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何が違うの? 「選択制DC」と「マッチング拠出」を比較

法人保険の活用方法

2022-10-26

似て非なる選択制DCとマッチング拠出。どちらも従業員が老後の生活資金を準備できる制度ですが、違いを知り、より自社に合った制度を選びましょう。

目次

従業員の老後の生活資金を準備するための制度として、多くの企業が企業型DC(確定拠出年金)制度を導入しています。最近では、企業型DC制度を活用して、従業員の自助努力を促す「給与(賞与)財源DC(=選択制DC)」と「マッチング拠出」を導入する企業も増えています。 

どちらも、従業員が自助努力で老後の生活資金を準備できる制度ですが、実際は似て非なるものです。それぞれの違いを知り、より自社に合った制度を選ぶようにしましょう。

1 企業型DCを活用した自助努力制度には何がある?

●給与財源DCの概要

給与財源DCとは、従業員が、受取る給与(賞与や退職金原資などの場合もある)の一部について、「一部を企業型DCの掛金として拠出する」か、「全額給与として受取る」かを選択することができる仕組みです。「選択制DC」「選択型DC 」とも呼ばれます。

<給与財源DCの仕組みイメージ図>
現行給与30万円のうち、1万円をDCに拠出する場合と全額給与として受取る場合の比較例

●マッチング拠出の概要

マッチング拠出は、すでに企業が拠出している企業型DCの掛金に、従業員自身が掛金を上乗せすることができる仕組みです。

<マッチング拠出の仕組みイメージ図>
現行給与30万円のうち、1万円をDCに拠出する場合の例

上記の例では、給与財源DCとマッチング拠出のいずれも、給与30万円のうち1万円をDC掛金として拠出しているので同じ内容に見えますが、税制、メリット、掛金の拠出可能額などが異なります。

2 給与財源DCやマッチング拠出には税制優遇があるって聞いたけど本当?

どちらの制度も、従業員にとって税制面で大きなメリットがあります。税制優遇は「拠出時」「運用時」「受取り時」の3つのタイミングで受けられます。

●「拠出時」の税制優遇

DC制度において拠出する掛金は、非課税扱いとなります。

給与財源DCの場合、掛金分が給与としてみなされず課税所得とされません。そのため、同じ金額を給与として受取った場合と比較して、課税対象額が減り、結果として所得税・住民税が減少します。

また、マッチング拠出の場合、加入者が上乗せ拠出した掛金が全額所得控除(小規模事業等掛金控除)の対象になるため、所得税・住民税の支払いが減少します。

●「運用時」の税制優遇

通常、資金を一般的な金融商品で運用すると、運用によって得られる収益や、分配金(運用益)等に対して、税金が課税されます。しかし、DC制度の積立てによる運用によって得られる運用益に対しては、原則として税金がかかりません。

●「受取り時」の税制優遇

DC制度において退職時の受取額には、原則として課税されます。しかし、税務上、一時金で受取る場合は退職所得として「退職所得控除」が、年金で受取る場合は雑所得として「公的年金等控除」が受けられます。そのため、控除枠の分、所得税・住民税が減少し、受取額によっては、非課税で全額を受取れる場合があります。

まとめると、次のとおりです。

<給与財源DCとマッチング拠出の税制優遇の違い>

3 企業にとってのメリット比較

企業にとって、導入したときのメリットは、給与財源DCとマッチング拠出とで、それぞれ異なります。

1)給与財源DCの掛金は「給与」ではないってどういうこと?

給与財源DCは、給与から掛金として拠出した分は給与とみなされず、また標準報酬月額が減るため、企業が負担する社会保険料が軽減されます。

しかし、社会保険料の減少は、企業にとっては福利厚生コスト減のメリットである一方、従業員にとっては社会保険上の保障(各種給付や公的年金等の水準)が下がる可能性があるため、制度導入にあたっては丁寧な説明が必要になります。

2)マッチング拠出には社会保険料の軽減効果はない?

マッチング拠出は、従業員が自身の資金から掛金を上乗せする制度であるため、給与財源DCのような社会保険料の減少はありません。

しかし、企業としては、追加コストをかけずに福利厚生制度の充実を図れることでしょう。また、従業員の退職後の資金を準備できる選択肢を用意することで、従業員の定着率向上等が期待できます。

4 従業員にとってのメリット比較

従業員にとってのメリットは、老後資金の準備をできることの他にどのようなものがあるでしょうか。税金と社会保険料への影響については、それぞれ異なります。

1)所得税、住民税はどうなる?

給与財源DCにおいて従業員が企業型DCへの積立てを選択した場合、掛金分が給与としてみなされず給与所得が減るため、結果として、所得税と住民税が下がります。

一方、マッチング拠出の場合でも、マッチング拠出分については全額所得控除を受けられるため、同様に所得税と住民税が下がります。

例えば、所得税率5%、住民税率10%の人が、掛金月1万円を拠出した場合、どちらの制度であっても、年間で税金は1万8000円(毎月1500円×12カ月)少なくなります。

2)社会保険料はどうなる?

社会保険料については、掛金が給与とみなされず標準報酬月額が減少するため、給与財源DCの場合のみ減少しますが、マッチング拠出の場合には、標準報酬月額が減少するわけではないので、変わりません。

ただし、社会保険料が減少した場合には、従業員の社会保険上の保障(各種給付や公的年金等の水準)が下がる可能性があります。

<DC掛金を拠出した場合の従業員に対する影響>

5 どちらがメリット大きい? 拠出可能額の違い

従業員にとっては、掛金を多く拠出できるほうが、将来の受取額を非課税で増やすことができます。そのため、掛金として拠出することができる金額について検討することも、従業員のメリットにつながるといえるでしょう。

1)給与財源DCの拠出可能額

「退職金財源のDC掛金」と「給与財源のDC掛金」の合計が、DC制度で定められている拠出限度額以下であるように設計しなければいけません。

例えば、DB(確定給付型)等企業年金と併用の場合、現在の制度では、拠出限度額(月額)は2万7500円となるので、退職金財源の掛金が5000円であれば、給与財源DCの拠出可能額は差額の2万2500円となります。

なお、2024年12月1日からは、DB等企業年金と併用の場合、拠出限度額(月額)は「5万5000円-DB等企業年金の掛金相当額」となります。つまり、退職金財源の掛金が5000円であれば、給与財源DCの拠出可能額は差額の「5万5000円-5000円-DB等企業年金の掛金相当額」となります。

2)マッチング拠出の拠出可能額

マッチング拠出で従業員が拠出できる金額には、2つの制限があります。

1つは、従業員の拠出金額が企業型DCにおける事業主掛金を超えてはいけないことです。

もう1つは、従業員の拠出金額と事業主掛金の合計が、拠出限度額(※)を超えてはいけないことです。

例えば、拠出限度額(月額)が2万7500円のケースで考えると、事業主掛金が5000円の場合は、従業員の拠出可能額は同額の5000円ですが、事業主掛金が1万5000円の場合は、従業員の拠出可能額は1万5000円とはならず、2万7500円と1万5000円の差額である1万2500円が拠出可能額となります。

(※)DBや厚生年金基金等他の企業年金制度の対象外である従業員の拠出限度額は月5万5000円ですが、企業年金制度の対象である従業員の拠出限度額は月2万7500円(2024年12月1日からは、「5万5000円-DB等企業年金の掛金相当額」)となります。

 

このように、拠出可能額には制限があるため、企業が負担する事業主掛金が拠出限度額の半分以下である場合や少額である場合、マッチング拠出では従業員の拠出可能額も少額となってしまいます。そのため、これらの場合には、給与財源DCにしたほうが、従業員の拠出可能額は高くなると考えられます。

6 導入の際の留意点

似て非なる2つの制度について、企業も従業員も知っておくべき留意点があります。

1)給与財源DCであっても一度加入したら原則やめられない?

給与財源DCであっても、従業員が一度加入を選択したら、原則60歳になるまでやめることはできず、給与全額を現金受取りに変更することはできません。ただし、掛金の金額を変更することは規約で決められた頻度で可能ですので、給与としての手取り受取額を増やしたい場合は、事前に定めた掛金拠出の規定にのっとり、掛金の金額を最低金額まで下げることで対応できます。

2)原則60歳に到達するまで積立てた資金を引出すことはできない?

給与財源DC、マッチング拠出ともに、原則として60歳になるまで給付は受取れず、途中で引出すこともできません。また、加入期間が短い場合、60歳になっても受け取れない場合があります。

以上

(執筆 株式会社ライフヴェーラ代表取締役 ファイナンシャルプランナー(CFP)鈴木さや子)

(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

日本-年基-202207-170-0198-D

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