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従業員が休業したときの企業の負担は? 手当や補償を解説

経営課題事例

2022-03-11

従業員が休業すると企業にさまざまな負担が生じます。賃金の支払い、生活補償など費用面の負担の他、職場復帰のフォローのポイントなども紹介します。

目次

従業員が長い間休業(休職)し、賃金が支払われない場合の手当や補償は、次のとおり分類されます。

まず、企業の経営不振といった会社都合による休業の場合、企業が従業員に対して休業手当を支払うことが義務付けられています。

一方、休業手当が支払われない場合、労働災害(業務災害または通勤災害)による休業には休業(補償)給付が、労働災害に該当しない病気やケガなどによる休業には傷病手当金が、社会労働保険(労災保険・健康保険)から支給されることになります。

ただし、社会労働保険だけでは、支給額は通常賃金よりも低く、また支給期間も限られる等、休業前の生活水準の維持が難しいことが想定されるため、独自の休業補償制度を導入する企業が増えています。

本稿では、休業時の手当・給付について詳しく説明するとともに、従業員の休業後の職場復帰に向けたフォローのポイントについて説明していきます。

〈休業時の主な手当・給付について〉

1 今後、休業者は増加する?

2017年1月以降、国内における休業者数は、1カ月当たり約120万~200万人で推移してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて緊急事態宣言が発出された2020年4月には、休業者は597万人まで増加しました(総務省統計局「労働力調査(基本集計)」)

2021年12月時点では休業者は189万人と、従来の平均値に戻りつつありますが、コロナ禍の長期化により増加が懸念されているのがメンタルヘルス不調による休業です。

メンタルヘルス不調による休業者については、コロナ禍以前から増加傾向にあるといわれ、2018年1月時点で34.6%の企業が、5年前と比べてメンタルヘルス不調による休業者が増えたと認識しています(日本生命保険相互会社「ニッセイ『福利厚生アンケート調査』報告書(2018年1月)」)

〈ここ5年のメンタルヘルス不調による休職の利用者数の変化〉

(出典:日本生命保険相互会社「ニッセイ『福利厚生アンケート調査』報告書(2018年1月)」)

これに加え、コロナ禍での「外出自粛などによるプライベートの行動の制限」「リモートワークの導入など働き方の変化」などに対するストレスから、うつ病などの精神障がいを発症するケースの増加が懸念されているのです。

従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために、企業ができるさまざまな取組み事例については、次のコンテンツで詳しく紹介しています。

経営インサイト「メンタルヘルス対策の取り組み 予防と適切なケアで心の健康を守ろう」

福利厚生レポート「『メンタルヘルスの取組み』に関する企業調査結果報告~メンタルヘルスを生産性向上に繋げるために~」

2 従業員が休業したとき、賃金の支払いはどの程度必要?

1)「休業手当」の支払いが必要な場合

従業員が休業する場合、ノーワーク・ノーペイの原則(従業員が労務を提供しない期間は、企業は賃金を支払う義務がない)により、休業中の賃金は支払われないのが通常です。

ただし、企業の経営不振や設備不良などによって従業員が自宅待機になるといった会社都合による休業の場合(従業員が使用者の責に帰すべき事由により休業する場合)、企業は従業員に対し平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払わなければなりません。

平均賃金の算定方法は次のとおりです。

平均賃金
=算定事由発生日以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)÷算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数(暦日数)

なお、賃金が日給制、時間給制または出来高払制その他の請負制によって支払われている場合については、最低保証額(別途算式)が設けられています。

2)「休業補償」の支払いが必要な場合

業務中に機械に挟まれてケガを負う、上司のパワハラが原因でうつ病になるといった業務災害による休業の場合、企業は休業開始後最初の3日間(休業1~3日目は労災保険から給付されない)について、平均賃金の60%に相当する「休業補償」を支払わなければなりません。

なお、通勤中に転倒してケガを負う、猛暑の中通勤して熱中症になるといった通勤災害による休業の場合については、休業補償の支払いは不要です。

休業手当と休業補償は似ていますが、休業手当は労働基準法の賃金にあたるのに対し、休業補償は賃金にあたらないという違いがあります。そのため、従業員に休業手当を支払う場合は社会労働保険料、所得税などを天引きして支払う必要がありますが、休業補償については不要です。

3)社会保険料の納付が必要な場合

通常、社会保険料は原則として1年に1度見直され、当該年4月から6月に従業員(被保険者)に対して支払われた賃金の総額を基に決定し、同年の9月から翌年の8月まで適用されます。従業員が休職し、4月から6月にかけて賃金(休業手当を含む)の支払いを受けていない場合は、前年の9月から翌年の8月までの社会保険料が引続き適用されます。

つまり、従業員が休業し賃金(休業手当を含む)の支払いを受けない場合も、社会保険料は必ず納付しなければなりません。

社会保険料は、企業と従業員が折半して負担します。通常、従業員負担分については企業が賃金から控除して納付しますが、従業員が賃金(休業手当を含む)の支払いを受けない月については、企業が一旦立替え、従業員が復帰した際に回収するか、毎月、企業の指定口座宛に入金してもらうなどの対応を検討する必要があります。

4)労働保険料の納付が必要な場合

労働保険料は、年度内に支払った賃金(休業手当を含む)の総額を基に確定されます。そのため、休職により年度内に賃金(休業手当を含む)の支払いを受けなかった月があれば、その月については労働保険料が発生しません。

逆に休業していても賃金(休業手当)の支払いを受けていれば、労働保険料の納付は必要となります。

労働保険料は、労災保険料については企業が全額負担し、雇用保険料については企業と従業員がそれぞれの保険料率に基づいて負担します。

実務上は従業員負担分も含め、毎年6月1日から7月10日までに企業が労働保険料の見込み額(概算保険料)を支払い、翌年に実際の賃金(休業手当を含む)の総額に基づく労働保険料(確定保険料)との差額が精算されます。

従業員が休職中、賃金(休業手当を含む)の支払いを受けず、確定保険料の額が概算保険料の額を下回った場合は、その差額が企業に還付(現金還付または次年度の概算保険料へ充当)されます。

3 賃金が支払われない場合、従業員の生活をどう補償する?

休業中、賃金(休業手当を含む)が支払われない従業員に対しては、社会労働保険から休業中の生活を補償するための給付が支給される場合があります。

労働災害(業務災害または通勤災害)による休業の場合は休業(補償)給付(労災保険)が、労働災害に該当しない病気やケガなどによる休業の場合は傷病手当金(健康保険)が支給されます。

これにより、従業員の休業中の生活は一定程度補償されますが、支給額は通常の賃金よりも低く、また支給期間も限られます。社会労働保険だけでは、休業前の従業員の生活水準を維持するのは難しいでしょう。

そこで、福利厚生の一環として、独自の休業補償制度を設けている企業が増えています。例えば、メンタルヘルス不調による休業者に対して、企業独自で何らかの給付を行っている割合は、2015年の43.5%から2019年の51.4%に増加しています(日本生命保険相互会社「ニッセイ『福利厚生アンケート調査』報告書(2020年3月)」)

〈メンタルヘルスの不調により休職している正規の従業員・職員への給付(法定超)〉

企業独自の休業補償制度を導入する場合、民間の保険会社が提供している団体長期障害所得補償保険(GLTD)などに加入し、制度の充実を図るケースがあります。民間保険を活用した休業補償制度の充実については、次の記事で詳しく解説しています。

従業員の長期休業に備え準備すべきこと

休業保障の取組事例(GLTD)

また、企業が従業員に「休業扶助」などの名目で、賃金の何割かを金銭で支払うこともあります。ただし、その場合、金額や支払い方法などが就業規則等に明確に規定されていると、賃金に該当するものとして休業(補償)給付や傷病手当金の支給を受けられなくなる(または一部減額となる)恐れがあるため、注意が必要です(恩恵的な支払いにすぎない場合は、賃金にあたりません)。

4 職場復帰に向けたフォローのポイント

企業の負担は、休業中の従業員の生活補償など金銭面のものだけではありません。普段の業務と並行しながら、従業員の職場復帰に向けたさまざまなフォローをしなければならず、経営者や人事労務担当者の精神面の負担も発生します。

とはいえ、このフォローが不十分だと、従業員が職場復帰できないまま退職してしまったり、職場復帰後にケガや病気が悪化してしまったりして、訴訟などのトラブルに発展する恐れがあります。

そこで、以降では、従業員がメンタルヘルス不調で就業できなくなった場合を想定し、職場復帰までのフォローのポイントを紹介します。

1)休業前:従業員(または家族)との情報共有を怠らない

従業員がメンタルヘルス不調などで就業できなくなった場合、療養が長期に及ぶ可能性が出てくるようであれば、従業員(または家族)から主治医の診断書を提出してもらって、休業の必要性を判断します。

診断書だけでは判断に迷う場合は、従業員の同意を得たうえで主治医と面談したり、自社の産業医(労働者数50人以上の企業に選任義務があります)に相談したりします。また、就業規則等で自社の休業に関する制度(制度の有無、期間、対象者など)を確認しておきます。

休業に移行する場合は、その開始前に、従業員(または家族)と次の内容についての情報共有を行います。

  • 休業の最長期間
  • 休業中の仕事の引継ぎ
  • 休業中の連絡(窓口・タイミング・連絡方法)
  • 休業中の補償(賃金の支払い、社会労働保険の給付など)
  • 休業中の社会保険料、住民税の支払い

休業中の仕事の引継ぎについては、従業員が休職に入るのが遅れると、メンタルヘルス不調が悪化する恐れがあるため、できる限り迅速に行う必要があります。従業員が担当している業務を箇条書きでリストアップしてもらい、各業務の後任を決め、要点を押さえた引継ぎができるようにしましょう。

社内の人間だけではフォローしきれない場合、派遣従業員の派遣を受ける、業務の一部を外注するなどして、代替要員を確保する必要があります。

休業中の連絡については、従業員の治療の経過、職場の情報、休業者の後任からの質問事項などについてやり取りするため、窓口・タイミング・連絡方法(電話、メールなど)などを伝えておきます。

休業中の社会保険料の支払いについても、あらかじめ決めておきます。また、住民税についても企業が一時的に立替えるのか、従業員が直接納付するのか、後々のトラブルを避けるためにも、事前に支払い方法を確認しておきましょう。

2)休業中:復職のために必要な措置を検討する

休職中、企業は従業員から治療の経過などを定期的に確認しながら、復職のために必要な措置を検討することになります。復職のために必要な措置の例は次のとおりです。

  • 短時間勤務
  • 軽作業や定型業務への従事
  • 残業・深夜業務の禁止
  • 出張制限
  • 交替勤務制限
  • 危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務などの制限
  • フレックスタイム制度の制限または適用
  • 配置転換についての配慮

3)職場復帰前:主治医の診断書だけで職場復帰の可否を決めない

休職期間の終了が近づいてきたら、主治医の診断書などから、従業員が業務を行える状態であるかを確認します。ただし、実際は主治医が職場復帰後の業務内容などを詳しく把握していないケースもあるため、診断書だけで職場復帰の可否を判断するのは困難です。

そのため、例えば、従業員の同意を得て従業員同席で主治医との面談を行ったり、企業の指定する医師の診察を受けさせたりするなど、慎重な対応が必要となるでしょう。

職場復帰の可否を判断する基準としては、次のようなものがあります。

  • 従業員が十分な意欲を示している
  • 通勤時間帯に1人で安全に通勤ができる
  • 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
  • 業務に必要な作業ができる
  • 作業による疲労が翌日までに十分回復する
  • 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
  • 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している など

5 一番大切なのは従業員や家族の心情

昨今はテレワーク(リモートワーク)や時差出勤などによって、病気やケガの影響が残っていても、ある程度従前と同じように働けるという企業が少なくありません。

一方、企業が環境を整えていても、従業員が「弱っている自分に耐えられない」と考えて退職を選択してしまったり、従業員本人が職場復帰を希望していても、その家族が「無理をしないでほしい」と従業員を引き止めたりするケースがあります。

こうした場合に、無理に職場復帰を勧めると、かえって従業員や家族を苦しめることになりかねません。逆に、仮に退職という選択をしても、企業側が「いつでも戻っておいで」と声を掛けて、“きれいな別れ方”をすれば、症状や気持ちが落ち着いたときに、再度従業員を迎え入れることができるかもしれません。

従業員が病気やケガによって休業すると、ここまで紹介したような生活補償や職場復帰の手続きに目が行きがちですが、「一番大切なのは、従業員や家族の心情に寄り添うことである」ということを念頭に置いておきましょう。

(執筆 日本情報マート)

(監修 シンシア総合労務事務所 特定社会保険労務士 白石和之)

WS2021-1783(2022.3.3)

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