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日本のリカレント教育を推進するために

経営課題事例

2022-10-26

リカレント教育は学習のために休職や離職などで一度職を離れ、大学等で学習をした後、再び職に戻るといったものです。政府が2022年6月7日に発表した経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)においてもリカレント教育について言及されており、今後の日本にとって重要な取組みであることは間違いありません。

目次

1.リカレント教育とは

厚生労働省はリカレント教育を「学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくための社会人の学び」と定義しています。似た言葉にリスキリングという言葉があります。リスキリングは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること/させること」です。

リカレント教育は学習のために休職や離職などで一度職を離れ、大学等で学習をした後、再び職に戻るといったものです。対してリスキリングは仕事を継続しながら、これからも職業で価値創出をし続けるために必要なスキルを学ぶという特徴があります。ただし、日本ではリスキリングに近い意味でリカレント教育という言葉が使われることも多いようです。

政府が2022年6月7日に発表した経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)においてもリカレント教育について言及されており、今後の日本にとって重要な取組みであることは間違いありません。

2.リカレント教育の現状

日本は少子高齢化という課題を抱えており、内閣府が発表した令和4年版高齢社会白書によると、2021年10月1日時点での人口は1億2550万人でそのうち65歳以上の割合は28.9%となっています。これに伴い、労働力人口の減少が懸念されています。そのような中で、これまでと同じ生産性を保つためには、一人一人の生産性を向上させる必要があります。ここで注目されているのがリカレント教育です。

リカレント教育の代表的なものが、大学院等での学び直しです。しかし日本では諸外国に比べて社会人の大学院等への入学が少ないです。25歳または30歳以上の大学院等への入学者の割合をみると、OECD加盟国の中で日本は下位に位置していることが分かります。25歳以上の「学士課程または同等レベル」への入学者の割合、30歳以上の「修士課程または同等レベル」への入学者の割合、30歳以上の「博士課程または同等レベル」への入学者の割合のすべてがOECD平均を下回っています。

日本でリカレント教育が進展しない理由は、費用がない、時間がないといった問題だけではなく、学び直しの評価がされにくいこともあります。それ以外にも、個人が希望するとおりに休暇取得や定時退社、早退・短時間勤務ができないこと等があります。

25歳以上の「学士課程又は同等レベル」への入学者の割合
30歳以上の「修士課程又は同等レベル」への入学者の割合
30歳以上の「博士課程又は同等レベル」への入学者の割合

3.政府の支援

こうした状況を踏まえて、厚生労働省、経済産業省、文部科学省は連携してリカレント教育の推進に取り組んでいます。

厚生労働省のホームページにはリカレント教育推進のための主な施策が大きく分けて4つ記載されています。1つ目が職場における学び・学び直し促進ガイドラインです。学び・学び直しにおける基本的な考え方や、労使の協同について記載してあります。2つ目が労働者の主体的な学びへの支援です。労働者は学習にかかる費用の援助を受けられるほか、キャリア形成サポートを受けることができます。3つ目は労働者が受講できる公的職業訓練です。希望の職に就くために無料で公的職業訓練を受講できます。4つ目は事業主による人材育成支援です。事業主は援助を受けられるほか、低コストで講義を受けられ、キャリアコンサルタントの相談支援も受けられます。

リカレント教育のために政府が実施している施策

更に、文部科学省では「マナパス」という社会人の学びを応援するポータルサイトを用意しており、そこでは、約5000の大学・専門学校等の条件別講座検索、自分の学習モデルを見つける修了生インタビュー、費用支援や職種別の学び直しを紹介する特集ページなど、社会人の学びに関する情報が幅広くまとめられています。

4.企業・大学の事例

リカレント教育を推進するにあたって、企業や大学等の体制を整えることが重要です。メルカリ、日本製鉄、ANAは従業員が大学院等へ通いやすくするための制度を設けました。メルカリは博士課程進学時の学費支援及び、業務時間を時短無し、80%稼働、60%稼働、休業の4つから選択できる制度を設けました。日本製鉄は学び直しを進める社員に最長3年間の休職を認める制度を始め、ANAは理由を問わず2年間の休職を認める制度を始めました。

受け入れ側である大学院等も準備を進めています。文部科学省が2021年12月1日に開いた国立大学法人評価委員会の総会において、全国82の国立大法人のうち34法人が2022年度以降に社会人教育の拡充を計画していることが分かりました。従業員や企業にとって魅力的なプログラムが提供されることで、学び直しが活発になることが期待されます。

リカレント教育に関する目標を作成した国立大学法人の一部

5.日本のリカレント教育を進展させるために

人生100年時代に突入し、働く期間も伸びてきていることから、適切なタイミングで学び直し、能力を磨き続けるリカレント教育の重要性はますます高まっています。しかし日本では諸外国に比べてリカレント教育が進展していません。リカレント教育を進展させるためには、国の支援、企業の支援、大学の受け入れ態勢の整備が不可欠です。

国は現在、ハローワークでの職業訓練の実施、学習や訓練受講にかかる金銭の援助等によって、労働者と事業主をサポートしています。引き続きサポートを行うことで、労働者の能力開発が促され、リカレント教育が推進されていくでしょう。

企業は、社内の人材戦略としてリスキリングを実施し、社員のデジタル化等を積極的に行う傾向が強くなっています。一方で、社員の大学等への進学を後押しする休暇制度の拡充や、費用面での援助を実施している企業はまだ少数です。今後、このような企業が増加することが、リカレント教育推進のカギとなるでしょう。

また、大学については、2022年度以降に社会人教育の拡充を計画している国立大学法人が40%以上あり、今後更に拡充していくことが予想されます。より社会人の学び直しを活発にするために、短期での学位取得や、夜間、休日の授業など教育プログラムの整備、見直しが必要です。

個人の学び直しを推進するための環境づくりや支援を国、企業、大学は担っています。全ての関係者がそれぞれの役割を果たし、連携して個人の学び直しをサポートすることで、日本のリカレント教育を進展させることができるでしょう。

(ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員 安田 拓斗)

生22-4946,法人開拓戦略室

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