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BCPの基本とは?「予測」「予防」「対応」で大規模災害に備える!!

経営課題事例

2022-04-11

高い確率で発生するといわれる南海トラフ地震や首都直下地震に、企業はどのように対策を施したらよいのでしょうか。BCP・防災の基本から考察します。

目次

1.東京都民1000万人以上は避難所にも行けない?

いきなりですが、「1385万人」「1592万人」「320万人」と聞いて、どのような数字だと思われるでしょうか。こちらは2018年時点の統計ですのでコロナ禍の前の数字になってしまいますが、1385万人は東京都の人口、1592万人は東京都の平日昼間の人口です。それに対して、320万人というのは東京都が準備している避難所の収容人数です。東京都のホームページによると、2020年4月1日時点で都内の避難所は3200カ所(協定施設含む)。福祉避難所1500カ所が確保されていると記載されています。それでもよく考えてみると、平日の昼間に首都直下地震や南海トラフ地震などの大地震が東京を襲った場合、実は1000万人以上の人には行く避難所もないのが現状なのです

■東京都の昼間人口(従業地・通学地による人口)の概要(東京都総務局)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/03/20/12.html

このような状況を受け2015年、当時の東京都知事であった舛添要一氏が「東京防災」という冊子を発行。東京都に在住している住民の「全戸」に1冊ずつ配布し、話題になりました。筆者は当時、防災関係のメディアで編集長をしていましたが、記者会見で舛添知事が近い将来に東京で大地震が起こる可能性について触れ、「過去にスイス政府が国民に対して配布した危機管理本「民間防衛」の災害バージョンを作りたいと考えた」と話したのをよく覚えています。

ただ、これは逆に考えると、「東京都の防災の限界」を示すものでもありました。すなわち、「避難所を増やすことなど、都ができることには限界がある。最終的には住民一人ひとりが自ら備え、災害時にはまず自分と家族の命が助かるよう、日ごろから考えておいてほしい。そして災害が発生したら、まず自分の家での「在宅避難」を考えて欲しい」という東京都からのメッセージだったのです。そしてこの状況は東京都だけではありません。名古屋や大阪などの大都市圏では、同じような状況であることは想像に難くないでしょう。

内閣府「防災情報のホームページ」では、1995年に発生した「阪神・淡路大震災における生き埋めや閉じ込められた際の救助主体等」を調査したグラフを公開しています。「自力で脱出」した人は34.9%、「家族に助けられた」人は31.9%、「友人、隣人」が28.1%となっています。一方で、消防や自衛隊などの「救助隊」に助けられた人はわずかに1.7%でした。このように自分で自ら助かることを「自助」、家族や隣人、友人などのコミュニティに助けられることを「共助」と呼びます。消防や自衛隊などの公の機関に救助されることは「公助」と呼びますが、災害から助かるにはまず「自助」「共助」が重要なことがこのグラフからもわかると思います。

■阪神・淡路大震災における生き埋めや閉じ込められた際の救助主体等(内閣府「防災情報のページ」平成26年版防災白書)
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h26/zuhyo/zuhyo00_02_00.html

2.「予測」「予防」「対応」でBCPの基本を知ろう

そして、自助・共助とともに現在防災の主体として注目されているものの1つが、企業や組織などが策定するBCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)です。阪神・淡路大震災は朝5時46分という時間帯に発生したためあまり話題にされませんでしたが、2011年の東日本大震災は金曜日の午後14時46分という時間に発生したため、学校や会社にいた方も多いかと思います。現在、東京都や多くの自治体では「帰宅困難者条例」を定めており、就業時間帯に災害が発生した場合には3日間、従業員が会社に留まれるような備蓄を求めています。なぜ3日間というと、災害が発生してから72時間は、人命救助のゴールデンタイムと呼ばれており、72時間を過ぎると人命救助の確立が大きく下がってしまいます。災害が発生し、停電などで信号が止まり、車の大渋滞も予想されるなかで多くの人が自宅に帰ろうとしてしまうと、それだけで道には人があふれかえってしまうことが予想されます。災害が発生した直後、そのような混乱を軽減して救助隊などによる人命救助活動を優先するため、東京都をはじめとした大都市では帰宅困難者条例を定めているのです。

さて、BCPとは具体的にどのようなものでしょうか。さまざまな側面がありますが、まず今回は「防災」の側面から見ていきましょう。防災に限らず、国のテロ対策や今回の感染症対策など様々な危機管理を考えるときに重要なのは「予測」「予防」「対応」の3つのフェーズだといわれています。具体的には、以下のような考え方になります。

①予測…ハザードマップや政府が出す地震の被害予測を確かめ、大災害が発生したら自社や社会的なインフラがどのような状況に陥るかを確認する。

②予防…予測に応じ、自社のオフィスの耐震やキャビネットの耐震固定など、ハードにおける耐震対策を実施するとともに、従業員をオフィスに3日間とどめておくための備蓄を進める。

③対応…地震が発生したときのために、あらかじめ初動対応や避難活動・救護活動のマニュアルを整備しておき、事業の復旧スピードを上げる。

大切なのは、この「予測」「予防」「対応」はセットで考えることが必要だということです。企業のBCPを拝見していて最も足りないと筆者が考えるのは「予測」の部分です。必要な被害想定をきちんと行っていないために、予防策、対応策が「絵に描いた餅」になってしまうケースが多いと感じています。現在、政府では様々な災害の被害想定をホームページなどで公開していますので、ぜひ一度チェックしてみてください。

■J-SHIS 地震ハザードステーション(国立研究開発法人 防災科学研究所)
https://www.j-shis.bosai.go.jp/

■重ねるハザードマップ(国土交通省)
https://disaportal.gsi.go.jp/

3.「0~0.9%」という確率はやや高い?「Sランク」の活断層は全国に31本!

さて、地震のハザードマップを見るうえで、少し注意点があります。よく、「今後30年間における南海トラフ地震の発生確率は70%~80%」という政府の予想を目にしますが、これだと一見して「確率が高いな」と分かります。ただ、「この断層で地震の発生する確率は0~0.9%」などといわれると、皆さん「発生確率は少ないな。これなら対策をしなくてもいいや」と考えてしまうかもしれません。実は2016年に発生した熊本地震を引き起こしたと言われる布田川・日奈久断層帯では、「今後30年間に地震が発生する可能性は0~0.9%」と、政府の地震調査研究推進本部では発表していました。同時に、「この「0~0.9%」は日本にある約120本の主な活断層の中では可能性が「やや高い」に分類される」とも記述しています。どういうことなのでしょうか。

実は、日本には2000本以上の活断層が存在すると言われており、それらが複雑に絡み合う地域も存在しています。そのなかで、前述した政府の地震調査研究推進本部では過去の災害の履歴などを調べ、そのなかから地震の発生可能性の高い114本を厳選して「主要活断層」として評価しているのです。熊本地震を引き起こした布田川・日奈久断層帯も主要活断層の1つでした。現在、政府が主要活断層としている活断層は、確率が低くても、実は「いつ地震が発生してもおかしくはない」断層であると考えてもいいでしょう。

■主要活断層帯(政府 地震調査研究推進本部)
https://www.jishin.go.jp/resource/terms/tm_major_active_fault_zone/

さて、そのような状況のなか、政府は今年1月に「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」のなかで「今後30年間に発生する確率3%以上」の断層31本をを「Sランク」の活断層として発表しました。

■今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧(政府 地震調査研究推進本部)
https://www.jishin.go.jp/main/choukihyoka/ichiran.pdf

出典:主要活断層の評価結果(政府 地震調査研究推進本部)
https://www.jishin.go.jp/evaluation/evaluation_summary/#danso

なかでも、以下の8つの断層については確率が8%を超え、阪神・淡路大震災の発生前よりも切迫度が高くなっているとしています。

【阪神・淡路大震災の発生前よりも切迫度が高くなっているSクラス断層帯】
(いずれも今後30年以内)

▽「糸魚川ー静岡構造線断層帯」(中北部区間) 14%~30%
▽「糸魚川ー静岡構造線断層帯」(北部区間) 0.009%~16%
▽「日奈久断層帯」(八代海区間) ほぼ0%~16%
▽「境峠・神谷断層帯」(主部) 0.02%~13%
▽「中央構造線断層帯」(石鎚山脈北縁西部区間) ほぼ0%~12%
▽「阿寺断層帯」(主部・北部) 6%~11%
▽「三浦半島断層帯」(主部/武山断層帯) 6%~11%
▽「安芸灘断層帯」 0.1%~10%

Sクラスの31本に次いで切迫度が高い「Aランク」の区間を含む活断層帯は、全国に35あるとしました。2016年に熊本地震を引き起こした「布田川断層帯」は、地震直前の評価で「Aランク」でした。また「不明」(すぐに地震が起きることが否定できない)とされている「Xランク」についても、地震本部では「たとえZランクと評価された活断層でも、活断層が存在していること自体、当該地域で大きな地震が発生する可能性を示すものであることから、活断層であることに留意する必要がある」としています。いずれにせよ、全国に114本ある「主要活断層」については日ごろから十分な備えが必要なことに、間違いはないでしょう。

4.BCPは来たるべき未来を書き換える必要な計画

【発災直後の様相】建物・人的被害

地震の揺れにより、約62.7万棟~約134.6万棟が全壊する。これに伴い、約3.8万人~約5.9万人の死者が発生する。また、建物倒壊に伴い救助を要する人が約14.1万人~約24.3万人発生する。

津波により、約13.2万棟~約16.9万棟が全壊する。これに伴い、約11.7万人~約22.4万人の死者が発生する。また、津波浸水に伴い救助を要する人が約2.6万人~約3.5万人発生する。

延焼火災を含む大規模な火災により、約4.7万棟~約75万棟が焼失する。これに伴い、約2.6千人~約2.2万人の死者が発生する。

これは内閣府が平成25年3月に発表した、「南海トラフ巨大地震の被害想定について (第二次報告)」から「発災直後の様相」を抜粋したものです。経済被害に至っては230兆円とも推定されています。BCPや防災活動は、この被害想定を少しずつ良い方向に書き換える作業といえるのではないでしょうか。もしも現在、BCP策定を躊躇している企業があれば、BCPは「万が一の時の備え」ではなく、「来るべき未来を、少しでも良い方向に書き換えるために必要な計画」と考え、取り組んでほしいと願っています。

以上

執筆 エス・ピー・ネットワーク総合研究部
専門研究員 大越

生22-1308,法人開拓戦略室

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