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派遣先における労務管理の基礎知識を解説

経営課題事例

2023-12-21

「派遣先の労務管理」をテーマに、派遣先の労務管理や労務管理の義務について、経営者向けに解説します。

目次

勤務先の企業で初めて派遣社員を受け入れることになった場合、労務管理の範疇など確認しておきたい人もいるのではないでしょうか。

当記事では派遣先の企業担当者向けに労務管理の基礎を解説します。派遣先としての義務を怠ることで違法となるケースに関しても紹介します。

派遣社員を受け入れる際には、ぜひ参考にしてください。

1.派遣先企業には労務管理の義務がある

派遣先企業には派遣社員の労務管理を行う義務があります。派遣先の企業は基本的に業務上の指揮命令や勤怠管理などの労務管理を行い、派遣元の企業とは異なる責務を負います。

【労務管理に関する責務】

責務の所在

労務管理の内容

派遣先企業

・勤怠管理(出退勤・休憩など)

・時間外労働、休日出勤

派遣元(派遣会社)

・賃金支払い

・有給休暇

・産前産後休業

・災害補償

・健康診断

派遣社員の福利厚生や災害補償などは派遣元である派遣会社が管理します。有給休暇や育産休などに関しては派遣元が管理しますが、派遣社員からの有給の取得時期等の相談に関しては派遣先で対応する必要があります。

また、派遣社員の福利厚生利用などの待遇に関しては、2020年4月の法改正により派遣先企業の従業員と同等であることが定められています。派遣契約の際に選択された待遇決定方式の種類によっては、派遣先の福利厚生が適用される場合もあります。

派遣社員が使える福利厚生の条件については「派遣社員が使える福利厚生の条件はどのように決まる?」を参考にしてください。
派遣社員が使える福利厚生の条件はどのように決まる?

派遣社員の管理を行う担当者の選任

派遣先企業では、労働者派遣法第41条によって派遣社員の管理を行う「派遣先責任者」の設置が義務付けられています。派遣先責任者以外にも、「指揮命令」「苦情処理」を行う担当者が必要です。

【派遣先での担当者】

担当者

担当者に求められる条件等

役割

派遣先責任者

労働関係法令の知識がある人

人事および労務などの専門知識や実務経験がある人

・派遣先における責任者

・労働者派遣契約に即した勤務状況であるかの確認

指揮命令者

・派遣社員と同一部署など派遣社員の業務内容を把握できる立場の人

・派遣社員の出退勤などの労務管理

・派遣社員への業務指示

苦情処理担当者

指揮命令者以外の人(兼任不可)

・労働関係法令に関する知識、人事・労務管理などの専門知識や実務経験がある人が望ましい

・ハラスメント防止

・派遣社員からの苦情に対する対応及び派遣会社への報告

参照:第9 派遣先の講ずべき措置等|厚生労働省

派遣先責任者に関しては、受け入れる派遣社員の数に応じた配置人数の定めがあります。事業所で受け入れる派遣社員が100名までの場合は1名、200名までの場合は2名、と100名の派遣社員に対して1名の派遣先責任者を配置しましょう。

ただし、派遣先で雇用している従業員と受け入れる派遣社員の合計が5人以下の場合には派遣先責任者の選任は必要がないとされています。派遣先責任者を置く場合には担当者の能力向上や適切な業務遂行を目的とした講習会への参加も検討してみてください。

派遣社員の勤怠管理

派遣先企業の義務として派遣社員の勤怠管理を行う必要があります。派遣先が管理する勤怠は派遣社員の「出退勤」「休憩」「休日」です。

派遣元と派遣社員の契約が時間外・休日労働に関する協定を締結している場合、派遣先企業が派遣社員に対して残業や休日出勤を命じることができます。そのためにも、派遣先は派遣社員が締結している契約内容を把握している必要があります。

なお、派遣社員の欠勤が多い際には、契約内容に基づき派遣社員への指導を行ったり派遣元に代替を依頼できたりする場合があります。派遣社員の勤怠不良があった場合には、まずは派遣元に報告して、先方の担当者と協議することを検討してみてください。

派遣社員の勤怠記録の保管

派遣先企業は、派遣社員の勤怠管理の保管が義務付けられています。派遣元企業からの問い合わせや労働基準監督署から開示を求められた際に対応できるように終了後もタイムカード等の勤怠記録を5年間は保管しましょう。

勤怠記録の紛失や破棄は労働基準法の「労働関係の重要書類における保存義務」に違反することになります。違法とみなされた場合は労務管理の担当者だけでなく企業が罰則の対象になる場合があります。

なお、派遣社員の勤怠記録は派遣先および派遣元の管理台帳で労働時間や日数がわかるように記録していればタイムカードでなくとも管理可能です。適切な労務管理を行うためにも、勤怠システムの活用などを検討してみてください。

2.派遣社員の労務管理は適切に行わないと違法となる場合がある

派遣社員の労務管理は適切に行わないと違法となる場合があります。

【法令違反の例】

法律

違反事項

労働基準法

第百九条|記録の保存

派遣契約満了後5年以内のタイムカード破棄

職業安定法

第四十四条|労働者供給事業の禁止

二重派遣(労働者供給事業の禁止)

労働者派遣法

第三十五条の四|日雇労働者についての労働者派遣の禁止

30日以内の日雇い派遣

たとえば、法令違反となる二重派遣とは、派遣先で受け入れた派遣社員を他の企業に派遣することです。派遣元Aから受け入れた派遣社員を派遣先Bが企業Cから仲介手数料を受け取って派遣スタッフとして派遣した場合に派遣先Bは二重派遣を行ったことになります。

二重派遣や偽装請負を防ぐためにも派遣社員と派遣元、そして派遣先の関係性や役割を確認しておきましょう。また、労働者派遣契約を遵守し、適切な指揮命令者を行うことが必要です。

とくに初めて派遣社員を受け入れる際には今一度、厚生労働省の資料を確認したうえで、労務管理の責務に関して派遣元とすり合わせを行うことを検討してみてください。

3.まとめ

派遣先企業には派遣社員の労務管理を行う義務があります。派遣先企業の責務は派遣元企業が負うものとは異なり、派遣社員の勤怠管理や時間外労働、休日出勤に関して管理します。

また、派遣先企業は「派遣先責任者」「指揮命令者」「苦情処理担当者」の選任、派遣契約終了後5年間の勤怠記録の保管が義務付けられています。

派遣社員の労務管理は適切に行わないと違法となる場合があります。派遣社員を受け入れる際には労働者派遣契約を遵守し、適切な指揮命令者を行うようにしましょう。

(執筆 株式会社SoLabo)

生23-4226,法人開拓戦略室

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