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通勤手当とは?定義や類語との違い、課税ルールと計算方法を解説

経営課題事例

2024-04-18

「通勤手当と課税」をテーマに、通勤手当の定義や、通勤交通費や出張旅費など類語との違い、非課税限度額の計算方法について解説します。

目次

職場までの交通費を「通勤手当」として社員に支給している会社は珍しくなく、広く普及している福利厚生のひとつと言えます。

その理由には、国税庁が指針を出す、社会通念上相当の「通勤手当」とみなされる金額までであれば、通勤手当として支給したものが非課税になり、会社として利点が大きいことが挙げられます。

その一方で、リモートワークの普及により、在宅勤務が基本になった大手企業を中心に、通勤手当の制度を取りやめる動きも見られます。

本記事では、通勤手当の基本として、通勤交通費や旅費交通費などの類語との違いからメリット・デメリット、非課税限度額やその計算方法について解説します。

また、通勤手当のよくある質問(FAQ)として、非正規の社員の扱い、勤務先や自宅が複数ある社員の扱い、リモートワーク勤務者の扱いについて回答もしていますので、通勤手当について知りたい経営者の方はぜひ最後までご一読ください。

1.通勤手当とは?

通勤手当とは、社員の自宅から職場までの通勤にかかる費用を、会社が手当として全額または一部の費用を負担することを指し、一般的には福利厚生の一種として扱います。

通勤手当は給与所得であるため、通常であれば社員の基本給の一部として所得税が課されるものですが、国税庁が指針を出す「社会通念上相当」とされる非課税限度額までであれば、福利厚生における「現物給与」としてみなされ、社員に所得税が課されません。

つまり、通勤にかかる費用を給与に上乗せするより、通勤手当として別枠で支給した方が会社として節税でき、社員の手取りが増えるのです。

そのため、日本国内では会社規模に関わらず通勤手当の導入率が9割以上(*)と高く、世間一般に広く普及している福利厚生のひとつと言えます。
(*)参照:「令和2年就労条件総合調査の概況」第18表 諸手当の種類別支給企業割合(令和元年11月分)|厚生労働省

ただし、通勤手当は、法的に社員に提供することを義務付けられた法定福利厚生には当たらないため、会社ごとに就業規則内に定めたルールや支給金額が異なります。

当然、会社によっては通勤手当の制度がないこともあります。

また、2020年頃からのリモートワークの普及により、在宅勤務を主流とした大手企業を中心に、「社員の通勤」が常態でなくなったことで、通勤手当の制度を廃止した例も見られます。

通勤手当を廃止した会社では、既存の出張旅費の精算を拡大解釈し、社員が出勤した場合、都度「出張」とみなし、旅費交通費として扱っているものと考えられます。

福利厚生におけるリモートワークについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説

通勤手当の相場金額は、会社や通勤手段によってケースバイケースです。

ご参考までに、通勤手当の非課税限度額は、公共交通機関を使用するケースでは社員一人あたり1カ月につき15万円までであるため、定期券を購入し、月で割った金額がそこまでであれば許可される可能性があると言えるでしょう。

*通勤手段や組み合わせなどによっても非課税限度額が変わるため、挙げたケースはあくまで一例です。本記事の後半の「通勤手当の課税対象と非課税限度額の計算方法」で詳しく解説します。

通勤手当と通勤交通費との違い

通勤交通費は、社員の通勤にかかる費用の会社負担分、あるいは通勤手当を経理上で処理する際の費用名(勘定科目)を指します。

通勤交通費は、単に「通勤費」と呼ばれることもあります。

福利厚生の一種である「通勤手当」を、費用の側面を強調する文脈では「通勤交通費」として呼称するというだけで、ほぼ同義と言えます。

通勤手当の非課税限度額を超えて通勤交通費を全額支給するのであれば、超過した金額分には所得税が課税されます。

通勤手当と旅費交通費との違い

旅費交通費は、社員が業務都合で営業先へ移動や出張した際にかかる費用、またはその勘定科目を指します。

旅費交通費は原則、非課税です。
参照:No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い|国税庁

なお、会社によっては通常であれば「通勤交通費」に計上する分を、「旅費交通費」の勘定科目にまとめるケースもあります。

2.会社が通勤手当を支給するメリットとデメリット

会社が通勤手当を支給するメリットは、次のとおりです。

  • 一定額まであれば非課税で、普及率の高い福利厚生が社員満足度につながる
  • 公共交通機関で6カ月定期券などを購入した場合、通勤交通費が安く抑えられる
  • 社員の自宅や通勤ルートの情報が常に最新化され、把握しやすい体制を維持できる

社員の自宅や通勤ルートの把握は「通勤災害」が起こった場合に重要です。

社員が通勤時に事故や事件に巻き込まれて負傷や死亡した際、通勤災害と認定されれば社員や遺族には相応の生活保障が行われます。

ただし、社員の自宅や通勤ルートが変わっていたのに会社側が把握していないとスムーズに手続きできないだけでなく、通勤災害と認定されない可能性もゼロとは言えません。

ご参考まで、通勤災害が適用される要件は次の参照先をご覧ください。
参照:通勤災害について|厚生労働省・東京労働局

会社が通勤手当を支給するデメリットは、次のとおりです。

  • 通勤手当を支給するには会社の費用が必要である
  • 通勤手段などによって非課税限度額がケースバイケースで社員一人一人に確認して通勤手当を支給する手間がかかる
  • 通勤手当を支給すると、会社が負担する社会保険料が増える

社会保険料と通勤手当に相関関係が見られる理由は、健康保険料や介護保険料、厚生年金保険料などの社会保険料は、会社と社員で折半して費用負担しますが、基本給に通勤手当などの恒常的に支給する現金をあわせた「標準報酬月額」をもとに計算して支払額を計算するため、です。
参照:Q.標準報酬月額の対象となる報酬に、通勤手当は含まれるのですか。|日本年金機構

3.通勤手当の課税対象と非課税限度額の計算方法

通勤手当の非課税限度額を計算するには、まず通勤手段が「公共交通機関を使うか否か」で大きく変わります。

また、通勤手段が公共交通機関を使わない場合、社員の勤務地と自宅までの距離という条件でも非課税限度額が変わります。
参照:所得税法施行令第二十条の二(非課税とされる通勤手当)|e-Gov

なお、繰り返しの説明になりますが、1か月当たりの非課税となる限度額を超えて通勤手当や通勤定期券などを支給する場合、超える部分の金額は給与として課税されます。

電車・バスなど公共交通機関で通勤するケース

電車やバスなどの公共交通機関だけを使った「最も経済的かつ合理的な経路および方法」で通勤する社員の場合、通勤手当や通勤定期券などで1カ月当たり15万円までの非課税限度額が設定されています。
参照:No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当|国税庁

例えば、通勤の経路や方法が合理的でないとされる可能性が高いケースは、次のとおりです。

  • 通る必要性のない駅をわざわざ通る、迂回するような経路で通勤しているケース
  • 普通電車で十分なのに、わざわざ高額な特急券を購入して通勤しているケース

なお、通勤時に社員が公共交通機関以外にマイカー・自転車など交通用具も一緒に用いるケースは、「公共交通機関と交通用具を併用するケース」に当り、非課税となる条件が変わるため、注意が必要です。

マイカー・自転車など交通用具で通勤するケース

公共交通機関を使わず、マイカー・自転車など交通用具だけで通勤する社員に支給した通勤手当は、一定の限度額まで非課税です。

その場合の1カ月当たりの非課税限度額は、通勤経路に沿った「片道の通勤距離」に応じて決まります。

マイカーなどで通勤している人の非課税となる1か月当たりの限度額の表

片道の通勤距離

1か月当たりの限度額

2キロメートル未満

(全額課税)

2キロメートル以上10キロメートル未満

4,200円

10キロメートル以上15キロメートル未満

7,100円

15キロメートル以上25キロメートル未満

12,900円

25キロメートル以上35キロメートル未満

18,700円

35キロメートル以上45キロメートル未満

24,400円

45キロメートル以上55キロメートル未満

28,000円

55キロメートル以上

31,600円

引用:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁

なお、ガソリンや電気などの通勤にかかる費用については、燃費と通勤距離などで算出するのが一般的です。

マイカー通勤にかかる費用= [ガソリン代 ÷ 燃費]× 往復の通勤距離 × 勤務日数
*電気自動車(EV)の場合は[充電代 ÷ 電費]

公共交通機関と交通用具を併用するケース

電車やバスなどの交通機関のほかに、マイカーや自転車などの交通用具も併用して通勤している社員への通勤手当も、一定の限度額まで非課税です。

公共交通機関と交通用具を併用するケースの非課税限度額は、次の(1)と(2)を合計した金額で、1か月当たり15万円が限度です。

1.電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1か月間の通勤定期券などの金額

2.マイカーや自転車などを使って通勤する片道の距離で決まっている1か月当たりの非課税となる限度額

引用:No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当|国税庁

6カ月定期を購入する際の通勤手当の計算

公共交通機関の6カ月定期乗車券や、交通用具の6カ月定期駐車券など、6カ月定期で購入する場合、通勤手当は月額で経理処理できます。

ただし、定期代が非課税限度額を超えている場合、通勤手当の支給月で超過分を所得税の課税対象に含めて計算します。

例えば、6カ月定期代が95万円の場合、1カ月あたりの15万円×6カ月=90万円が非課税なので、超過した5万円分は支給月での課税対象額に含めます。

4.通勤手当に関するよくある質問(FAQ)

通勤手当に関するよくある質問として、次の内容を解説します。

通勤手当を始めるにあたり、就業規則に何を書くべきか?
非正規の社員の通勤手当はどう扱う?
途中で通勤方法を変更した社員の通勤手当はどう扱う?
勤務先が複数ある社員の通勤手当はどう扱う?
社員がセカンドハウスを持つ場合の通勤手当はどう扱う?
リモートワーク勤務が主流になった場合、通勤手当をどう扱う?

通勤手当を始めるにあたり、就業規則に何を書くべきか?

通勤手当に限らないことですが、新たに福利厚生制度を始める場合、支給対象者、利用する通勤手段などの支給条件や制限を定め、就業規則への記載など必要な申請手続きを行う必要があります。

例えば、通勤手当の支給は公共交通機関だけで通勤する社員に限る、車や自転車などの通勤手段は認めない等、会社によっても詳細は異なります。

通常、定期券は1カ月のものよりも6カ月定期券のほうが割引率は大きいですが、社員の転勤を伴う異動や中途入社・退社、リモートワークや在宅勤務による通勤の頻度などを含めて考えた上で、通勤手当の仕組みを考える必要があります。

新しい生活様式の普及によって、これまで福利厚生のあり方が変わっていることも加味し、他の福利厚生制度と一緒に見直し、検討を進める必要があります。

福利厚生の見直し方については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見直しはどう行う?時期とやり方について解説

非正規の社員の通勤手当はどう扱う?

パート・アルバイトのような非正規の社員の通勤手当の非課税限度額については、日割額ではなく月額で判定する点に注意が必要です。

参照:アルバイトに支給する通勤手当の非課税限度額|国税庁

また、派遣社員など、社員と同等に勤務する非正規の社員については、正規の社員と待遇差がある場合、是正対象となる可能性があります。
参照:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~改正労働者派遣法の対応~(労働者派遣業界編)2.労働者派遣法改正のポイントp.15|厚生労働省

例えば「一般社員には通勤手当があるのに、非正規だと一切支給されない」という待遇差があった場合、説明を求められた時に、会社側には合理的な理由を説明する義務があります。

社員の種別による福利厚生の待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
社員の種類で福利厚生が違うとどうなる?待遇差の見直し方法を解説

途中で通勤方法を変更した社員の通勤手当はどう扱う?

社員が合理的な理由から途中で通勤方法した場合、その月の非課税限度額は「変更前」か「変更後」のどちらかに合わせる必要があります。

通勤方法を変更した月の非課税限度額は「変更前」と「変更後」の通勤距離のうち、いずれか長い方の通勤距離に応じた金額となります。
参照:交通用具を使用している者の通勤距離が変更となった場合の非課税限度額|国税庁

一般的には、「変更後」の通勤経路の定期代を支払った後、「変更前」の通勤経路で公共交通機関の6カ月定期券を購入している場合、払い戻しができそうであれば、社員に途中の払い戻しを行わせ、払い戻し分を雑収入で経理処理するものと考えられます。

勤務先が複数ある社員の通勤手当はどう扱う?

勤務先が複数ある場合、合理的な範囲と認められれば、非課税限度額まで合計した額を非課税にできます。

それぞれの勤務先への通勤日数に応じた「合理的な運賃等の額」の合計額を1カ月当りで計算し、その合計額が非課税限度額の15万円以下である必要があります。
参照:数か所に勤務する者に支給する通勤費|国税庁

社員がセカンドハウスを持つ場合の通勤手当はどう扱う?

社員が二拠点生活を送っているなど、自宅とは別のセカンドハウスを持ち、そこから出勤する場合、一般的には「出張」として扱われるものです。

その理由は、あくまで通勤手当に該当する条件は「社員の自宅から職場まで」の経路であり、社員が住民票のないセカンドハウスを自宅と認めるケースは、万が一通勤災害が起こった際に判定されないリスクの観点から見て、あり得ないから、です。

例えば、リモートワークで在宅勤務が多く、都市部にある自宅と地方に別宅を持つ社員の場合、セカンドハウスから職場への出勤を「出張」として認めるケースがあるものと考えられます。

また、リモートワーク勤務の社員が、会社指定のシェアオフィスやコワーキングスペースに出勤するケースや、ワーケーションやブレジャーを行うケースも、同様に「出張」とみなされます。

福利厚生のワーケーションやブレジャーについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生のレジャーの位置付けはブレジャー制度で変わる?

ただし、出張に関係する旅費や宿泊費は、国内と海外で扱いが異なるため、セカンドハウスが海外にある場合、取扱いに注意が必要です。

国内の出張または転勤のために、役員または使用人に対して支給した出張旅費、宿泊費、日当については、支給した金額のうちその旅行について通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れになります。
ただし、海外への出張または転勤のために支給した出張旅費、宿泊費、日当は原則として課税仕入れになりません。

引用:No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い|国税庁

海外の出張旅費が認められるには「業務の遂行上、必要な海外渡航の判定」が必須であり、社員個人がただ職場に出勤することに対して「業務遂行上、必要である」と認められる可能性は低いと考えられます。

なお、その海外渡航が旅行期間のおおむね全期間を通じ、明らかに法人の業務の遂行上必要と認められるものである場合には、その海外渡航のために支給する旅費は、社会通念上合理的な基準によって計算されている等不当に多額でないと認められる限り、その全額を旅費として経理することができます。

引用:No.5388 海外渡航費の取扱い|国税庁

リモートワーク勤務が主流になった場合、通勤手当をどう扱う?

リモートワーク勤務が主流になった社員は、職場に出勤する頻度が下がるため、6カ月定期券などで費用を抑えることを前提とした通勤手当の制度は適用する必要がありません。

出社する場合は「出張」として扱い、通勤手当は適用外にする対応が一般的です。

その際、交通費・宿泊費以外にかかる食事代や雑費等の経費を含め、あらかじめ決められた額を社員に支給する「出張手当」に切替えるケースも見られます。

毎日の通勤を前提にする場合だと自宅は会社から日常的に通える距離である必要がありますが、会社としてリモートワーク勤務者の「自宅」の許容範囲を広げると、配偶者の転勤等で離職せざるを得なかった社員も、引き続き雇用できるなどの利点があります。

たまに出勤する程度であれば、通勤手当の上限額を超えてしまいがちな新幹線や飛行機での出勤もフォローでき、社員に対して「居住地の選択の自由」を福利厚生として提供できます。

また、通勤手当をなくすことで、会社が支払う社会保険料が減る点も利点と言えますが、社会保険料が減れば、社員が将来もらえる年金額にも影響するため、退職後の人生設計を考慮する必要はあります。

(執筆 株式会社SoLabo)

生23-5569,法人開拓戦略室

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