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失敗しないIT導入! 効果を上げるための4つのポイントは?

経営課題事例

2021-10-01

ITを用いたビジネス変革は多くの企業にとって喫緊課題です。IT投資において十分な効果を上げるためには? 見落としがちなポイントを解説します。

目次

DX(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードが注目を集めるように、ITを用いたビジネス変革は多くの企業にとって喫緊の課題といえます。

問題は、ITに投資しても効果が見えにくいことです。今や、ITは部署をまたいで業務全体を支援する共通基盤として使われることが増えました。そのため、特定の部署や業務で効果があっても、費用対効果の面で適正な投資だったのかを見極めるのが難しくなっているのです。

そのような中、IT投資において、目に見える形で十分な効果を上げるためには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。見落としがちなポイントを解説します。

1 ありがちな失敗要因とは?

IT導入を成功させるには、IT導入プロジェクトで起こりがちな問題を把握し、自社が同様の問題を抱えないように対応することが大切です。では、どのような問題が起こりがちなのでしょうか。

1)カットオーバーをIT導入プロジェクトのゴールにする

課題の洗い出し、要件定義、システムの設計、プログラム、テスト……。新たに導入するITが無事に稼働するまでには、幾つもの工程を経なければなりません。これらの工程を管理する担当者の多くは、各工程でトラブルが起きないか、遅延が生じていないかに注目し、あらかじめ設定した稼働日を無事に迎えられるかを「ゴール」に設定しがちです。

「IT導入プロジェクトがスケジュール通りに進むこと」にばかり腐心し、稼働後の運用にまで十分に対応できないと、稼働後にさまざまな問題が生じてしまいます。

中小企業基盤整備機構の調査によると、ITを導入した企業の7割が導入後に課題があると回答しています。ITを使いこなせない、効果を把握できない、ITが業務に適していないなど、無事に稼働できても、その後さまざまな問題が起こり得るのです。

その他にも、想定より処理速度が遅くて業務が停滞したり、UI(ユーザー・インターフェイス)が分かりにくくて業務効率が低下したりするケースもあります。

(参考:IT導入に関するアンケート調査報告書(2018年8月

ITはあくまで、業務の生産性や効率性などを改善・向上させる手段にすぎません。ITを運用して何を達成するのか、現状をどう変えるのかといった目的に主眼を置くことが極めて大切です。

2)ベンダーに言われるがままプロジェクトを進める

ITに詳しい人材が社内にいない企業が、IT導入についてベンダーに相談すると、ベンダーの提案を精査できずにプロジェクトを進めてしまうことがありますが、これでは十分な効果を見込めなくなることがあります。

IT導入プロジェクトごとに目的や課題、難易度は異なります。いかにITに精通するベンダーであっても、その提案が自社のIT導入プロジェクトにそのまま当てはまるとは限らないのです。

例えば、CRM(顧客関係管理)の導入プロジェクトの場合です。CRMの導入を検討している企業には、例えば、次のような課題があります。

  • 顧客情報を再利用しやすくしたい
  • 受注確度の高い顧客を洗い出して成約率をアップさせたい
  • 会計システムが保有するユーザーの購買履歴とCRMが保有するメールアドレスを紐づけ、適切なタイミングでユーザーにキャンペーンメールを自動送信できるようにしたい

こうしたさまざまな課題に対して、汎用のCRMソフトウエアをそのまま導入すれば課題を解決できるケースがあったり、他のソフトウエアなどと連携してデータを集約できるようにプログラムを一部改修しなければならないケースもあったりします。

にもかかわらず、ベンダーに任せっきりにすると、当初の想定と違うものになってしまったという事態になることがあります。

では、こうした問題をふまえ、IT導入による効果をきちんと得られるようにするには、どうすればよいのでしょうか。特に注意したい4つのポイントを紹介します。

2 IT導入の効果を高めるために取り組むべきことは?

ポイント①:「現場志向」を徹底する

IT導入プロジェクトを進めるに当たり、担当者はベンダーだけではなく、システムを実際に使う現場とも十分にコミュニケーションを取ることが必要です。現場で何が問題なのか、どんな業務がボトルネックなのか、どうすれば業務効率を高められるのかなどを現場の担当者からヒアリングし、どのようなシステムを構築することで改善できるのかをベンダーと共有します。

このとき、「業務にかける時間を30%削減する」といったように、現場の「目的」を明確にします。そのために、現場の目的だけでなく、「課題」や「具体的な改善方法」などの項目を記したヒアリングシートを作成し、現場の声を漏らさず吸い上げます。そして、その内容を精査し、システムの要件を絞り込んでいきます。

例えば、次のような事例で考えてみましょう。

  • 現場の目的:資材調達業務にかける時間を30%削減する
  • 課題:過去に同じ資材を購入したときの個数、単価を会計システムにアクセスして確認するのに手間が掛かる

このとき、現場からは、「会計システムにアクセスせず過去の購入履歴を参照できるようにしてほしい」という声が上がるかもしれません。そこで、新たに導入する資材調達システムの要件として、「購入予定の資材名を画面上で選択すると、過去に購入した同一資材の購入個数と単価を表示する機能」を実装することが必要かもしれないとイメージできます。

本番稼働前には、現場担当者向けにシステムの操作講習会を実施し、事前に操作に慣れてもらうことも重要です。また、本番稼働後についても、使いにくい点などを必要に応じて改修していくことで、現場の満足度が高まります。

ポイント②:ベンダーと対等な関係を築く

ベンダーと「対等な関係」であることが重要です。日本企業の場合、外部委託に依存する傾向が強く、ベンダーとの「絆」を大切にしがちです。しかし、絆を大切にし過ぎるあまり「馴れ合いの関係」になってしまう恐れがあります。

コストを削減するよう強い姿勢で臨みにくい、ベンダーからの提案を全面的に否定しにくいなど、馴れ合いの関係は時として主張すべきことを主張できない関係になりかねません。

海外企業の中には、これまで献身的に自社のIT導入をサポートしてくれたベンダーであっても、コスト削減要求に十分応じなかったり、新たなIT導入プロジェクトで十分な効果を得られなかったりしたら、ベンダーを切り替えるといったドライな措置を講じるケースも少なくありません。

ベンダーと対等な関係を構築するために取り組むべきなのが、「ベンダーマネジメント」です。ベンダーに委託する業務内容を曖昧なまま丸投げせずに明確化し、ベンダーのパフォーマンスを最大化するために用いる管理手法です。

例えば、基幹システムの導入なら基幹システムの導入実績に定評のあるAベンダーに、システムの保守なら価格競争力のある保守サービスを提供するBベンダーにといった具合に、委託する業務内容を細分化し、それぞれ適切なベンダーと契約するようにします。

その際は、過去の実績を重視するだけではなく、次のようなさまざまな視点を持つことも重要です。

  • 最新のテクノロジーを使った新たな解決策を打ち出しているか
  • 特定分野に秀でたソリューションを提供しているか
  • 企業の事業部門がスピンアウトして業界固有の業務に精通しているか
  • 小規模でも自社の課題解決に親身になって取り組んでくれるか

コストや業務の理解度、新しいテクノロジーへの精通度などによってベンダーを評価し、最もパフォーマンスを発揮できるベンダーと組むことで円滑なIT導入、システム運用を支援してもらえるようにします。

また、丸投げせず委託内容を明確にすることでコストを適正化できる他、工程管理などをベンダーに任せっきりにせず、自社で受け持つよう明確に業務分担すれば、工程の手戻りなどのリスクを事前に把握できるようにもなります。

ポイント③:「カスタマイズ」の正当性を評価する

IT導入プロジェクトでソフトウエアを導入する際、自社固有の業務に合わせられるようにするため、ソフトウエアの一部を「カスタマイズ」することがあります。

例えば、在庫管理システムを使って棚卸しする際、本来なら備えていないが、RFID(※)を使って一括で読み取った実際の在庫数を在庫管理システム上に表示させられるようにしたり、生産工程を可視化する生産スケジューラに、本来は備えていない工程ごとの負荷まで見えるようにする機能を追加したりといった具合に、自社にとって必要な機能を追加するのが一般的なカスタマイズです。

(※)RFIDとは、商品や食品の「タグ」を「リーダライタ」で読み取る際、電波を介して通信することで、タグとの距離が数メートル~数十メートル離れていても読み取れるシステム

ここで重要なのが、本当にカスタマイズが必要なのかを慎重に検討することです。カスタマイズには一定のリスクもあります。

例えば、新たに追加した機能が、バージョンアップしたソフトウエアでは正しく稼働しないといった問題が起こり得ます。これにより、バージョンアップによって新たに搭載されたソフトウエアの新機能を使えなくなる他、新たに追加した機能をバージョンアップ後も問題なく稼働させるために、改修費用が発生することもあります。

そうしたリスクをふまえつつ、カスタマイズで新たに追加した機能が、自社の「強み」につながっているかどうかを見極めることが重要です。

例えば、製造品の品質保持と不良品の発生頻度低下のため、生産管理システムに独自の品質チェック機能を追加したとします。

このとき、海外の粗悪品が多い中で自社製品の品質が市場で一目置かれているなど、品質の良さが自社の強みであり、品質チェック機能の追加がその強みを補強するのに不可欠なのであれば、前述したリスクをふまえても、カスタマイズの必要性は十分あるといえるでしょう。

また、カスタマイズによってこれまでの業務時間を短縮し、新たに生まれた時間を使って新規事業創出プロジェクトを動かすなどの場合も、間接的に自社の強みを補強する効果を見込めることから、カスタマイズを検討してみてもよいでしょう。

まずは、自社が他社に比べて何が優れているのか、どんな特徴を持つ商品・サービスを提供しようと考えているのかなど、自社がどうあるべきかを明確にすることが大切です。

ポイント④:万全なセキュリティ対策を講じる

例えば、顧客情報を簡単に呼び出せるシステムなどを導入すると、顧客情報の漏洩リスクも高くなる恐れがあります。効率性や生産性を追求する一方で、情報漏洩などが頻発するようでは本末転倒です。

IT化の効果を最大限に引き出し、その恩恵を得るには、セキュリティ対策は不可欠です。

見逃しやすいサイバーリスクや、具体的なセキュリティ対策にはどのようなものがあるか。次のコンテンツにまとめているので、ぜひご覧ください。

 IT化の要! セキュリティ対策に必要なことは?

また、いくらセキュリティ対策を施しても、最後には人間がシステムを扱う以上、単純なヒューマンエラーなどのリスクはゼロにはできません。

万が一のサイバーリスクに備え、被った被害の一部を補償する保険などに加入しておくのも一策です。

サイバーガード

以上

(執筆 日本情報マート)

(監修 合同会社コンサランス代表 中小企業診断士 高安篤史)

生21-9,法人開拓戦略室

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