきょうてい)で定める時間外労働時間に罰則付きの上限が設けられており、本業の会社の仕事にも差し支える可能性があり、注意が必要です。
時間外労働の上限(「限度時間」)は、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。
引用:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針(PDF)|厚生労働省
会社として副業・兼業を認める場合、社員の2社目の企業と話し合い、労働時間の調整などの労務管理が必要になります。
都度、勤務時間の共有と調整は手間なので、国のガイドラインが推奨する「副業・兼業の労務管理モデル」に従い、副業・兼業を開始する際に取り決めを行うのがよいでしょう。
*「副業・兼業の労務管理モデル」については本記事の末尾で解説します
②副業・兼業で個人事業主やフリーランスになる
「②副業・兼業で個人事業主やフリーランスになる」というのは、個人事業主やフリーランスなどの自営業、他の会社の執行役員など委任・請負契約を結ぶケースが該当します。
このケースでは、副業・兼業が「労働者」ではなく「事業主」であるため、労働基準法の適用外となり、本業の労働時間が本業とあわせて計算されません。
ただし、労働時間の管理が労務管理の対象外となることで、社員が本業とのダブルワークによる長時間労働で過労状態になったケースを見逃しやすく、最悪の場合に本業で過労死や労災につながる可能性があるため、社員の心身の健康管理がより重要となります。
参照:副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説(2022.10)(PDF)p.34 (3)健康管理|厚生労働省
3.副業・兼業の労務管理モデルを活用する
本業と労働時間が通算になる副業・兼業の場合、本業の方で企業が定めた労働時間を超えた残業(所定時間外労働)が発生すると、2社目の会社と都度、社員の勤務状況を共有するなど手間がかかります。
その場合、国のガイドラインで推奨される管理モデルに沿って、副業・兼業の開始時に取り決めると効率的に勤怠管理が行えます。
副業・兼業の労務管理モデルというのは、法定の上限規制である「月100時間未満、複数月平均80時間以内」の範囲内で、本業の方の企業(A社)所定外労働時間と、副業・兼業の方の企業(B社)の労働時間において、それぞれ上限を設定し、割増賃金を支払う仕組みです。
本業の会社の方で所定時間外労働を行う可能性のある勤務形態の社員が副業・兼業を希望するケースでは、事前に取り決めておくことで、その従業員の毎月の実労働時間を把握せずとも、A社B社の双方ともに法令違反をすることはありません。
互いの影響を受けないよう事前に枠を取り決める管理モデル
引用:副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説(2022.10)(PDF) p.16 管理モデルとは?「管理モデルのイメージ」図|厚生労働省
また、管理モデルの導入には、副業・兼業を行う従業員に対して本業のA社が管理モデルの導入を提案し、従業員自身が管理モデルの導入を了承すること、そして、従業員から提案を聞いた2社目のB社が了承することが必要です。
なお、本業の会社の方で、所定時間外労働を行わない勤務形態の社員については、事前の取り決めをせず、2社目のB社が本業の労働時間と通算した場合に割増料金を払う仕組みでも問題ありません。
事前の取り決めを行わない管理モデル
引用:副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説(2022.10)(PDF) p.16 管理モデルとは?「管理モデルのイメージ」図|厚生労働省
(執筆 株式会社SoLabo)
生23-4214,法人開拓戦略室