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企業年金を活用した従業員の老後資金形成の新手法

法人保険の活用方法

2021-03-24

終身雇用の前提が崩れた今、多様化する退職金・企業年金制度の役割はどう変わりつつあるのか、具体的にどのような活用方法があるのかを紹介します。

目次

企業年金制度の活用方法は多様化しており、既存の退職金の積立制度としてだけではなく、老後資金形成のための手段として新たに導入されるケースが増えています。

退職金・企業年金制度の役割はどう変わりつつあるのか、具体的にどのような活用方法があるのかを見ていきましょう。

1 退職金・企業年金制度の役割はどう変化した?

退職金制度は、かつては終身雇用とセットで、定年退職した従業員に老後の安心を提供するものでした。企業年金は退職金の積立制度として活用され、安定した運用収益を年金給付に還元することで、公的年金に上乗せする形で手厚い老後保障を確保することができました。

定年まで企業に尽くして働けば、引退した後も安定した生活が送れる――退職金や企業年金にはそうしたメッセージが込められていました。

しかし、時代は移り、終身雇用の前提は崩れ、金利の低下により資産運用環境は大きく変わりました。企業が従業員の人生を丸抱えすることはできなくなり、従業員には自律が求められています。

それに伴って、退職金や企業年金の役割も大きく変わりつつあります。定年退職者へ手厚い老後保障を提供するためのものではなく、従業員が自ら将来に備えて資金を積立てるための機会(手段)を提供するものとして位置付ける向きも出てきています。

そうした中で、企業年金制度の活用方法も多様化しています。既存の退職金の積立制度としてだけではなく、老後資金形成のための手段として新たに導入されるケースが出てきているのです。

2 確定拠出年金(DC)制度を活用した老後資金形成

1)DCとは

2001年に新たな企業年金制度として創設され、その後普及・拡大してきた確定拠出年金(DC)制度は、まさに企業年金制度の役割の変化を象徴するものといえます。

DC制度における企業の責任は

  • 年1回以上、定期的に掛金を拠出すること
  • 各従業員が制度内容を理解して適切に老後資産形成を行えるようにすること
    (具体的には投資教育や運営管理機関の評価)
にあります。

企業から拠出された掛金をどの商品で運用し、(60歳以降に)いつからどのように給付を受け取るかの選択は、本人の責任により行われることとなります。

DCは、原則として60歳まで引出せない代わりに、転職の際には資金の持ち運び(ポータビリティ)が可能になっています。

転職先に企業型のDCがない場合やフリーランス等になった場合でも、個人型のDC(iDeCo)に資金を移すことで確実に老後資金の積み立てを継続することができます。

DCの掛金は個人別の口座に積立てられ、定年退職であろうと中途退職であろうと(あるいは懲戒解雇であったとしても)事後的に減額されないというのも、従来の退職金にはない大きな特徴です(ただし、勤続3年未満で退職した場合に限って企業への掛金返還規定を設けることが認められています)。

DCなど代表的な企業年金制度のメリット・デメリットや、各制度に向いている企業などについては、次のコンテンツで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

 人生100年時代に備える、企業年金等を活用した従業員の財産形成

前述したようなDCの特徴から、新たな退職金制度としてDCを導入する場合や、従来の退職金の一部または全部をDCに切替える際に、DC掛金相当額を前払い退職金(給与や賞与への上乗せ)との選択制(以下、「前払いとの選択制」)とするケースもあります。

月々の給与に上乗せする形で、企業が一定のDC掛金か前払い退職金を支給します。企業からの報酬の一部について、今受け取るのか、老後(引退後)に備えて確定拠出年金に積立てるのかを、従業員が選択できるようにするというものです。

2)DCの新手法

更には、給与体系の変更により基本給の一部を「ライフプラン手当」等に組み替え、ライフプラン手当の一部または全部を、これまでどおり給与として受け取るか、DCの掛金に充当するかを従業員が選択できるようにする設計例もあります。給与や賞与を財源とする選択制DC(以下、「選択制DC」)などと呼ばれている仕組みです。

前述した前払いとの選択制は、企業の負担である退職金を財源としたものでしたが、選択制DCは、給与規程を改訂し、月々の給与から切り出した新たな手当(exライフプラン手当)の範囲内でDC掛金の選択枠が設定されます。

従業員がDCを選択した場合には、その掛金相当分は課税所得の算定から減額され、社会保険料の計算のもととなる報酬の範囲からも外されます。企業にとっては社会保険料負担の減少にもつながるため、その分を掛金に上乗せすることで、従業員にとってのメリットを打ち出すケースもあります。

選択制DCを導入した際に、企業・従業員サイドに、それぞれどのような変化が生じるのかについては、次のコンテンツで具体的に解説しています。ぜひご覧ください。

 選択制DCで従業員の財産形成! 概要・メリットを解説

3 確定給付企業年金(DB)制度を活用したより柔軟な資金形成

1)DC制度の課題

企業年金を、従業員が主体的に老後資金を形成するための手段としてとらえ、前払いとの選択制と併せて活用する手法(=選択制DC)は、これまで主にDC制度を中心に用いられてきました。

給与と同じように定期的、継続的に個人ごとの口座に資金が入金され、税制優遇を活用して効果的に老後資金を積立てることができるからです。

しかし、税制優遇とのトレードオフにより、原則として60歳まで引出すことができないことが、従業員にとっては抵抗を感じる点になります。

企業としても、従業員が選択した運用結果に責任を負うことはないものの、従業員の適切な選択を支援する観点から、投資教育や運用商品を提供する運営管理機関の評価といった努力義務があり、相応の事務的な負担を負うことになります。

こうしたことから、最近では、確定給付企業年金(DB)制度を従業員のための退職後の資金形成手段として活用する企業が出てきています。

2)DBによる課題解決

DB制度では、従来型の退職金と同じように退職の理由などによって給付額に差を設けることが可能であり、実際そうした設計が一般的でした。掛金の積立てや運用は制度単位でまとめて行われ、個人別に資金が積立てられることはありません。

しかし、DB制度は(一定の承認基準のもとで)柔軟な設計が可能であり、DC制度と同じように、退職の時期や理由にかかわらず、従業員の在職中の積立て分に利息を加えた額を支給するといったこともできますし、前払いとの選択制を取り入れることもできます。

加えて、DB制度では年齢にかかわらず退職時に給付を受け取れることから、従業員の抵抗感は小さくなります。

転職時に老後資金として積立てを継続したい場合には、DCに資金を移すなどの選択肢も用意されています。詳しくは、次の資料にて解説していますので、ぜひご覧ください。

脱退一時金相当額の移換について

資産の運用は制度全体でまとめて行われるため、従業員個人ごとに運用商品を選んでもらうための投資教育や事務手続きも必要ありません。

3)企業リスク軽減の受け皿は?

ただし、DB制度では運用結果に対する責任は企業が負います。

予定していた利息(以下、予定利率)に対して不足が生じた場合には、企業の追加負担により穴埋めしなければなりません。あらかじめ、予定利率をゼロ近くに設定しておけばそのリスクは小さくすることができるでしょう。

また、企業会計においては原則として退職給付債務と年金資産の差額を負債(または資産)に計上する必要があり、財務上のリスクも負うことになります。

そうしたことから、積立水準に応じて給付額を調整する「リスク分担型企業年金(RSDB)」といった仕組みを取り入れることで、企業側の運用リスクを軽減する例もあります。

言い換えると、こうした仕組みは運用リスクを従業員と分担するものであり、運用結果によって給付額が変動することがあります。

そのため、企業側には、従業員側の意見を運用方針などに反映させるためのガバナンスの整備が義務付けられています。

RSDBの特徴や、導入する際の注意点、RSDBの制度運営のカギを握る労使共同のガバナンスについては、次のコンテンツで具体的に解説しています。ぜひご覧ください。

 福利厚生コストの安定化? ①リスク分担型企業年金の活用

4 選択制における留意点

前述のとおり、DCではしばしば前払いとの選択制がとられ、最近ではDBにも選択制が取り入れられるケースが出てきました。

従業員にとっては、DCやDBを選択することで、給付の受取時期が60歳以降や退職後に後倒しされる代わりに税制面での優遇を受けられ、前払いを選択する場合と比べて社会保険料負担が減少する場合があります。

しかし、注意しなければならないのは、社会保険料の負担が減ることで、将来の厚生年金の支給額や雇用保険からの給付も減ってしまうということです。

DCやDBへの積立てにより将来に備えたつもりでも、その一部分は、社会保険給付の減少により相殺されてしまう可能性があります。特に、給与や賞与を財源とする選択制DCまたはDBを実施する際には、DCやDBを選択することで給与が減少するため、社会保険等への影響を従業員に対して具体的に説明する必要があります。

2020年10月には、DC規約の承認基準が改正され、給与や賞与を財源とする選択制DCを実施する際には、社会保険・雇用保険等の給付額にも影響する可能性を含めて事業主は従業員に正確な説明を行う必要がある旨が追加されました。

これにより、企業が十分な説明を行っているか、行政サイドでのチェックも強化されることになります。

以上

(執筆 向井洋平(むかいようへい) 年金数理人・日本アクチュアリー会正会員 1級DCプランナー 【著書】『確定拠出年金の基本と金融機関の対応』『金融機関のための改正確定拠出年金Q&A』-いずれも経済法令研究会)

(監修 年金・退職金総合アドバイザー DCアドバイザー 堤 裕而)

日本ー年基ー202010ー170ー0402ーD

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