記事サムネイル

消費者のサステナブル意識の現状~意識が高いのはシニア、行動はZ世代がやや先行

経営課題事例

2024-02-21

ニッセイ基礎研究所が実施した消費者のサステナビリティに関わる調査をもとに、消費者の現状について見ていきましょう。

目次

近年、社会や地球環境の持続可能性への関心が高まっています。2021年6月に東京証券取引所のコーポレート・ガバナンスコードが改訂され1、上場企業にはサステナビリティ2についての基本方針や自社の取り組み内容の開示が求められるようになりました。もはや企業にとってサステナビリティに取り組まないことはリスクとも成り得る状況です。また、一般消費者でも買い物のときはエコバッグの持参やプラスチックごみが出にくい商品を選ぶといった環境に配慮した行動が浸透しつつあるようです。ニッセイ基礎研究所が実施した消費者のサステナビリティに関わる調査3をもとに、消費者の現状について見ていきましょう。

1 この改訂によって2022年4月以降、東京証券取引所の4つの市場区分(東証1部・2部・マザーズ・ジャスダック)から新たな3つの市場区分(プライム・スタンダード・グロース)へと見直されています。

2 気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理などを指します。

3 「生活に関する調査」、調査時期は2023年8月17日~23日、調査対象は全国に住む20~74歳、インターネット調査、株式会社マクロミルモニターを利用、有効回答2,550

1.サステナビリティに関わるキーワードの認知状況

20~74歳を対象とした調査において、サステナビリティに関わるキーワードで「聞いたことがある」割合が最も高いのは「SDGs」(70.0%)で、2位「再生可能エネルギー」(56.7%)、3位「フードロス」(49.0%)と続きます(図表1)。全体的に「コンプライアンス」など企業活動に関わるキーワードと比べて、生活に関わるものの方が理解は浸透しているようです。

なお、「内容まで知っている」割合(図表略)が最も高いのは「フードロス」(43.2%)で、僅差で2位「SDGs」(43.0%)、3位「ヤングケアラー」(37.5%)と続きますが、上位でも4割前後にとどまり、「内容まで知っているものはない」(21.0%)も約2割を占めます。

つまり、現在のところ、サステナビリティに関わる事柄を十分に理解している消費者は半数に満たないものの、SDGsについては多くの消費者が耳にしたことがあるようです。

性年代別に見ても順位は同様ですが、男性では「DX」や「コーポレートガバナンス」など企業活動に関わるもの、女性では「ヤングケアラー」や「フードロス」など日常生活に関わるものの認知度が高い傾向があります。また、「LGBTQ+」と「フェムテック」を除けば、年齢が高いほど全体的に認知度は上がり、20・30歳代では「知っているものはない」が2割を超えて目立ちます。

よく世間では「Z世代はサステナブル意識が高い」と言われるようですが、調査を見ると、サステナビリティに関わるキーワードは若者よりシニアの方が認識しています。過去と比べれば現在の若者の方がサステナビリティへの関心は高いのかもしれませんが、国民全体で関心が高まる中では、長い人生経験を通して様々な知識を蓄えているシニアの方が相対的に強い課題意識を持っているのかもしれません。

図表1 性年代別に見たサステナビリティに関わるキーワードで「聞いたことがあるもの」(複数回答)

(a)全体の上位31位まで
  全体 男性 女性 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70~74歳
度数 2,550 1,272 1,278 283 378 533 514 616 226
SDGs 70.0 68.0 72.1 65.7 61.9 69.8 72.0 72.2 79.2
再生可能エネルギー 56.7 54.0 59.4 44.5 38.1 50.1 61.7 67.7 77.4
フードロス 49.0 40.6 57.3 37.8 34.1 45.0 54.7 56.0 65.0
カーボンニュートラル 48.5 49.2 47.7 36.4 33.1 42.2 51.0 60.2 66.4
健康寿命 45.3 40.2 50.4 30.4 27.2 37.0 45.3 58.4 77.9
ヤングケアラー 42.4 30.3 54.5 25.1 25.1 38.8 47.5 52.6 61.9
ダイバーシティ 38.9 37.5 40.3 27.2 27.0 36.6 45.7 46.4 42.9
コンプライアンス(法令遵守) 38.9 38.1 39.7 25.8 24.1 37.1 40.5 47.1 58.0
地方創生 36.8 36.6 37.1 21.6 19.8 30.2 39.7 48.5 61.5
LGBTQ+ 34.8 33.1 36.5 33.2 32.8 38.5 38.9 33.0 27.0
フェアトレード 34.0 30.0 38.1 26.1 21.4 34.7 39.3 38.1 40.3
マイクロプラスチック 27.6 25.1 30.1 15.9 13.8 22.5 31.9 36.0 44.7
スマートシティ 27.5 28.1 26.8 17.7 16.4 23.5 31.3 34.4 40.3
児童労働・強制労働 26.8 24.3 29.3 17.0 14.8 23.1 26.5 36.0 43.4
ワ―ケーション 26.7 25.9 27.5 12.7 14.8 25.0 34.2 32.1 36.3
生物多様性 23.3 24.6 22.0 18.4 17.2 20.1 21.2 29.9 34.1
LOHAS 22.2 18.3 26.1 7.8 11.6 24.2 29.0 25.3 29.2
デジタルトランスフォーメーション(DX) 17.9 24.1 11.7 13.4 12.4 19.9 19.8 19.3 19.9
エシカル消費 17.5 13.9 21.1 17.3 14.3 17.1 18.5 20.1 15.0
コーポレートガバナンス 16.4 22.2 10.6 11.0 9.3 15.6 16.0 19.8 28.3
トレーサビリティ 15.4 20.2 10.6 9.2 7.1 14.3 18.1 21.1 17.7
3R(Reduce,Reuse,Recycle)/4R(3R+Refuse) 14.4 14.9 13.8 18.4 10.8 14.4 14.6 14.3 15.0
サプライチェーン・マネジメント 14.1 18.6 9.6 9.2 5.6 15.0 15.2 17.5 20.4
ゼロエミッション、ゼロウェスト 13.5 19.1 8.0 10.2 7.1 13.7 13.4 16.2 20.8
CSR 10.1 14.5 5.7 8.8 8.2 10.5 9.9 11.7 9.7
ウェルビーイング 9.8 9.6 10.1 8.8 7.1 10.9 11.3 10.7 7.5
シェアリングエコノミー 9.8 9.5 10.0 7.8 5.6 8.4 10.9 11.9 14.2
ESG 9.1 12.8 5.4 9.9 7.1 10.3 7.8 10.7 7.1
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX) 8.2 7.7 8.8 9.2 7.1 6.9 9.5 8.9 7.1
健康経営 8.0 10.8 5.2 8.1 5.0 9.4 7.0 9.4 8.0
フェムテック 7.2 3.5 10.9 6.4 7.7 10.1 10.3 4.1 1.8
知っているものはない 14.0 16.4 11.7 22.6 22.8 16.3 12.3 8.1 3.5

(注)上から全体で割合が高い順。全体で5%未満は表記省略(GX、グリーンボンド、ポジティブアクション、ソサイエティ5.0、サーキュラーエコノミー、ソーシャルグッド、CSV:Creating Shared Value、SOGIハラなど)。全体より+5%以上はピンク色、-5%未満は水色で網掛け。

(b)全体の上位10位まで 性年代別に見たサステナビリティに関わるキーワードで「聞いたことがあるもの」(複数回答)(b)全体の上位10位まで

(資料)ニッセイ基礎研究所「生活に関する調査」(2023)

2.サステナビリティに関わる意識や行動

サステナビリティに関わる意識について、そう思う割合が最も高いのは「サステナビリティに関わる問題は他人事ではない」(43.9%)で、僅差で「サステナビリティに今すぐに取り組まないと手遅れになる」(42.8%)、「手間がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ」(42.1%)などが続きます(図表2)。なお、「サステナビリティに積極的に取り組む企業で働きたい」(18.5%)という対象が限定される項目を除けば、そう思う割合はそう思わない割合をいずれも大幅に(1割以上)上回ります。

行動面について、そう思う割合が最も高いのは「価格が安くても人権問題等のある製品は買わない」(22.1%)で、僅差で「サステナビリティを意識して行動している」(21.5%)や「価格が安くてもサステナビリティに影響のある製品は買わない」(21.1%)などが続きます。意識面と比べて全体的にそう思う割合は低く、いずれも、そう思わない割合を下回ります。また、そう思わない割合の高さは情報の受発信や教育機会の有無で目立ちます。

よって、現在の消費者のサステナブル意識は成長段階にあるとすれば、行動は途上段階にあると言えるでしょう。また、両者に差のある理由は、意識を行動へ移すための機会が十分に知られていない、あるいは機会が不足していることが考えられます。

ところで、消費者と企業の取り組みに関わる意識を比べると、そう思う割合は「お金がかかっても、企業/消費者はサステナビリティを配慮すべきだ」では、企業(40.4%)が消費者(30.9%)を約1割上回りますが、「手間がかかっても(以下同じ)」では、企業(42.1%)も消費者(39.8%)も同程度です。つまり、現在のところ、「お金」をかけてサステナビリティに取り組むことは難しいけれど「手間」はかけても良い、と考える消費者がある程度存在すること、また、消費者自身よりも社会へ与える影響が大きな企業を見る目の方が厳しい(あるいは期待が大きい)様子が読み取れます。

このような中、企業がサステナビリティに関わる商品を考える場合、例えば、再生素材を用いることで価格が高くなるようなものよりも、パッケージレスや補修サービス、リサイクルなど、購入時から使用後までのどこかの段階で、消費者にサステナビリティに関わる「手間」をかけることを求める形が受け入れられやすいのではないでしょうか。また、「手間」をかけることで、商品や企業に対する愛着が高まる期待もあります。

男女の意識を比べると、そう思う割合はいずれも女性が男性を上回ります。一方、行動面では男性が女性をやや上回るものが多く、特に組織での学ぶ機会やボランティア活動などで目立ちます。この背景には、女性は比較的高い意識を持っていても、専業主婦も多く(当調査での就業率は男性79.6%、女性55.2%)、就業者と比べて研修機会などが十分でない影響があるのでしょう。なお、女性では「サステナビリティに興味はあるが何をしたらよいか分からない」(41.6%)も約4割を占めて目立ちます。

年代別に意識を比べると、そう思う割合は「サステナビリティに積極的に取り組む企業で働きたい」では若者ほど高まりますが、それ以外では年齢とともに高まります。一方、行動面では40・50歳代を底に若者やシニアで高まるものが多い傾向があります。若者では学校での学ぶ機会やボランティア活動、情報発信など、また、両者で「価格が安くても人権問題等のある製品を買わない」などが高くなっています。一方で70~74歳では「サステナビリティに興味はあるが何をしたらよいか分からない」(48.2%)も約半数を占めて目立ちます。

つまり、高齢層ほどサステナビリティに関わるキーワードが認識されていたように、意識もシニアで高い傾向があるものの、サステナビリティに関わる教育機会に恵まれ、デジタルネイティブである若者の方がボランティア活動や情報発信などに積極的な傾向があるようです。一方、シニアでは「価格が安くてもサステナビリティに影響のある製品は買わない」といった日頃の消費生活で個人的に取り組める行動については、若者以上に積極的な傾向があります。

図表2 性年代別に見たサステナビリティに関わるキーワードで「聞いたことがあるもの」(複数回答)

(a)全体の上位31位まで
  合計 男性 女性 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70~74歳
度数 2550 1272 1278 283 378 533 514 616 226

サステナビリティに関わる問題は他人事ではない 43.9 35.7 52.0 30.7 36.8 36.0 42.4 54.7 64.6
サステナビリティに今すぐに取り組まないと手遅れになる 42.8 35.2 50.3 33.9 35.4 35.3 40.7 51.6 64.6
手間がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ 42.1 36.9 47.3 30.4 33.3 33.2 40.3 53.4 65.9
社会の一員として何か社会のために役立ちたい 41.0 37.7 44.3 36.0 30.7 35.3 39.7 49.5 57.5
お金がかかっても、企業はサステナビリティを配慮すべきだ 40.4 35.8 45.0 32.9 32.0 29.3 38.7 49.8 68.6
手間がかかっても、消費者はサステナビリティを配慮すべきだ 39.8 34.1 45.4 31.8 31.7 31.7 39.3 49.4 57.1
経済的な余裕があれば、サステナビリティを意識したい 36.7 32.5 40.9 29.7 33.9 33.0 36.2 39.9 51.3
日本の消費者は欧米よりサステナ意識が低いと思う 34.6 30.8 38.4 29.7 31.5 31.0 32.7 40.1 44.2
時間的な余裕があれば、サステナビリティを意識したい 32.4 27.8 36.9 31.4 31.2 28.1 29.2 35.4 44.2
お金がかかっても、消費者はサステナビリティを配慮すべきだ 30.9 28.8 33.0 23.0 24.9 24.0 30.0 38.6 48.2
サステナビリティに積極的に取り組む企業で働きたい 18.5 16.3 20.7 21.2 17.5 19.7 18.7 17.4 16.8

価格が安くても人権問題等のある製品を買わない 22.1 22.6 21.7 27.6 22.2 19.9 20.8 19.8 29.6
サステナビリティを意識して行動している 21.5 20.9 22.1 20.8 20.4 18.2 22.0 22.9 27.4
価格が安くてもサステナビリティに影響のある製品は買わない 21.1 20.5 21.8 20.5 22.0 18.4 20.0 20.8 30.5
価格が高くてもサステナビリティに取り組む企業の製品を買う 18.4 19.3 17.4 24.7 18.3 16.9 16.3 17.7 20.4
価格が高くてもサステナビリティに配慮された製品を買う 17.3 17.8 16.7 22.3 18.5 15.2 14.6 17.9 18.6
学校や組織等でサステナビリティについて学ぶ機会がある 15.5 18.5 12.5 29.0 22.2 14.3 12.1 11.7 8.4
サステナビリティについて学ぶ機会を積極的に得ている 15.5 16.7 14.2 23.0 19.3 13.3 13.4 13.5 14.6
サステナビリティについて家族や友人と話すことがある 14.8 14.2 15.5 18.0 15.6 14.8 12.3 14.4 16.4
サステナビリティに関する情報を収集している 10.9 11.8 10.1 12.7 12.2 11.1 9.1 10.1 12.8
サステナビリティを意識してボランティア活動等をしている 10.6 13.0 8.2 19.4 12.7 11.1 8.8 8.3 5.3
サステナビリティに関する情報を発信している 6.9 8.6 5.2 10.6 10.8 8.4 5.3 4.5 2.2


サステナビリティに興味はあるが何をしたらよいか分からない 35.4 29.2 41.6 35.0 32.0 31.9 32.9 38.1 48.2
サステナビリティに興味はあるがきっかけがない 30.4 26.7 34.2 29.7 27.0 28.1 27.0 33.1 42.9
サステナビリティに関わる問題がよくわからない 29.3 25.2 33.3 30.4 29.9 30.8 25.1 28.7 34.1
サステナビリティに配慮された製品を買いたいが見当たらない 23.8 22.4 25.1 26.9 24.9 22.3 19.3 24.2 30.5

(注)それぞれ上から全体で多い順。全体より+5%以上はピンク色、-5%未満は水色で網掛け。

(b)性年代別・意識(全体の上位6位まで) (c)性年代別・行動(全体の上位6位まで)
性年代別・サステナビリティに関わる意識(全体の上位6位まで) 性年代別・サステナビリティに関わる行動(全体の上位6位まで)

(資料)ニッセイ基礎研究所「生活に関する調査」(2023)

3.サステナビリティに関わる取り組みを広げるには

消費者のサステナビリティに関わる取り組みが広がるためには、前述の通り、現段階では消費者に「お金」ではなく「手間」をかけることを求めるような商品が増えることが期待されます。物価高で家計負担が増す中では、消費者はサステナビリティに関わる価値よりも品質や機能、費用対効果といった本来の商品価値を一層、優先すると考えられます。どのような「手間」のかけ方であれば消費者は大きな負担なく、サステナビリティに関わる取り組みができるのか、企業の知恵の見せどころと言えるでしょう。

また、行政などでシニアや非就業者などに対してサステナビリティに関わる情報発信や教育機会を充実させ、意識を行動へ移すための具体的な取り組み方法を示すことも重要です。なお、即時性をもって好感度の向上や情報流通効果を期待する場合には、情報発信力のあるZ世代などの若者への訴求が効果的でしょう。

将来的には、すべての消費者にとってサステナビリティという観点が消費行動の土台となっていくと見られますが、意識と行動に隔たりのある現在では消費者の特徴を丁寧に捉え、各層に適した働きかけを実施する必要があります。

ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我 尚子

生23-5470,法人開拓戦略室

関連記事

記事サムネイル