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財形貯蓄とは?企業や従業員のメリットとデメリットを解説

経営課題事例

2024-01-25

「財形貯蓄」をテーマに、財形貯蓄の概要や導入手順、メリットとデメリットなどを解説します。

目次

財形貯蓄を企業の福利厚生として検討している担当者もいることでしょう。また、勤務先の財形貯蓄を活用するか迷っている人もいるのではないでしょうか。

この記事では財形貯蓄制度について解説します。財形貯蓄を福利厚生として導入する企業や制度を活用する従業員のメリットとデメリットをそれぞれ説明します。

財形貯蓄の導入手順や活用の注意点なども解説するのでぜひ参考にしてください。

1.財形貯蓄とは

財形貯蓄とは、従業員が勤務先の協力のもと給料から引去りで貯蓄を行える制度のことです。財形貯蓄は勤労者財産形成促進制度のひとつであり、労務者の生活の向上を目的としています。

財形貯蓄を活用できるのは、福利厚生として財形貯蓄を導入している企業の従業員のみです。財形貯蓄を活用する従業員は、毎月の積立て額や引去り日の指定を行う必要がなく、給料から引去りされる形で貯蓄を行えます。

また、財形貯蓄は預貯金と異なり、利子への非課税措置がなされる種類があります。財形貯蓄は元利合計550万円までの利子が非課税対象ですが、預貯金は満期や中途解約で受取る利息が源泉分離課税の対象となり、20.315%が源泉徴収されて納税が完結します。

なお、企業が財形貯蓄を福利厚生として導入する場合、事業主が銀行や保険会社などの金融機関と契約し、従業員が積立てられるようにします。従業員が財形貯蓄を活用する場合は、勤務先の福利厚生に財形貯蓄が導入されているか確認して申請しましょう。
参考:No.1310 利息を受け取ったとき(利子所得)|国税庁

2.財形貯蓄は3種類ある

財形貯蓄は「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」の3種類があります。貯蓄の目的以外にも、種類によって条件面が異なります。

【財形貯蓄の種類】

種類

貯蓄の目的

契約要件

積立ての中断

引出しの制限

金融機関の変更

一般財形貯蓄

目的・使途不問

年齢制限なし

制限なし

貯蓄開始から1年経過後から可能

3年以上保有していれば可能

財形年金貯蓄

年金としての支払い

55歳未満

利子等が課税対象(2年以上の中断)

目的外での解約や引出しは過去5年間分の利子が課税対象

保有期間に関わらず不可

財形住宅貯蓄

持家取得や持家の増改築等

55歳未満

利子等が課税対象(2年以上の中断)

目的外での解約や引出しは過去5年間分の利子が課税対象

保有期間に関わらず不可

参考:財形貯蓄制度|厚生労働省

たとえば、一般財形貯蓄は「契約要件」「積立ての中断」に関して特に制限がありません。しかし、財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄の場合、契約要件は55歳未満に限定され、2年以上積立てを中断すると、一定額以上の利子等が課税対象となります。

また、一般財形貯蓄は「引出しの制限」「金融機関の変更」に関して、貯蓄開始から一定期間経過していれば引出しや金融機関の変更が可能です。一方、財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄は目的外での解約や引出しに制限があり、金融機関の変更ができない点に留意しておきましょう。

一般財形貯蓄

一般財形貯蓄は、3年以上の期間にわたって従業員の給与やボーナスから引去りして行う貯蓄です。貯蓄の目的や使途は特に制限されず、契約時の年齢制限や、積立ての中断に関する制限もありません。

一般財形貯蓄は、払い出しに関する法令上の制限がないため、貯蓄開始から1年経過すると自由に払い出しができます。また、3年以上財形貯蓄を保有すると任意で金融機関の変更も可能です。

なお、一般財形貯蓄は、3種類の財形貯蓄の中で唯一利子への非課税の優遇措置がありません。利子に対して、源泉分離課税20.315%(国税15%、地方税5%、復興特別所得税0.315%)が課税されます。
参考:No.2230 源泉分離課税制度|国税庁

財形年金貯蓄

財形年金貯蓄は、年金としての受取りを目的に行う財形貯蓄です。55歳未満の勤労者が5年以上の期間にわたって給料から引去りして貯蓄を行い、保有期間を問わず金融機関の変更はできません。

財形年金貯蓄は、加入時に受取り年数を決める個人年金保険と異なり、必要なタイミングで受取り年数を検討できる点が特徴です。一括では受取ることができず、60歳以降の時点で、都合に応じて5年以上20年以内の間で受取り年数を決められます。

財形年金貯蓄は財形住宅貯蓄とあわせて元利合計550万円の利子が非課税となります。契約時に定めた条件に基づき、60歳以降から年金支払い期間終了まで課税措置が継続されますが、目的外での解約や引出しは過去5年間分の利子が課税対象となります。

なお、年金財形貯蓄に関する情報が知りたい人は「財形年金貯蓄とは?その特徴を解説」も参考にしてみてください。
財形年金貯蓄とは?特徴と概要を解説

財形住宅貯蓄

財形住宅貯蓄は、持家の取得やリフォームを目的とした財形貯蓄です。55歳未満の勤労者が契約対象となっており、5年以上の期間にわたって給料から引去りして貯蓄を行い、保有期間を問わず金融機関の変更はできません。

財形住宅貯蓄の払い出し対象には持ち家の取得、リフォームそれぞれに要件があります。持ち家住宅の取得は「床面積50平方メートル以上」「耐震構造であるか否か」、リフォームは「75万円を超える費用」「模様替の内容」です。

また、財形住宅貯蓄も財形年金貯蓄とあわせて合計550万円の利子が非課税となりますが、2年以上中断すると課税対象となります。財形住宅貯蓄も目的以外での解約や引出しを行うと過去5年間分の利子が課税対象となります。

なお、財形住宅貯蓄の払い出し要件に関して知りたい人は厚生労働省の「財形貯蓄制度」を参考にしてみてください。

3.財形貯蓄のメリット

財形貯蓄は、福利厚生として導入することで企業と従業員にそれぞれ異なるメリットをもたらします。

【財形貯蓄を導入・活用するメリット】

労使

メリットの例

企業

・人材確保に有益

・労働意欲や生産性の向上

従業員

着実な貯蓄が可能

利子に対する非課税措置

企業にとってのメリットは「福利厚生の充実」や「人材確保に繋がる」ことです。財形貯蓄の導入によって、福利厚生が充実している点が企業の魅力となり、人材確保において有利になる可能性があります。また、福利厚生の充実は、従業員の労働意欲や生産性の向上にもつながります。

従業員のとってのメリットは「一部非課税措置」や「着実な貯蓄が可能」です。財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄の元利合計550万円までの利子は非課税対象となり、給料から引去りされるため、着実に貯蓄を行えます。

なお、これらのメリットは企業が採用する制度によっても異なります。企業は財形貯蓄を導入する前にどのような制度を設けるか検討し、従業員は申込む前に勤務先の担当者に確認してみてください。

4.財形貯蓄のデメリット

財形貯蓄の導入に際して企業はリソースを割く必要があり、それがデメリットになる可能性があります。また、財形貯蓄を活用する場合も他の貯蓄方法を活用している人と比較した場合のデメリットがあります。

【財形貯蓄を導入・活用するデメリット】

労使

デメリット

企業

・工数の確認が必要

・担当者の確保が必要

従業員

・元本割れのリスクがある

金利の恩恵を受けにくい

企業にとってのデメリットは「工数の確認が必要」「担当者の確保が必要」です。財形貯蓄を導入する場合、導入の検討をはじめ工数を確認する必要があり、工数に応じた担当者の確保を考慮する必要があります。

従業員にとってのデメリットは「元本割れのリスクがある」「金利の恩恵を受けにくい」です。財形貯蓄の勤務先が契約している運用先の金融機関によって異なりますが、保険や投資信託などの金融商品は元本割れのリスクがあります。また、主要銀行の利率は0.010%のため、金利の恩恵は受けにくいでしょう。

なお、これらのデメリットはあくまでも例であり、実際に財形貯蓄を導入したり活用したりする企業や従業員の状況に応じて異なる場合もあります。財形貯蓄の導入や活用を検討する前にはデメリットも考慮に入れてから検討してみてください。

5.財形貯蓄の導入前に確認しておきたいポイント

財形貯蓄を活用して資産形成を検討する場合、積立てを途中で変更できるのか導入前に確認しておきましょう。退職や転職、出産や育児などの変化によって継続できなくなる場合があるからです。

たとえば、退職や役員に就任して労務者ではなくなったり、出向によって賃金の支払い元が出向先になったりする場合もあります。また、事業所によって育児休業期間中の賃金支払いがない場合もあるでしょう。

ここでは、財形貯蓄を事業所として導入したり、従業員として活用したりする前に確認しておきたい財形貯蓄の継続可否などのポイントに関して解説します。

退職や転職によって継続の可否が異なる

財形貯蓄は、退職や転職によって継続の可否が異なります。積立てできなくなるケースだけでなく、状況によって継続できる場合があります。

【退職・転職による継続の可否】

進退・転属

継続の可否

退職

・積立ての継続ができなくなる

役員就任

・積立ての継続ができなくなる

出向

・継続できる

※出向先で財形貯蓄制度が導入されている場合

転職

・2年以内であれば転職先で継続できる

※転職先で財形貯蓄制度が導入されている場合

海外転勤

・一般財形貯蓄は継続できる

・財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄は非課税での積立てはできなくなる※

※1年以上出国の場合

たとえば、退職する場合や役員に就任して労務者ではなくなった場合には積立ての継続はできなくなります。転職先に財形貯蓄制度が導入されている場合は、退職してから転職までのブランクが2年以内であれば非課税を維持しながらの移換も可能です。

また、出向する場合は、基本的には財形貯蓄の継続は可能です。ただし、給料の支払い元が出向先になっており、なおかつ出向先に財形貯蓄制度が導入されていない場合は積立てを継続できなくなります。

なお、海外転勤の場合、一般財形貯蓄は継続できます。財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は1年以上出国する場合は非課税での積立てはできなくなりますが、出国前に手続きを行うことで最大7年の中断が可能になります。

育児休業中も積立てを継続できる

財形貯蓄は、原則として産休や育児休業中も積立ての継続が可能です。ただし、財形貯蓄の種類によって継続方法は異なります。

【育児休業中の継続方法】

財形貯蓄の種類

積立ての継続可否

一般財形貯蓄

・積立て可能

・賃金の支払いがない場合は中断となる

財形年金貯蓄

・育児休業等の終了後継続可能

育児休業等の開始前に手続きを行う

財形住宅貯蓄

・育児休業等の終了後継続可能

育児休業等の開始前に手続きを行う

一般財形貯蓄の場合、産休や育児休業を取得する場合も手続きを行うことで積立ての継続は可能です。ただし、勤務先の規定によって育児休業等の期間中に賃金の支払いがない場合には積立ては中断されます。

また、財形年金貯蓄および財形住宅貯蓄の場合、育児休業等の開始前に所定の手続きを行うことで積立てを中断できます。その場合、育児休業が終了して最初の給料が支払われる日に積立てが再開されます。

なお、財形貯蓄の種類を問わず継続に必要な所定の手続き等は勤務先によって異なります。休暇取得前に勤務先の担当者に確認してみてください。

6.企業が財形貯蓄を福利厚生として導入する方法

企業が財形貯蓄を導入するにはいくつかの工程があります。財形貯蓄を福利厚生として運用できるようになるまでには事務作業だけでなく、社内での検討や取扱い金融機関との契約などが必要です。

【財形貯蓄の導入手順】

1.社内規程・実施細目の検討

2.取扱い金融機関の決定

3.労使協定の締結

4.社内規程の整備

5.従業員への説明と希望者の募集

まずは、財形貯蓄に関する社内規程や財形貯蓄に関わる奨励金制度を設けるかどうか、といった実施細目や、取扱い金融機関の選定などを行います。財形貯蓄に関する規定を検討したら、金融機関を決定して担当者と運営に関する分担を確認します。

また、財形貯蓄の積立て金を給料から引去りするためには労働基準法第によって労使協定が必要となるため、従業員との労使協定を行います。従業員との労使協定後に財形貯蓄の運営に関する社内規程、もしくは就業規則を具体的に整備します。

社内での手続きが完了したら取扱金融機関と契約を締結します。最後に福利厚生としての財形貯蓄制度に関して社内規程を含めて従業員に説明を行ったり、社内の希望者を募ったります。

なお、財形貯蓄の導入を決定し、金融機関と契約に至るまでの間に確認したい点が生じる可能性もあるでしょう。福利厚生制度の構築や充実に関するトータルコンサルティングを行っている金融機関への相談を検討してみてください。

7.従業員が財形貯蓄の活用を始める方法

従業員が財形貯蓄を始める場合、そもそも勤務先が福利厚生として財形貯蓄を導入しているかどうか確認する必要があります。勤務先が福利厚生として導入していないと、財形貯蓄を始めることはできないからです。

勤務先によっては財形貯蓄に対する独自の奨励金制度を設けていることもあります。奨励金は企業によって異なりますが、積立て金の金額に対して数パーセント給付される傾向があるため、この場合は預貯金を活用するより効率よく貯蓄を行えます。

なお、財形貯蓄に対する奨励金の有無や具体的な申請方法は企業によって異なります。財形貯蓄の活用を検討している人は、勤務先の担当者に確認してみてださい。

(執筆 株式会社SoLabo)

生23-4200,法人開拓戦略室

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