記事サムネイル

これからの中小企業の退職金制度とは? 基本的な制度を紹介

経営課題事例

2021-03-24

社外積立制度で企業と従業員の双方にメリットがあることを知っていますか? 意外と知らない退職金制度の基本的な分類を整理していきます。

目次

退職金制度の見直しや廃止を進める中小企業が増えています。それは、多くの中小企業が導入している、終身雇用・年功序列を前提とした「退職一時金」が時代にそぐわなくなり、企業と従業員のメリットが小さくなっているからです。

退職金制度の選択肢はさまざまで、その中心は社外積立の制度になります。うまく設定することで、企業と従業員の双方にメリットがあります。この記事では、意外と知らない退職金制度の基本的な分類を整理していきます。

1 退職金制度の導入率と主な分類

1)退職金制度の導入率

退職金とは、退職した従業員に企業が支払う金銭の総称です。企業が任意に行う法定外福利厚生の1つで、そのルーツは江戸時代の「のれん分け」まで遡るとの説もあります。つまり、給与の後払いの性格を持つ手当と考えられています。

多くの企業が退職金制度を導入しており、導入率は調査産業計で80.5%に上ります(出所:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」)。

【退職金制度の導入率】

【退職金制度の導入率(2018年)】

(出所:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」を基に作成)

(注)()内の数値は、退職金制度がある企業を100%とした場合の割合です。

2)退職金制度の基本的な分類

退職金制度は、支払い形態や算定方法によって以下のように整理されます。

1.支払い形態

  • 退職一時金:退職金を一括で支給
  • 退職年金:退職金を年金として支給(「企業年金」とも呼ばれる)

2.算定方法

  • 基本給連動型:退職時の基本給をベースに退職金を算定
  • 基本給非連動型:基本給以外の指標で退職金を算定(いわゆる「ポイント制」など)

3.積立形態

  • 社内積立:「内部留保型」とも呼ばれる。退職金原資を自前で準備する
  • 社外積立:社外(金融機関の企業年金商品を活用)に退職金原資を積立てる

このように、退職金制度にはいくつかの分類方法があります。冒頭で紹介したように、社外積立のほうにたくさんの制度がありますが、ここでは主に確定給付企業年金(DB:Defined Benefit Plan)確定拠出年金(DC:Defined Contribution Plan)に注目して、その概要を紹介します。

また、中小企業では、60歳以上の従業員の雇用を何らかの形で継続して労働力不足を解消していることが多いため、60歳以降の取扱いについても簡単に触れていきます。

2  確定給付企業年金(DB)の活用

1)確定給付企業年金とは

確定給付企業年金(DB:Defined Benefit Plan)は、2002年施行の「確定給付企業年金法」に基づいて整備されたものです。将来の給付額が確定しており、予定どおりに運用できなければ企業が補填します(「後発債務」の発生)。

確定給付企業年金のメリットや導入事例については、以下のコンテンツで詳しくご紹介しています。

DBのお勧めポイント

2)60歳以降の取扱いが注目される

既に確定給付企業年金を導入している中小企業であっても、今後、60歳以降の制度の取扱いが一層重要になります。詳細は後述しますが、確定給付企業年金は加入期間に制限がないため、65歳定年や70歳定年にも対応できます。パターンは次のとおりです。

1.新定年まで積み増し

勤続期間が給付に反映されるため従業員にとっては好ましいですが、企業の負担は重くなります。また、支給年齢が繰り下げられるため、いわゆる「給付減額」に該当する恐れがあります。

あるいは、旧定年の給付水準を新定年で実現するように調整するケースもあります。企業の負担は軽減されますが、こちらは明確に給付減額に該当するので注意が必要です。

2.旧定年で打切り支給

旧定年に達した従業員は制度からは脱退させます。支給時期を、旧定年到達時にするか、新定年到達時にするかについては、60歳以降の従業員の所得(賃金、公的年金など)も考慮した検討が必要です。

旧定年でいわゆる「打切り支給」をする場合、これが所得税法上の「退職所得」に該当するか否かが重要なポイントとなります。「雇用関係のある従業員に支払うのに、『退職金』なのか?」という疑問があるためです。

旧定年前から雇用されている従業員であれば基本的に問題ないと思われますが、退職所得は従業員が税制優遇を受けられる重要なポイントであるだけに、所轄の税務署に確認する必要があります。

3 確定拠出年金(DC)の活用

1)確定拠出年金とは

確定拠出年金は、2001年施行の「確定拠出年金法」に基づいて整備されたものです。当時は「日本版401k」などと呼ばれ(アメリカの内国歳入法401条k項を参考にした制度であるため)、大きな注目を集めました。拠出(掛金)が確定しており、運用責任は従業員(加入者)が負います。

確定拠出年金の留意点や導入事例については、以下のコンテンツで詳しくご紹介しています。

DCの導入事例について

2)やはり、60歳以降の取扱いが注目される

確定拠出年金は、企業型DC個人型DCとに分かれます。企業型DCの場合、制度に加入できるのは65歳未満の従業員になるため、現時点では70歳定年には対応できません。ただし、「70歳までの就業促進」の動きを受け、2022年5月から、企業型DCに加入できる年齢が70歳未満まで引き上げられます。

前述した確定給付企業年金と同様、確定拠出年金にもいくつかのパターンがあります。

1.60歳以降も60歳未満と同じように処遇

勤続期間中、掛金が従前と同じように拠出されるため従業員にとっては好ましいですが、企業の負担は重くなります。

2.60歳以降は60歳未満より掛金を抑制

勤続期間中、掛金が拠出されるため従業員にとっては好ましいです。ただし、拠出額を減らして、企業の負担も軽減します。

3.60歳での積立金の高さを65歳で達成

60歳の積立水準を65歳で達成するというもので、企業の負担は軽減されます。

4.定年延長後も60歳で受取り可能

60歳で資格喪失させる方法です。企業の負担は変わりません。従業員は「加入者」から、「運用指図者」へとDC利用上の立場が変わり、60歳以降も運用を続けることはできます。運用指図者とは、掛金は拠出しないが、運用の指図は行う人のことを指します。

3)選択制DCの活用

企業型DCには、選択制DCという仕組みがあります。具体的には、「給与(賞与)の一部について、引き続き給料で受取るか、確定拠出年金(企業型DC)の掛金とするかを従業員が選択する制度」です。

なお、選択制DCの詳細は、以下のコンテンツで詳しくご紹介しています。

 選択制DCで従業員の財産形成! 概要・メリットを解説

4 リスク分担型企業年金の活用

リスク分担型企業年金は、企業年金の運用リスクを労使で分担する制度で、「第3の企業年金」として2017年に創設されました。確定給付企業年金と確定拠出年金の双方の性質を兼ね備えており、ハイブリッド型とも呼ばれます。

事業主は、将来の財政悪化リスクに備えたリスク対応掛金をあらかじめ拠出すれば、財政悪化時の追加拠出が発生せず、財政悪化時のリスクは従業員(加入者)が負います(給付減額で対応)。

一方で、拠出限度額がない、退職事由ごとの給付額設定ができる、60歳以前の受取りが可能といった、確定給付企業年金と同様の自在性を持っています。

5 退職金制度の見直しで実現したい3つのこと

1)透明性やポータビリティの確保で、中途採用を有利に進める

中小企業を中心に普及しているのは、「退職一時金(基本給連動型、社内積立)」です。勤続期間に応じて基本給が上がり、それに応じて退職金も上がるという終身雇用・年功序列を前提とした制度です。

しかし、雇用の流動化が進む中、従業員はこうした退職金制度にメリットを感じにくくなっています。むしろ、入社から現時点までの自身の退職金評価額が明確で分かりやすいことや、「ポータビリティ」(転職や退職をしても自身の資産を引継ぐこと)が確保されていることを期待しています。

逆に言うと、評価が退職金に反映されやすく、かつポータビリティの確保された退職金制度を導入すれば、転職者にとって魅力的な福利厚生となり、即戦力の採用時に有利になります。

2)社外積立の経済的メリットを実現する

社内積立の場合、積立は帳簿上のことで、実際にキャッシュが確保されているとは限りません。そのため不測の退職者が出た場合などは、資金確保(調達)をしなければなりません。また、税制優遇などもありません。

これを社外積立に切替えれば、将来必要と想定される退職金総額を平準的に掛金として積立てられるので、不測の退職者が出ても安心です。また、税制優遇も受けられます。

3)60歳以降も想定して、働き方改革に対応する

働き方改革の一環で、2021年4月1日に改正「高年齢者雇用安定法」が施行されます。これにより、企業は希望する従業員に、70歳まで働く機会を与える努力義務を負います。もともと企業は、従業員を65歳まで雇用する義務を負っているので、5年間延長されます。

実務上、賃金や労働時間など高齢社員の労働条件を変更する必要がありますが、退職金制度も例外ではありません。退職金制度のほとんどは60歳定年を前提に構築されているので、65歳や70歳までの雇用期間の延長を見据える必要があるためです。

なお、70歳までの就業促進への具体的な対応策は、以下のコンテンツで詳しくご紹介しています。

 定年延長、再雇用時代に求められる注意点を解説

(参考)「同一労働同一賃金」への対応を検討

同一労働同一賃金との関係も気になるところです。ただ、退職金については厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)」で、「不合理な待遇差の解消」と基本的な考え方が示されているだけです。退職金は同一労働同一賃金の対象ですが、本格的な議論はまだ先になりそうです。

なお、派遣社員の同一労働同一賃金を実現する「労使協定方式(派遣元と派遣社員が締結するもの)」には、同一労働同一賃金の対象として退職金が明記されているので、派遣元企業に関しては、早急な対策が必要でしょう。

6 退職金のモデル支給額

■常用労働者1人1カ月平均退職給付等の費用

(出所:厚生労働省「平成28年就労条件総合調査」)

■学歴・職種、企業規模別の定年退職者1人平均退職金額

(出所:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査」)

(注1)「退職一時金額」「年金現価額」「退職給付額」は、2017年1年間における勤続20年以上かつ年齢45歳以上の定年退職者の値です。

(注2)「月収換算」は、退職時の所定内賃金に対する退職給付額割合です。

以上

(執筆 日本情報マート)

(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

日本ー年基ー202010ー170ー0402ーD

関連記事

記事サムネイル

選択制DCで従業員の財産形成! 概要・メリットを解説

「選択制DC」の仕組みとは?ポイントやよくある質問と共に詳しく解説していきます。